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レビュー

人気シリーズ絶好調。父子の剣が悪を討つ!

 なんという波乱万丈。いや、千野隆司の「入り婿侍商い帖」シリーズのことである。主人公の角次郎(かくじろう)の人生が、とにかく波乱に富んでいるのだ。
 旗本・五月女(さおとめ)家の次男だったが、縁あって舂米(つきごめ)屋「大黒屋」に婿入りした角次郎。しかし商売は芳しくなく、女房になったお万季(まき)は、過去のある事件が原因で、口をきけないでいた。それでも真っ直ぐな心で、商売に精を出す角次郎。騒動を経て関宿藩の御用達になり、新米の輸送競技〝新米番船〟では二番に入るなど、ようやく商売は順調になった。お万季も話ができるようになる。だが大火事により店舗が消失。それすらも乗り越えて角次郎は、「大黒屋」を、米問屋として発展させていくのだった。
 というのが、第六巻までの簡単な粗筋だ。そして続く第七巻から九巻にわたる「出仕秘命」篇で、シリーズは驚くべき展開を迎える。角次郎の兄が殺されたことで、彼は実家に戻り、家督を継ぐのだ。勘定方として働きながら、兄の死の真相を追う角次郎は、ついに巨悪を倒す。その後、お万季との間に生まれた息子の善太郎を五月女家の跡取りにすると、自身は隠居して、「大黒屋」に戻るのだ。武士→商人→武士→商人と、このように身分の変転する主人公も珍しい。
 さて、以上のことを踏まえて、シリーズの新たな物語が始まった。『入り婿侍商い帖 大目付御用(一)』である。ストーリーには大きな流れがふたつある。ひとつは、さらなる商いの成長を目指す「大黒屋」が、家族同然の付き合いをしている米問屋「羽前(うぜん)屋」と組んで、札差(ふださし)株を手に入れようとする件だ。すんなり行くかと思いきや、横槍が入り、しかもその裏には大店(おおだな)の思惑があるらしい。
 もうひとつが、老中・土井利厚(としあつ)が藩主をしている下総古河藩のお家騒動である。将軍が閲覧した訴状を切っかけに、懇意にしている大目付の中川忠英(ただてるから調査を依頼された角次郎は、すぐさま動き出す。訴状を出した名主の(せがれ)が殺されたことから、角次郎の剣友で、南町奉行所定廻り同心の嶋津惣右介(そうすけ)もかかわってきた。そして角次郎は、息子の善太郎と共に、古河に向かうのである。
 本書は全三話で構成されていて、江戸→古河→江戸と、一話ごとに舞台が変わる。まず江戸で下調べをした角次郎が、古河で息子ともども窮地に陥りながら、調査を進める。主人公の地道な探索により、徐々に一連の騒動の輪郭が明らかになっていくのだ。また、当初は無関係に見えた札差株の件も、こちらの騒動に絡んでくる。興趣に満ちたストーリーをテンポよく読ませる、作者の語りが素晴らしい。
 さらに本書で留意したいのが、角次郎の子供たちの成長だ。本来は「大黒屋」の跡取りのはずが、五月女家を継ぐことになった善太郎。まだ無役だが、元服を済ませた彼は、気持ちのいい若者になった。父親の薫陶を受け商いについても学び、直心影(じきしんかげ)流の剣の腕も悪くない。破落戸(ごろつき)四人を退治するなど、たいしたものだ。しかし慢心はなく、敵わない相手だと思えば逃げることも厭わない。歳に似合わぬ、思慮分別の持ち主なのだ。
 そんな善太郎が、父親と共に赴いた古河の地で、厳しい現実を知り、命のやり取りをする。この体験により、さらに大きな人間になっていくことだろう。
 ついでにいえば、善太郎の後に生まれたお波津(はつ)も、父親に苦言を呈するほど成長した。シリーズを読み続けてきた人ならば、あの善太郎やお波津が立派になってという、感慨を抱いてしまうのだ。シリーズ愛読者ならではの楽しみが、ここにある。
 古河藩を巡る騒動は、本書で一段落した。しかしタイトルにある〝(一)〟が気になる。話が続くのか。新たな味方を得て、新たな敵を作った角次郎と、「大黒屋」はどうなるのか。早くも次巻が、待ち遠しいのである。


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