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連載

全部読んだか? 東野圭吾 vol.9

おっさんが大はしゃぎ!まるで子どもの東野圭吾がここに。 東野圭吾の11作品、怒濤のレビュー企画⑤『ちゃれんじ?』

全部読んだか? 東野圭吾

全部読んだか? 東野圭吾――第5回『ちゃれんじ?』

数ある東野圭吾作品。たくさん読んだという方にも、きっとまだ新しい出会いがあります。
超・殺人事件』刊行に合わせ、角川文庫の11作すべてのレビューを掲載!

(評者:西上心太 / 書評家)


東野圭吾『ちゃれんじ?』(角川文庫)

東野圭吾『ちゃれんじ?』(角川文庫)


 スノーボードにはまった〈おっさん〉が大はしゃぎで書いたエッセイ集、それが本書である。終わり! 
 わずか数行で済むのだが、それでは原稿料がいただけないので、もう少し続けましょう。
 このエッセイ集は実業之日本社の「月刊ジェイ・ノベル」(2002年5月号、7月号、12月号、2003年1月号、2003年3月号~2004年4月号)に掲載された18回分の連載を主に構成されている。3編目の「ワールドカップを見てきました!」は「SPORTS Yeah!」2002年046号掲載、最後の「おっさんスノーボーダー殺人事件」は、同社から刊行された親本のために書下ろされた小説だ。
 別のエッセイ集『たぶん最後の御挨拶』にも、2002年の暮から年明けにかけてスノーボード三昧だったと記されている。続けて、この費用を経費で落とせるようエッセイを書くことにしたといったら、皆からせこいと非難されたとも。それはまあ冗談半分(いや本気か)かもしれないが、最盛期はひと月のうち10日滑ったというほどスノーボードにはまりながら、この2年で3作ずつ計6作を上梓しているのだからすごい。
 2002年に実業之日本社から出した『レイクサイド』を執筆中のころ、酒場で出会った同社スノーボード雑誌の編集長M氏から、話しかけられ礼を言われたことがスノーボードを始めるきっかけとなったとある。同書担当のT女史はかつてM氏の部下であり、スノボー経験者でもあったので、とんとん拍子に話は進み、現上司のS編集長とともにゲレンデに一直線、となったようだ。
 ちなみにお二人とは仕事でもご一緒したことがあり、M氏とも顔見知りであるので、顔を思い浮かべながら読むとよけいにおかしい。後に登場するK川書店のE君とA君とも顔なじみで、スノーボードの話題をよく聞いたものだった。マイカーで彼女をゲレンデに連れて行き、スノーボードを教えるのが夢のA君に対し、まず彼女を見つけるのが先だろうと書いているのだが、そのA君もいまや三児の父である。スノーボード作戦が成功したのかなあ。
 40過ぎの(当時は44歳か)おっさんが、スキーの経験こそあるものの、若者のスポーツとみられがちだし、けっこう危険でもあるスノーボードに……、という躊躇した気持ちはどこへやら、あっという間に虜になってしまう様子が、実に、実に楽しそう。オフシーズンは近くにある屋内スキー場ザウスに通いつめ、そこが閉館になってからはシーズン到来を待ちわびる。まるで子どもである。
 ところがオフシーズンのエッセイのネタのためにと、申し込んだカーリング教室で悲劇は起こる。なんと氷上で転倒し、顔面を強打して額と鼻の裂傷、鼻骨骨折、前歯折れという重傷を負ってしまう。実はこの負傷からさして間を置かず、ある会合でサングラスで傷口を隠した東野さんを見ているのである。負傷から何日たっていたのかは覚えていないが、一目見て「痛そう」と感じる様相であった。
 しかしそんなアクシデントにはめげず、ジムで身体を動かしシーズンを待ちわびるのだ。何歳になっても新しいことに挑むことは、作家に限らず誰にとっても重要なことだろう。作風が広く、マンネリと無縁の東野圭吾の特質は、このような姿勢からもうかがえるのではないだろうか。

どんなスポーツにも、これでゴールインということはありえない。何かひとつ達成できたとしても、必ずまた新たな目標が生まれるものだ。そういうことを続けていけば、飽きるなんてことは絶対にない。結局のところ、飽きるとは挫折なのだ。(218ページ)

 スポーツを他のものに換えても成り立つ言葉であろう。さすが東野圭吾、爆笑エッセイでも締める時は締めるのである。

▼『ちゃれんじ?』詳細はこちら(KADOKAWAオフィシャルページ)
https://www.kadokawa.co.jp/product/200701000258/


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