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著者の本線となるべき読みどころ満載な一冊。シリーズ化を熱望。――『最後の鑑定人』岩井圭也 レビュー【評者:北上次郎】

業界の注目を集める新鋭が正面から挑む、サイエンス×ミステリ!
『最後の鑑定人』岩井圭也

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最後の鑑定人』岩井圭也



著者の本線となるべき読みどころ満載な一冊。シリーズ化を熱望

評者:北上次郎

 これは面白い。著者は金脈を掘り当てたのではないか。
 本書『最後の鑑定人』の主人公は、土門誠。土門鑑定所の所長である。もっとも所員は土門誠のみ。あとは、秘書兼技官の高倉柊子だけ。土門鑑定所のウェブサイトには、次のように書かれている。

〈当鑑定所では、法科学の観点から適切な手法を用いて、中立的に科学鑑定を行います。情報科学、生物学、化学、心理学、人文科学等、多面的な観点からアプローチいたします。刑事・民事は問いません。料金は別途相談〉

 たとえば最初に持ち込まれる依頼は、殺人事件の容疑者として逮捕された青年が現場近くの防犯カメラに映っていたとされる証拠映像の再解析だ。土門誠は鋭い分析から、容疑者の無実を証言する。もちろんこれだけでは終わらない。現場にいないことが証明されても、遺体に残された精液のDNAが容疑者のものであるとの証拠がたち塞がるのだ。この壁を土門誠がいかにクリアしていくかが最初の中編「遺された痕」の読みどころである。
 紹介するのが遅れたが、本書は四つの中編をおさめた連作集だ。収録の作品に共通しているのは「科学は嘘をつかない」ということで、この思想が全編を貫いている。土門誠は、警視庁の科学捜査研究所にいた「最後の鑑定人」で、これは「土門誠に鑑定できない証拠物なら、他の誰にも鑑定できない」と言われていたことから付けられた通称である。あることから科捜研をやめた土門が(やめた事情については少しあとで語られる)始めたのが土門鑑定所で、技術は間違いないが、人柄は独特だな、と言われる土門誠の天才的なひらめきと鑑定技術で、持ち込まれる謎を名探偵のように解いていくのが本書だ。
 著者の岩井圭也は、『永遠についての証明』で第9回の野性時代フロンティア文学賞を受賞して2018年にデビュー。あれから4年しかまだたってないことに驚く。というのは、その後の活躍ぶりが顕著だからだ。これまで8作の小説を刊行してきて、本書が9作目になるが、これまでの8作がどれも面白いという珍しいタイプの作家である。普通8作も書けば、2~3作の外れはあるものだ。それが極端に少ないのは見事。その中には、異色の青春小説『水よ踊れ』、水銀を飲む一族を描く『竜血の山』など、強い印象を残している作品もある。
 しかし、まだデビュー4年ということもあり、さまざまなタイプの作品を書いていて、どれが本線なのかまだ明確になっていない。新刊が出てくるたびに、今度は何を書いてくれたんだろうとびっくり箱を開けるような楽しみがあるから、これでも十分なのだが、そろそろホームとなる作品があってもいいのではないか、と思っていた。岩井圭也は今後もさまざまな作品を書いていくだろうが、そういう作品を書きながらも時々は還ってくる場所があってもいい――そんな気がするのだ。本書はそういう1冊になると思う。
 さまざまな科学知識が披露されるので情報小説として興味深いこと――日本全国土砂データベースがウェブ上で公開されているとは知らなかった。つまり日本中の石や砂の成分をまとめたデータ集なので、靴やタイヤに挟まれた小石がどの地域のものなのかがわかる――ハーブで香り付けした水を差し出して感想を聞くので、まずいとは言えずにおいしいですと答えると、私、嘘がわかるんですと言う秘書兼技官の高倉柊子(なんなんだこの女性は)を始めとして、個性豊かなわき役が印象深いこと。読みどころが満載なのである。これはぜひともシリーズ化してほしい。

作品紹介・あらすじ



『最後の鑑定人』
岩井圭也
KADOKAWA
定価:1870円(本体:1700円+税)

業界の注目を集める新鋭が正面から挑む、サイエンス×ミステリ!

人はどこまで真実を知るべきか。その答えを求めて書きました。――岩井圭也

「科学は嘘をつかない。嘘をつくのは、いつだって人間です」
「最後の鑑定人」と呼ばれ、科捜研のエースとして「彼に鑑定できない証拠物なら、他の誰にも鑑定できない」と言わしめた男・土門誠。ある事件をきっかけに科捜研を辞めた土門は、民間の鑑定所を開設する。無駄を嫌い、余計な話は一切しないという奇人ながら、その群を抜いた能力により持ち込まれる不可解な事件を科学の力で解決していく。孤高の鑑定人・土門誠の事件簿。

https://www.kadokawa.co.jp/product/322011000439/
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