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レビュー

熱狂的ファン多数「禁止シリーズ」最新作は、「“愛される”という悲劇」がテーマ! 『恋愛禁止』

書評家・作家・専門家が《新刊》をご紹介!
本選びにお役立てください。

(評者:瀧井朝世 / ライター)

 深夜番組「放送禁止」シリーズで人気を博した放送作家、長江俊和。最近では小説も精力的に執筆し、『出版禁止』『出版禁止 死刑囚の歌』などでは作中にさまざまな仕掛けを施し、読者が謎解きに挑戦する面白さを教えてくれた。ただ、そうしたゲーム性のある作品でも、謎が解けた瞬間に登場人物の誰かしらの切実な思いを浮かび上がらせ、深い余韻を残している。
 新作『恋愛禁止』は読む際に紙とペンの用意は不要。ただし、人の心という大きな迷宮に読者を誘う作品になっている。読めば読むほど気になるのは、事件の真相だけでなく、“愛する”とはどういうことか、という謎についてである。
 最初に提示されるのはふたつの新聞記事。ひとつは令和元年十月二十三日の記事で、千葉の森林から女性の遺体が見つかった、というもの。もうひとつは令和二年三月五日の記事で、先の記事の容疑者が捕まったが、事件の経緯などについての詳細な供述は得られていない、というもの。被害者、容疑者の名前は明かされておらず、読者は一体誰が誰に殺されたのか、その動機は何かという謎を突きつけられてページをめくることになる。
 本編の主人公は木村瑞帆という女性だ。静岡県で生まれ育った彼女は、高校時代に担任の青年教師、倉島隆と恋仲に。彼の厳しい束縛にも甘んじ、卒業後も交際を続けていた彼女だが、とある事実を知ってようやく目が覚めて別れを決意。しかしその後も彼に執拗に追い回されたため、当時の職を辞して千葉に逃れてきた。新たな職を得て平穏に暮らしていたが、三年後、再び彼が目の前に現れる。ナイフまで持ち出して復縁を迫る彼を思わず刺してしまい、殺したと確信してそのまま逃げた瑞帆。奇妙なことに、翌日になっても殺人事件の報道はなく、現場に戻っても何の形跡もない。だが、その日以来、倉島からの連絡は途絶えたのだった。訝しく思いながらもやがて結婚し、娘を生んだ瑞帆のもとに、謎の人物からのメールが届く……。
 彼女の人生を大きく変えた男は三人いる。一人は束縛し、自分を愛することを強要した男。一人は穏やかに寄り添ってくれる男。そしてもう一人は……。それぞれが瑞帆のことを愛しているが、その形はまったく違う。そこで先述の通り、ふと考えてしまうのだ。“愛する”ってなんだろう? と。
 相手の気持ちや都合を考えずに見返りを求めるのは、愛とは違う。それは身勝手な支配欲や自己承認欲求の表出に過ぎないのではないか。かといって、何の見返りも求めずに相手に尽くす愛は、美しいという印象をもたれがちではあるが、相手の都合を考えていないのであれば、これもまた身勝手な自己愛の表出に過ぎないのではないだろうか。また、崇め奉るだけで満足できなくなり、報われたいという願望が少しでも生じたら、見返りをくれない相手に不満をおぼえるのではないか。
 と、冷静に考えれば、作中で描かれる男たちの瑞帆への感情のなかには、愛とはいえないような、非常にいびつなものもあると理解できる。ただ、正しい恋愛というものがあるわけでないのも事実だ。合理的に説明できない好みやフェティシズムが作用して起きる感情の高まりの在り方は千差万別。周囲を見渡してみると、そんないびつな愛、あるいは愛かもしれないものが世の中にはあふれ、そこでさまざまな感情のぶつかり合い、傷つけ合いが生じている。作中の男たちの愛し方は、決して特殊な事例といえない。
 誰もが多かれ少なかれ愛したい、愛されたいと願いながら生きている世の中。愛によって得られるものは多いが、また愛によって失うものも多い。そして瑞帆も愛という名のもとに、悪夢に見舞われてしまったのだ。
 愛されるって、恐ろしい。


長江俊和『恋愛禁止』(KADOKAWA)

長江俊和『恋愛禁止』(KADOKAWA)


長江俊和恋愛禁止』の詳細はこちら(KADOKAWAオフィシャルページ)
https://www.kadokawa.co.jp/product/321709000390/


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