角川文庫キャラ文通信
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大大大人気シリーズ「櫻子さんの足下には死体が埋まっている」の太田紫織さん、新作始動! 舞台は北海道・旭川。遺品整理士見習いの「僕」が新しい自分と居場所を探す、新感覚謎解き物語です。作品に込めた思いをうかがいました!
『涙雨の季節に蒐集家は、』太田紫織インタビュー
――まずは、本作が生まれたきっかけを教えてください。
太田:『櫻子さんの足下には死体が埋まっている』や『昨日の僕が僕を殺す』を書くために法医学や骨、民俗学等について随分調べたのですが、その時に「葬儀」「喪」についての本を読む機会も多く、日本のお弔いの形に興味が湧いた事や、私も年齢を重ねて『見送る』機会が増え、終活や生前整理などという言葉と向き合って行かなければならないと思った時、支えてくれる人達のプロ意識に触れ、それを物語として描いていきたいなと強く感じました。
それに特に最近、世の中に生き辛さや、息苦しさを、強く感じる機会が増えてきたような気がします。痛みを抱える事や立ち止まる事、間違ってしまう事が悪のように責める声ばかり耳に届きやすいけれど、でも本来迷う事も人生で、迷うからこそ見つかる道もあると思うから、疲れて先に進めないと思った時、本を開いて雨宿りして貰えるような、そんな作品を書きたいなと思ったんです。
――主人公の
太田:やっぱり人間模様、でしょうか?
友人が「結婚式と出産と葬式の時の不満って、一生忘れない」と言っていたんですが、確かに別れの現場というのは一生心に残るものだし、普段見えない部分が剥き出しになってしまうような、『感情が溢れる』場所だと思うんです。
中でも『遺品』には、故人の人生や想いが残されているし、受け取る側もそれを愛憎を持って手にする訳ですから、様々な思いが交差すると思います。
それをミュゲ社の個性的な面々と、ちょっぴり感受性豊かすぎる青音を通して、一緒に一喜一憂していただけたら幸いです。
あと今はなかなか旅行のままならない世の中なので、せめて本の中で北海道の風景と美味しいご飯を楽しんでいただきたいです!(キャンプも行くよ!)
――このご時世にぴったりの物語でもあるのですね! 今太田さんが旅行で一番行きたい北海道の場所を教えてください。
太田:知床の方とかいいですね。前に行った時は鯨を見る事が出来なかったので。
十勝に住んでいた事があるから余計ですが、北海道の東側は風景も食べ物も美味しいので、時々無性に行きたくなります。少し長めの予定を組んで、ゆっくり温泉やコテージを巡る旅がしたいです。
あとは勿論旭川周辺ですね。今年のお墓参りも感染状況を見つつ……になりそうですが、行った時はここには絶対寄って、これを食べて……と予定を組むと、身体が三つくらい必要になってしまって、本気で悩んでいます。
――特に思い入れのあるキャラクターはいますか? またその理由も教えてください。
太田:一番得体が知れないというか、書いていてわくわくするのは村雨姉弟ではあるんですが、青音は今まで描いてきた主人公の中で、随一の感受性を持った男の子なので。今までとは違う詩的な表現や、風景を書く事が出来るので、文章を書く上で私自身が楽しいです(笑)。
それと「櫻子」から続投の、ミュゲ社の『彼』でしょうか。「櫻子」では優しいけれどそれ故に不幸になってしまったのが、ずっと心残りで。だから今回は幸せにしてあげたいなぁと思っています。
――今後、このお話で書いてみたいことはなんですか。
太田:青音の出生の秘密や、紫苑の秘密でしょうか。
「櫻子」では明かされなかった花房の秘密も、青音を通じて明らかになるかもしれません。
あと個人的に、いままで書けなかった北海道の市町村を舞台にしていきたいです。
――お、具体的にはどこでしょうか?
太田:稚内周辺ですね。
旭川は一応道北エリアに属するんですが、『櫻子』でも旭川より北の街はあんまり舞台に出来なかったので。私自身が稚内の近くに住んでいた事もあるので、海沿いの綺麗な風景なんかを、もっともっと書いていきたいと思ってます。
青音には、宗谷岬でほたてラーメンを啜らせたいです。これからの時季、可愛いアルメリアの花がいっぱい咲いていて綺麗なんですよ。
――素敵なお話をたっぷりとありがとうございました! それでは最後に、読者に一言メッセージをお願いします。
太田:太田作品中、随一の感受性と涙腺の弱さを誇る青音ですが、青音と一緒に泣いて、笑って、すっきりしていただけたら嬉しいなと思っています。
「櫻子」シリーズでは書き切れなかった『遺族』の先の人生を、雨宿りの後の晴れた空の下の風景を、見守っていただけたら幸いです。
▼太田紫織『涙雨の季節に蒐集家は、』詳細はこちら(KADOKAWAオフィシャルページ)
https://www.kadokawa.co.jp/product/322103000577/