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レビュー

ようこそ、化け物だらけのダンジョンへ 『迷い家』

 昨年公開されて以来、異例のロングランを続けているアニメーション映画『この世界の片隅に』(片渕須直監督)で、個人的にいちばん印象に残ったのは、ヤマビトやザシキワラシを彷彿させるような妖怪めく存在(映画では前者は「ばけもの」と呼ばれている)が冒頭近くに、意外に大切な役まわりで登場することだった。
 戦時中の庶民生活を丹念な手つきで活写した映画の中に、『遠野物語』(柳田國男著)でおなじみの異界のモノが、ひょいと姿を顕わし、ボーイ・ミーツ・ガールのお膳立てを調えて、そそくさと退場する……おばけずきの琴線(きんせん)を揺るがす趣向の妙と感じ入った。
 第二十四回「日本ホラー小説大賞」で優秀賞に輝いた山吹静吽(やまぶきせいうん)の長篇『迷い()』は、「戦時中の庶民生活」「遠野物語」「ボーイ・ミーツ・ガール」という三点セットにおいて、はからずも『この世界の片隅に』と軌を一にしていることを、まずは指摘しておきたい。
 もっとも、こと妖怪趣味の点においては(ホラー小説なのだから当然だが)、本書のほうが、はるかに本格的である。
 舞台は岩手県遠野地方をモデルにしたとおぼしき東北の寒村・古森塚(こもりづか)。国民学校六年生の冬野心造(とうのしんぞう)は、一九四五年三月の東京大空襲で両親を(うしな)い、この地に集団疎開していた妹の真那子(まなこ)に合流する。熱烈な軍国少年である心造は、本土決戦が近いことを疑わず、空襲の惨禍を知らない同地の人々に歯がゆさと焦燥をつのらせる。
 そんなある日、真那子が、上級生の彩織香苗(あやおりかなえ)とともに宿舎から姿を消す。香苗もまた東京大空襲を生きのびて古森塚にやってきた生徒だった。二人は徒歩で東京に向かったものと考えられたが、その足取りは(よう)として不明。五日後、香苗だけが山麓の防空壕で発見されるが、真那子とは「山の中の大きな家」で、はぐれたと語る。妹を見つけ出そうと、心造はガキ大将の孝兵(こうへい)に案内され、霊山として畏怖される霞眩山(かくら)へ分け入る。濃霧の彼方、二人の少年の前に姿を顕わしたのは、広大な(ふき)の原に囲まれた巨大な屋敷だった……。
 そう、本書のタイトルにもなっている「マヨイガ」だ。『遠野物語』によれば——「遠野にては山中の不思議なる家をマヨイガという。マヨイガに行き当りたる者は、必ずその家の内の什器(じゅうき)家畜何にてもあれ持ち出でて来べきものなり。その人に授けんがためにかかる家をば見するなり」とあるが、本書におけるマヨイガは、そんな、なまやさしいものではない。そこには、有史以来のありとあらゆる霊宝の類が(あつ)められているが、同時に、人を喰らう化け物や死霊たちの巣窟でもある。そして屋敷を囲む時空の歪みによって、一度そこに足を踏み入れた者は、二度と外の世界へ出ることができないのだ……すなわち作者は、マヨイガを化け物だらけのダンジョン(牢獄)として再創造しているのである。
 徒手空拳で屋敷に囚われの身となった心造は、化け物に襲われ間一髪のところを、「しっぺい太郎」と名のる不思議な獣に救われるのだが……このあたりの展開は、選評中で綾辻行人氏が「日本中のありとあらゆる(あやかし)が棲みついているその屋敷内でのRPG的な冒険活劇も、藤田和日郎の傑作漫画『うしおととら』を思い出させつつ、面白く読ませる」と指摘するとおりで、山姥(やまうば)、河童、ろくろ首、雪女、天狗といったメジャー妖怪たちの斬新な解釈といい、屋敷のそこここに多種多様な妖異伝承をデータ化してちりばめる壮図といい、まさに「古い怪談や伝承の力を結集し現代ホラー界に殴り込みをかけてやろう」(「受賞の言葉」より)という破天荒な覇気を随処に感じさせる渾身の力作となっている。まあ、破天荒にすぎて粗けずりな感も否めず、それが優秀賞に留まった所以かも知れないが、おばけずき読者にとっては十二分に愉しめる好著だろう。
 全篇にみなぎる怪奇と異界への情熱は本物だ。今後の活躍が期待される逸材である。


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