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『7年』こがらし輪音著 書評
評者: 北上次郎
おいおい、と思わず笑ってしまった。照夫が34歳のとき、部下のミスをカバーする案を上司に提案する場面である。「これは君自身の将来に関わることなんだぞ? 君の失態が社長の耳に届いたら、君の進退は一体どうなることか」と部長に言われて、「どうでもいいでしょう、あんな面倒臭いオッサン」とこの男は声をあらげるのである。あとで部下から「あの、課長、流石にさっきのはまずいんじゃ」と言われてしまうのだが、そのときの照夫の返事がサイコーだ。「かもな。明日の俺がちゃんと責任を取ってくれることを祈るよ」。ここで、おいおい、と笑ってしまったのである。
これには少し説明が必要だ。照夫はタイムスリップを繰り返しているのである。しかもタイムスリップするたびに7年過去に飛ぶ。その過去に滞在するのは1日だけ。夜の12時を過ぎるとまた7年前に飛ぶ。48歳から始まって、最後は0歳。これはそういう小説だ
過去に飛ぶたびに彼は自分の過ちを訂正する。妻にやさしくなり、息子の話を聞き、部下の言い分に耳を傾ける。それまでの照夫がまったくしてこなかったことだ。48歳の照夫はリストラ寸前にあり、妻は浮気し、子供たちは言うことを聞かず家庭は崩壊していた。どうしてそうなってしまったのか、照夫にはわからない。確実なのは、それまでの人生のあらゆる局面で照夫が間違ったほうを選択していた、ということだ。だから、その結果としてこうなってしまった。そういうときに、突如としてタイムスリップが始まるのである。つまり、彼にとって人生をやり直すチャンスだ。これまでとは逆のことをすればいい。いや、しなければならない。というわけで、贖罪の旅が始まっていく。
34歳のときに部下をかばうのも、そういう再チャレンジ人生のためにほかならない。はたして照夫の再チャレンジはうまくいくか——という小説だから、これは中年男の夢の小説ともいえそうだ。
48年間も生きてくれば、照夫ほど状況がひどくなくても、誰ひとりの例外もなく、未練と後悔を抱えている。実際の人生で私たちは、それまでの生をやり直すことは出来ない。しかし、もしやり直し出来るならば、どうするか。この設問は素晴らしい。中年以降の読者なら誰もがくらくらする。
7年飛ぶ、というのがいい。あの瞬間に戻りたい、という希望は聞いてもらえないのだ。過去に飛ぶのは7年置き。しかも滞在できるのは1日だけだから、やり直すことも限られてくる。さあ、どうする? そう思いながら、ページをどんどんめくっていくのである。
作品紹介
7年
著者 こがらし 輪音
定価: 1,760円(本体1,600円+税)
目覚めると7年前。俺はタイムリープで人生を変えられるか?
これぞ新しいタイムリープノベル。
電撃小説大賞受賞の著者が贈る感動作!
2020年10月、新型コロナウイルスが蔓延し世界が混迷を深める中、上司や部下にも見放され、家庭も崩壊――。何もかもうまくいかず、ついに急性肝炎で入院してしまった
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