カドブン×note ショートストーリー投稿コンテスト「#一駅ぶんのおどろき」グランプリ作品発表!【第1回】
カドブン×note ショートストーリー投稿コンテスト「#一駅ぶんのおどろき」
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11月8日から約1ヶ月間、 noteさんとのコラボ企画「#一駅ぶんのおどろき」投稿コンテストが行われました。 通勤や通学の合間にスマホで手軽に読める、おどろきや発見があるショートストーリーを募集した本企画には、最終的に2014作もの応募がありました。素晴らしい作品をたくさん応募してくださって、本当にありがとうございました。
「グランプリ1名様、準グランプリ5名様、優秀作品複数名様」の予定でしたが、審査会での選考の結果、グランプリ2名、準グランプリは該当者なし、優秀作品8名という結果になりました。
カドブンでは、受賞作品を順次公開していきます。
まずは、グランプリ作品しのぶのさんの「選択支援指輪型人工知能」です!
◆ ◆ ◆
優夫はとても優柔不断な男だった。昼食を選ぶ時や服を買う時など一度悩みだすと止まらない。日が暮れるまで何時間でも悩んでしまう。
そんな自分を変えたいとも思っていた。 親に決められて通うことになった大学で、選択科目や友人関係にうじうじと悩んでいるうちに、気がつけば二度も留年してしまった。かつての同級生たちも来年には社会人だ。
このままでは周りにどんどん引き離されていく。 どうにかしてこの性格を直さなくては。 そう決心した優夫はようやくあの商品を買うことに決めた。それは高校生の頃から買おうかずっと悩んでいた、選択支援指輪型人工知能だ。
注文してすぐにそれは届いた。説明書を開く。
まずはこの指輪を左手の小指に装着してください。この指輪にはカメラや様々な測定器が内蔵されており、その映像やあなたのデータなどを参考に、あなたが選択すべき未来を人工知能が示します。
指輪はプラスチックのような材質で、宝石が飾られるべき場所に球形のカメラが設置されている。試しに装着してみると、サイズはピッタリだった。
本当にこんなもので優柔不断が直るのだろうか。 疑問に思った優夫が話しかける。
「今日の夕飯はどうしようかな」
すると指輪が緑色にピカリと光り、平坦な声で返事をした。
指輪の返事に感動し、おお、と思わず声がもれる。なるほど、自分の状態や周囲のお店を統合的に考えてサラダうどんがベストだと答えたのだ。 言われてみるとなんとなくサラダうどんが食べたかったような気がしてくる。 優夫は指定された通りのお店に入り、いつもなら何十分も悩むメニューをすんなりと決めた。悩まずに選んだご飯はいつもよりも断然うまい。
指輪をすっかり気に入った優夫はどんどん頼るようになった。
「今週末は何をしようか」
「朝早く起きて近くの公園を歩くのはどうでしょう。今の季節は空気が澄んでいて気持ちがいいですよ」
「大学に行きたくないなあ」
「今日の講義は期末試験で重要な内容のようです。あと五分でバスが到着しますよ。ほら、急いで」
「将来は何しようかな」
「こちらの資格取得がオススメです。今後発展が予想される分野で安定した職につけますよ」
指輪の提案はどれも素敵なもので、それに従っているだけで優夫の生活はより良くなっていった。運動が増え、食事もバランスが良くなったおかげでずいぶんスリムになった。
大学も順調に卒業し、資格も取得し有名な企業へ就職できた。もう指輪なしでは生きていけないと思えた。
次第に指輪はこちらが質問しなくても、色々な提案をしてくれるようになった。 「久々に晴れたので、布団を干して部屋を掃除してみませんか」
「こちらの洋服はいかがでしょうか、とてもお似合いになると思います」
自分で質問を考える必要もなくなり、とてもいい気分だった。指輪のいうとおりにしていれば何かを決めたり考えたりすることなく、毎日がより良い方向に動いていく。この素晴らしい商品を作った人はどんな人なんだろう。考えてみても全く想像がつかなかった。
同じ頃、結婚相談所に訪れた一人の女性が優夫の様子を眺めていた。 一日中カメラで監視でき、どんな指示にも従う男性、という売り文句がついている。 見た目はスマートで年収も良い。
女性は覚悟を決めて大金を支払い、優夫を紹介してもらうことにした。 相談所の職員が優夫の指輪に提案を送る。
「今日は天気がいいですね。近くのカフェに行きませんか。そこにあなたと相性がぴったりの女性がいます。声をかけてみてください。この方と結婚すればより良い生活が送れますよ」
「まさか結婚相手まで決めてくれるなんて」
何も知らない優夫は大喜びしてカフェへ出かけた。
◇ ◇ ◇
いかがでしたか?
数年後の未来を予言しているようなリアリティのある設定と、一見ハッピーエンド風のラストのぞわっとする皮肉ぶりが絶妙な作品でした。
明日は、もう一つのグランプリ作品「リボルバー」をお届けします。
お楽しみに~。
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