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レビュー

文豪たちに学ぶ、「おばけ」との距離感の「正解」――東雅夫『文豪と怪奇』 書評:朝霧カフカ

あの文豪も「おばけずき」!怪談の第一人者が綴る、文豪×怪奇の世界の魅力
東雅夫『文豪と怪奇』

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東雅夫『文豪と怪奇



書評:朝霧カフカ

 皆さん、「おばけ」との距離感、どうしてますか?

 まず、おばけを信じる・信じないがありますね。それから好き・嫌いもある。この2つは決して一対一で対応しない。信じる+好き、信じる+嫌いの組み合わせもあれば、「信じないから好き」というのもありうる。完全にフィクションとして楽しむという考え方ですね。
 さて、それでは質問。
「おばけ」に関するあなたのスタンスは、この現代社会において、正解でしょうか?

 スタンスに正解も何もないだろ。そう言われそうです。おばけを信じようが信じまいが各個人の自由だし、好きも嫌いも誰かに強制されることじゃない。
 その通り。たいていの事柄についてはそうです。
 ですが、「おばけ」はちょっと難しい。
 何故なら、根拠を求められるからです。

「おばけ、信じる?」というありふれた問い。それに対して「信じるor信じない」と答えます。すると次には「どうして?」と来るんです。
 理由を振られるんです。
 そんなん「なんとなく」でいいだろ……と、今回はそう簡単には収まらない。何故なら、そもそも「おばけ信じる?」という質問は、話をふくらませるための問いかけ、話題の最初の振りだからです。「なんとなく」だと、話がしぼんでしまいます。信じるでも信じないでもいいんです。ただしその後「だってさあ──」「いやいや私は──」という話題の掛け合いを期待されている。
 それが「おばけ」です。

 こういう種類の質問は意外と特殊です。超能力も、ネッシーも、陰謀論も、こういう話題端緒的な需要を満たしてはくれません。前世、宇宙人もちょっと弱い。おばけだけが特殊で特別なのです。

 よって、ここまでの話を総合すると、こうです。
『現代人は、おばけに対するスタンスを、説明可能な状態で保有していなくてはならない』──。
 おばけという話題に対する「正解」とは、つまり、そういうことです。

 そして少し考えていただけば分かるとおり、これが結構難しい。
 おばけを信じる人が、その根拠を語ったところで、主観だとか共感不能だと言われがちですし、逆におばけを信じないぞ、という話も、たいていは科学で証明されていないからという、感情的には引っかかりのない論説になりがちです。
 でも繰り返しますが、それだと「面白くない」のです。
おばけ、信じる? という質問の発信者は、相手がどっちの答えだろうと問題はないのです。
ただ知りたいだけ。
 おばけについて話せたらと思っているだけなのですから。

 この難しい質問、どう答えるか。
 そこで本書です。
『文豪と怪奇』。
 言い切ってしまいましょう。ここには「正解」が載っています。
 おばけに対し、どんな距離感でいればいいか。どんな距離感でいるのが美しいのか。そしてその距離感を、どう他者に語ればいいのか。
 泉鏡花、芥川龍之介、夏目漱石、小泉八雲、小川未明、岡本綺堂、佐藤春夫、林芙美子、太宰治、澁澤龍彦。
 名だたる神々のような文豪たちの、「おばけ」へのスタンス。それは決して一律ではありません。わりとバラバラです。小泉八雲のように「おばけとともに生き、おばけとともに去りぬ」みたいな人もいれば、澁澤龍彦のように懐疑的、合理的であり、かつ「謎は謎のままでよい」という距離感の文豪もいる。
 共通していることはひとつ。
 彼らには、「スタンス」がある。確かな距離感があり、そこにちゃんと根拠や信念があるのです。
 つまり、現代人が求めてやまない「正解」です。

「おばけってさあ、俺は結局こう思うんだよね。たとえば澁澤龍彦がさ──」
「怪奇って素敵だと思うの。だって太宰治だってこう言ってるし──」
 どうでしょう。話のフリに対する返しとして、ものすごく「強い」感じがしませんか。

 他人の意見のコピーじゃなく自分の意見を持てや、と言われる向きも当然あるでしょう。しかし忙しい現代で、おばけの実在性や、その説明の面白さについて滾々と考えろと無理強いするのは、さすがに酷といいますか。全人類にできることじゃないですよね。大のおばけ好き、大のおばけ嫌いという方は苦労ないにしても、大抵はその中間、広大なグラデーションのどこかにぽつんと立っているわけです。しかもそこに大した根拠があるわけじゃない。となると、優しい処方箋のひとつくらい、握りしめたくなるというものです。

 そして本書が処方箋。
 あなたが求める「おばけに対するスタンスの正解」、この本の中にあります。
 一度手にとってみてはいかがでしょうか。

作品紹介・あらすじ



文豪と怪奇
著者 東 雅夫
定価: 2,090円(本体1,900円+税)
発売日:2022年11月30日

あの文豪も「おばけずき」!怪談の第一人者が綴る、文豪×怪奇の世界の魅力
なぜ、文豪たちは「おばけ」が好きなのか!? 
文豪たちが遭遇したリアルな怪異エピソード×アンソロジー×評伝・読書ガイドのトリプル構成で迫る、誰も知らない、文豪の世界。

史上名高い文豪たちは、何故かそろって「おばけずき」だった!
怪奇譚の側面から文豪の生涯・著作を紐解いた画期的文豪案内。
文豪の人生そのものと「怪奇」との関わりを追求した、メイン本文パートである評論エッセイ(文豪たちが遭遇したリアルな怪異エピソード多数!)、かれら自身の言葉で「怪奇」の世界、著作のエッセンスを堪能できるミニ・アンソロジー(懇切丁寧な書き下ろし解題付き)、更に世界を深め読み手の世界を広げる評伝・読書案内で、各文豪の魅力に迫る!
図版も多数掲載。
【収録文豪】泉鏡花、芥川龍之介、夏目漱石、小泉八雲、小川未明、岡本綺堂、佐藤春夫、林芙美子、太宰治、澁澤龍彦

詳細:https://www.kadokawa.co.jp/product/322104000678/
amazonページはこちら


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