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特集

岩井圭也『竜血の山』『永遠についての証明』 & 蝉谷めぐ実『おんなの女房』刊行記念! 「小説 野性時代 新人賞」受賞作家対談

2018年に『永遠についての証明』で第9回「野性時代フロンティア文学賞」を受賞した岩井圭也さんと、2020年に『化け者心中』で第11回「小説 野性時代 新人賞」を受賞した蝉谷めぐ実さん。同じ新人賞(※)出身であるおふたりがちょうど同じ時期に新刊を上梓したということで、先輩である岩井さんからのお声がけで、刊行記念対談が実現しました。岩井さんの『竜血の山』『永遠についての証明』、蝉谷さんの『おんなの女房』のお話を中心に、お互いの作品や創作姿勢などについて、たっぷり語り合っていただきました。(対談実施日:2022年1月29日)

※注:「野性時代フロンティア文学賞」は、第11回から「小説 野性時代 新人賞」と改称しました。

「歌舞伎役者の女房」を主人公にした理由

岩井:私が第9回の「野性時代フロンティア文学賞」の受賞者で、蝉谷さんは第11回の「小説 野性時代 新人賞」の受賞者。改称されていますけど同じ賞の先輩後輩で、たまたま今回、お互い刊行が重なったということで、お声がけさせていただきました。

蝉谷:ありがとうございます!

岩井:私が1月19日に単行本『竜血の山』、21日に文庫『永遠についての証明』、蝉谷さんが1月28日に単行本『おんなの女房』を刊行しました。『おんなの女房』はもうインタビューを受けられたりしているんですか。

蝉谷:ありがたいことに、いくつかの雑誌などでお受けしました。

岩井:じゃ、もう話し慣れてますね。すらすらと答えていただけるんじゃないかなと思います(笑)。

蝉谷:そんなことないです! 毎回毎回、なぜ私はこんなに上手くしゃべれないんだろうと反省するばかりで……。

岩井:ではさっそく、『おんなの女房』について質問させていただきますね。蝉谷さんの一作目『化け者心中』は歌舞伎役者のお話でした。『おんなの女房』は歌舞伎の女形に嫁いだ女性のお話です。二作目もやっぱり歌舞伎の話を書きたいというのが、最初からあったのでしょうか。

蝉谷:最初は『化け者心中』の続編を書くという話もありました。ただ、『化け者心中』はほぼ女性が出てこない物語だったので、今度は逆にその女房、女の話も書いてみたいと思って。「女形の役者の女房っていうのはどうですか」という話を担当編集者さんとして、女性側からのいろんな見え方を書くことにしました。

岩井:『化け者心中』は確かに男性目線のお話でしたね。例えば化粧に用いられる紅について、細かく描写はあるんだけれど、主人公である鳥屋の藤九郎の実感としてはあんまり違いがわかってなかったりする。今回は志乃という武家の娘が主人公だったので、目線がぜんぜん違いましたね。女性視点だとこういうふうに見えてたんだ、と思いました。

蝉谷:ありがとうございます。

岩井:今回書くにあたっては、モデルはいたんですか。

蝉谷:特定のモデルはいないです。ただ、作中にも出てくる『女意亭有噺めいちょうばなし』という、役者の女房をランクづけしてる評判記みたいなものがあって。そこからエピソードを取ってきています。

岩井:『女意亭有噺』には、「この人は奥さんとしては上々吉」とか、「この人はちょっとダメです」とか、けっこう細かく書いてあるものなんですか。

蝉谷:そうなんですよ。この人は顔がめちゃくちゃ美人で上吉とか、この女房はめちゃくちゃ格の高い役者の女房だけれども顔があまり……とか。もうほんとにゴシップみたいな感じで。

岩井:いやらしいランクですね。

蝉谷:顔は質素なのに服だけすごく豪華にしてるから釣り合いがとれてない、とか。

岩井:めちゃくちゃ辛辣(笑)。

蝉谷:そうなんですよ! そこが面白いなと思ったんです。その資料の存在を知って、女房を書きたいと思ったというのもきっかけのひとつです。

岩井:やっぱりその中でいちばんランクが高いのは、女形の夫に対して忠実に尽くす人っていうことなんですか。

蝉谷:それが、そうとも限らないんですよね。「夫である役者の格が高いから、“上”をもう一個付けてやろうか」みたいなことは書いてあったりするんですけど、夫に尽くせばすごく評価が上がるということはないんです。女房自体をランクづけしていて、夫と切り離しているのも面白いなと思いますね。

蝉谷作品の独特の語り口

岩井:文体の魅力に磨きがかかっていらっしゃるなあというふうにも思いました。この文体って、どうやって考えているんですか。書き出しの〈おっとそこ行く鎌輪ぬ文様の大旦那。ちょいとあちら行く高麗屋格子の別嬪さん〉とか、ご自分で声に出して読みたくなってしまうような語り口だと思うんですけど、音読とかするんですか。

蝉谷:「声に出して書いているんですか?」とよく聞かれるんですけど、あまり声には出していないです。頭の中で何回も繰り返して、句読点の打ち方や七五調とかは考えますね。漢字とか文章の見え方も、ここは平仮名のほうが見栄えがいいとか、柔らかくなるかなとか考えながら書きます。

岩井:漢字の開き方とか、人によっても変えてたりしてますよね。

蝉谷:そうなんです。武家の娘である主人公の一人称は漢字の「私」なんですけど、夫である女形の一人称は「わたし」っていう平仮名だったり。

岩井:台詞でも地の文でも、気を遣っているのが読んでいて伝わってきます。例えば、〈季節外れの蝶のようにふらふらとさまよって、床机の上に収まった志乃の手のひらを二人して見下ろしていた〉。一見、何気ない文章なんですけど、それまでの積み重ねだったりテンポがあるので、手のひらを見下ろすだけで夫の燕弥は手を取らないんだなとか、志乃のほうから手をあげないんだなとか、そういう空気感がこの一文の中からすごい感じられるんです。

蝉谷:もう、嬉しいです。

岩井:『おんなの女房』は本当に面白い小説で、蝉谷さんにしか書けないワールドがあって、のめり込んで一気に読める。かつ感動があって、いま一番エモい時代小説だと思います。

水銀鉱山を舞台にしたマジックリアリズム

蝉谷:次は『竜血の山』についてのお話を。昭和13年に北海道の山奥、地図にない「フレシラ」という集落で調査隊が水銀鉱山を見つけるところから始まる、ある一族の少年の一生のお話です。本当にもう、最初から最後まで壮絶でした。息を殺しているような静けさと身を削るような緊張感があって、まさに水銀みずかねのような小説ですよね。時代背景が昭和13年なので、歴史小説ともいえると思いました。

岩井:「どういうスタンスで書こうかな」というのは悩んだんですけど、ちょっと現実離れしたところもありますし、歴史小説ぐらいの距離感で書きましたね。

蝉谷:猛毒である水銀を飲めてしまう「水飲み」と呼ばれる一族、という構想はどこから思いつかれたんですか。

岩井:イトムカ鉱山というのが、北海道の道東に、ちょうど作中と同じ時期に発見されたんです。モデルはそのイトムカ鉱山で、これも史実なんですけど、三十数年で閉山しちゃったんですね。その中で、戦争で潤ったり、戦争が終わってへこんだり、朝鮮特需があってまた儲かったり、公害問題で水銀の需要が減って閉山になったりした。そんな激動の水銀鉱山があると知って、ここを舞台にしたら、まず面白いなっていうのがありました。

蝉谷:なるほど。

岩井:もう一つ、担当編集者さんから「マジックリアリズムを書きませんか?」という依頼があったんです。マジックリアリズムという言葉から、ガルシア・マルケスのような不思議な一族のイメージが湧き、かねてから気になっていた水銀鉱山のイメージが重なりました。そこに水銀が毒にならない一族が住んでいたら不思議だよねっていうところから、始まりましたね。

蝉谷:じゃあ、その一族に関しては完全に岩井さんの――

岩井:全部想像ですね。もちろん、水銀の味とか、飲み心地とかも。

蝉谷:水銀を飲む場面、すごく美しい描写だなと思いました。

持つ者と持たざる者の関係性

蝉谷:岩井さんの小説は全部読ませていただいているのですが、デビュー作には衝撃を受けました。「人間」に焦点を当てられているというか。優しさだけじゃなくて、普通なら目を逸らしたい人間の暗い部分とか恥ずかしい部分とかをとても丁寧に書いていらっしゃるなと。

岩井:はい、毎回暗いんです(笑)。

蝉谷:登場人物って、どういうところから書きますか。

岩井:登場人物というより、モチーフから出発しますね。『竜血の山』でいうと「水銀鉱山を書きたい」っていうところから始まりますし、『水よ踊れ』だったら「香港を書きたい」から始まりますし、『永遠についての証明』だったら「数学者を書きたい」から始まります。そこから、ここに生きている人たちってどういう心根なのかとか、どういう感情の揺れ動きがあるんだろうみたいなところを考えていきます。環境とか舞台側から考えて、ストーリーを作っていくやり方が多いですね。

蝉谷:岩井さんの作品の、ストーリーの中で登場人物の関係性が色々と変わっていくところが、私は好きでして。特に、持つ者、持たざる者の関係性が、私はとっても好きだなと思ったんです。『竜血の山』でいうと、〈水飲み〉の血を持つ者と持たない者のような。

岩井:関係性は意識しています。人間の関係って一様じゃないですよね。友人関係でも、ある時期はすごく仲が良かったり、疎遠な時期があったりと、常に揺れ動いていくものだと思うんです。そこを書くには、やっぱり時間軸を動かしたり、特定の二人の関係に的を絞っていくというのが必要なのかなと思っています。

蝉谷:『永遠についての証明』では、数学の才能を持っている者と、そうでない者。私はこの本をデビュー前に読んだのですが、胸に刺さって立ち直れない日々がありました(笑)。私なんかは、持たざる者の方に気持ちが寄ってしまうというか。

岩井:わかる。私もそうなんですよ。視点も、持たざる者の方が書きやすい。持ってる人の視点は、基本的にはあまり共感できないかなと。でも、持っている人は自分の才能から逃れられないっていうのは、すごくある気がするんですよね。

蝉谷:ストーリーによって、誰を主人公にするかは変わりますよね。

岩井:『永遠についての証明』は、天才側の視点とその友人側の視点を均等に書いたつもりではあったんです。天才には天才の辛さがあるし、そうでない人はそうでない人の辛さがあるから、両方を主人公として平等に書かないといけないかなって思ったんですよね。

蝉谷:それと、岩井さんの作品は自然の描写が美しいなと思うんです。『永遠についての証明』の森や、『竜血の山』の湖とか。

岩井:そこは意識してます。実は、言われるの初めてなんですけど。

蝉谷:本当ですか。

岩井:私、油断すると、主人公が光に包まれて、なんかいい感じになって終わるみたいな終わり方をしがちなんですけど(笑)。ちょっと話が逸れますが、私が生まれて初めて書いた創作って紙芝居だったらしいんですよ。

蝉谷:紙芝居ですか。

岩井:五歳ぐらいのときに、公民館で紙芝居をやったらしくて。ちょっと前に、押し入れの奥からその実物が出てきたんです。それが、サンタさんの話だったんですね。サンタさんが、トナカイが怪我をして仕事ができなくなっちゃって困るんだけど、最終的にはトナカイが不思議な光に包まれて、なんか治って終わるっていう。これ、『永遠についての証明』だなと(笑)。

蝉谷:いや、でも、『永遠についての証明』、光に包まれてましたか?

岩井:光に包まれてたなあ……。

蝉谷:光に包まれて……いい光ですから、そんな。

岩井:いい光って何?(笑)

蝉谷:美しい光です(笑)。

岩井:だいぶ前置きが長くなりましたけど、油断するとワンパターンになっちゃうところはあるんです。なので毎回、何らかの自然現象で、自分の表したいものと合致するものはないかなっていうのは考えます。『竜血の山』だったら湖、『水よ踊れ』だったら炎、『プリズン・ドクター』だったら雪とか。

今後の執筆予定

岩井:最後に、蝉谷さんは今後の予定、いかがですか。

蝉谷:まずは『化け者心中』の続編が、夏ごろには書き上がるように頑張ります。あとは短編を二、三書けるといいなと。岩井さんはいかがですか。

岩井:順調にいけば、今年はあと三冊ぐらい単行本が出る予定です。そして連載が四本、予定通りに始まるといいなぁと、誰よりも私が祈ってます(笑)。お互い頑張っていきましょう!

蝉谷:頑張ります!

作品紹介

『永遠についての証明』
著者 岩井 圭也



圧倒的筆致で天才の青春を描いた野性時代フロンティア文学賞受賞作、文庫化
圧倒的「数覚」に恵まれた瞭司の死後、熊沢はその遺書といえる研究ノートを入手するが――冲方丁、辻村深月、森見登美彦絶賛!選考委員の圧倒的評価を勝ち取った、第9回野性時代フロンティア文学賞受賞作!
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『おんなの女房』
著者 蝉谷 めぐ実



『化け者心中』で文学賞三冠。新鋭が綴る、エモーショナルな時代小説。
ときは文政、ところは江戸。武家の娘・志乃は、歌舞伎を知らないままに役者のもとへ嫁ぐ。夫となった喜多村燕弥は、江戸三座のひとつ、森田座で評判の女形。家でも女としてふるまう、女よりも美しい燕弥を前に、志乃は尻を落ち着ける場所がわからない。
私はなぜこの人に求められたのか――。
芝居にすべてを注ぐ燕弥の隣で、志乃はわが身の、そして燕弥との生き方に思いをめぐらす。
女房とは、女とは、己とはいったい何なのか。
いびつな夫婦の、唯一無二の恋物語が幕を開ける。
詳細:https://www.kadokawa.co.jp/product/322102000165/
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▼『おんなの女房』試し読みはこちら
https://kadobun.jp/trial/onnanonyoubou/d4k9zw18ga8s.html

▼蝉谷めぐ実特設サイトはこちら
https://kadobun.jp/special/semitani/

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岩井圭也(いわい けいや)

1987年生まれ。大阪府出身。北海道大学大学院農学院修了。2018年「永遠についての証明」で第9回野性時代フロンティア文学賞を受賞。その他の著書に『夏の陰』『プリズン・ドクター』『文身』『水よ踊れ』『この夜が明ければ』『竜血の山』がある。

蝉谷めぐ実(せみたに めぐみ)

1992年大阪府生まれ。早稲田大学文学部で演劇映像コースを専攻、化政期の歌舞伎をテーマに卒論を書く。広告代理店勤務を経て、現在は大学職員。2020年、『化け者心中』で「第11回小説 野性時代 新人賞」を受賞し、デビュー。21年に同作で第10回日本歴史時代作家協会賞新人賞、第27回中山義秀文学賞を受賞。

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