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レビュー

物語を楽しむ読者にも、祝福をおすそわけ 『まれびとパレード』

 タイトルを目にした瞬間、勘のいい人はピンと来るかもしれない。全四編の目次の後に掲げられたエピグラフを読めば、そうか、ということは……と想像を巡らせることになるだろう。そのエピグラフは、民俗学者・折口信夫(おりくちしのぶ)の論文『「とこよ」と「まれびと」と』から引用されている。折口民俗学の核をなす「まれびと」すなわち異郷からの来訪者が、この本の中で「パレード」する。越谷オサムの最新刊は、そんなコンセプトによって編まれた短編集だ。なんだか怖そう? いやいやいや。どのお話も、めっぽうかわいい。ちょっと不思議でせつなさの香る、まれびとというモチーフは、越谷オサムの作家性とどんぴしゃでマッチしている。
 第一編「Surfin'Of The Dead(邦題:サーフィンゾンビ)」の舞台は、かつてサバ漁で栄えながらも数年前から不漁が続き、町全体から活気が失われたロメロヶ浜。東京でOLをしていた三十歳のミナミは、漁協職員と二年前に結婚して帰郷し、今は廃業寸前の実家の食堂を手伝っている。昔なじみのコータ先輩が海で波にさらわれ行方不明になって、明日が一周忌。砂浜でほんのり感傷に浸っていると、その年最大級のビッグウェーブに乗ってサーファーが現れた。「おーい」と声をあげ自分に向かって手を振ってきたものだから、ミナミは目を凝らした。〈幅の広い肩。穿()き古したサーフショーツ。潮に洗われたクシャクシャの髪。白い歯。シルエットは美しいけれど極端に血色の悪い、筋肉質の腐った体。/腐った体——!?〉。ノリツッコミの一行で、くすっと来る。そして、世界がぐらっと変わる。
 海からやって来たゾンビはもちろん、コータ先輩だ。ミナミは戸惑いながらも、彼の存在を受け入れる。生前と、中身が何も変わっていなかったからだ。「案外悪くないんだよ、生ける(しかばね)ライフ。腹減らないし、真冬の海でも寒さ感じないし」「あんたほんっと、ちゃらんぽらんだよね」。一周忌にあたる翌日も、二人は海で再会し、なにげない会話を交わす。気心の知れた二人だからこそ飛び出す、「死んでもやだ」「バカは死んでも治らない」という定型句が、コータ先輩の現状と絶妙にシンクロしてしまい、笑い、そしてせつなくなる。
 二人の間に再びの別れが訪れた時、もう一度、世界が変わる。海辺の町についての繊細な描写で、読者の脳内に鮮やかな風景を立ち上げ、会話の中で遊びをまき散らしながらも、パズルのピースを最後に全てぱちっとはめる。作家のキャリアを振り返ってみても、特別な輝きを放つ名短編だ。
 以降の収録作も粒ぞろい。第二編「弟のデート」では、恋愛に奥手な高校一年生のヒロインが、いじめを受けて引きこもりになった中学一年生の弟の、まさかの恋愛対象に驚くのも束の間、私利私欲から二人の関係維持に奔走する。胸キュン度合いは、これがベストか。いつも一緒に暮らしている家族は笑い方が同じになる、というエピソードがもたらすかすかなサプライズにもぐっとくる。第三編「泥侍」は、市役所の若手男性職員が、ショッピングモールの建設予定地で「返せエエェェェ」と叫ぶ裸の男とご対面。話をするうちに男との奇縁が判明し、意外な共闘関係が芽生えていく。シチュエーションコメディとしての展開の回転数は、この作品が一番激しい。オタクが、「好き」が世界を救う、という過去作にも何度か登場したテーマが、重要なシーンでばっちり決まっている。第四編「ジャッキーズの夜ふかし」は、仏像好きなら一度は胸に抱いたことのある、とある存在への憐憫(れんびん)が物語へと昇華している。人はまれびとと出会う時、生者の前では閉じたままにしている心の扉を、自らの手で開けるのかもしれない。その立場を一八〇度変え、まれびとが人と出会う際の心理を見つめてみたらどうなるか? チャーミングな想像力は、これがベスト。
 折口信夫によれば、まれびとは人々に祝福を与えて去っていくという。四つの物語を楽しむ読者にも、おすそわけが届くこと、保証します。

>>越谷オサム『まれびとパレード』


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