【カドブンレビュー×カドフェス最強決定戦2017】
上場を控えた企業で社長が殺害された。被疑者の弁護士・青砥純子と、防犯コンサルタント・榎本径のコンビが密室殺人の謎に挑む。
話は登場人物の1人である警備員の描写から始まる。そこから、物語が進むにつれ、他の登場人物の視点へと変わり、さまざまな観点から事件当時の様子が描かれていく。
弁護士の純子はどちらかというと発想で密室のトリックを解き明かそうとするタイプだが、防犯コンサルタントの榎本は、自身の防犯知識に基づいて、どこに付け入る隙があるのかを緻密に検討していく。異なるアプローチだが、共通しているのは熱量だ。純子は被疑者の無実を証明するための熱量、榎本は密室という謎を解くことへの熱量がある。
この物語に一番惹かれたポイントは、トリックを検証するプロセスである。ひとつひとつの可能性をしっかり検証するために、密室への侵入ルートの洗いだし、そのルートが機能しなかった理由とその根拠の確認をするなど……あらゆる推理の仮説や前提を構築し、その裏を取りに行く、正に泥臭いというにふさわしい理詰めを味わうことができるのだ。余談だが、私自身の仕事は自由度が高く、実現可能な選択肢を洗い出し、それぞれを緻密に検証するというプロセスを経ることが多いのだが、この本を読んでいる感覚はまさにそれに近かった。故に、この本を読み進めているうちに「この推理が妥当だろう」という私の信頼できる筋が、検証段階で不可能なことが分かり振り出しに戻るというところは、仕事で同様の場面に出くわし落胆する心情と同じであった。この本を読み終わったときは、大仕事を終えたような清々しい達成感が味わえたが、それは単にトリックの謎が解けただけの感覚ではない。足元が悪く歩きにくい山をじりじりと登り、山頂にたどり着いたと同時に霧も晴れたような、達成感とスッキリ感を味わえるのだ!
また、防犯コンサルタントと名乗りつつも他人の部屋や住居に、物理的にも心理的にもすんなり入る榎本だが、その時折見せる悪い顔が、正義を貫く推理小説とはまた一味違った面白さを出している。そこについて純子は、ギリギリのラインで見て見ぬふりをするようにあえて深く聞かないよう、追及しないようにしているのもまた、職業を越えた名コンビらしさを感じる。
物語が進むにつれ、お互いの特性を理解していったのか、2人の掛け合いも息があって物語が進んでいるように思う。この息のあう様に注目すると、名コンビ誕生の成り立ちを眺めているようで微笑ましく感じる。
物語の構成としては、前半に事件の概要や捜査の様子が描かれているが、一転して後半は犯人の犯行に至るまでの半生を追い、犯行当日までの動機の形成や用意周到に密室殺人のトリックを作る様はもちろん、犯行後の緊張感まで緻密に描かれている。物語の前半と後半とでスコープは異なるものの、論理を積み重ねていく過程こそがこの本に共通した面白さだとひしひしと感じた。
疲れた! 面白い!