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特集

デビュー作『化け者心中』で文学賞三冠! 歴史時代小説の気鋭・蝉谷めぐ実さん第二作『おんなの女房』刊行記念インタビュー!

取材・文:末國善己
撮影:小嶋淑子

いびつな夫婦の、心ふるわす恋物語。『おんなの女房』刊行記念、蝉谷めぐ実さんインタビュー

2020年10月に刊行した化け者心中』で第11回小説野性時代新人賞、第10回日本歴史時代作家協会賞新人賞、第27回中山義秀文学賞を受賞。歴史時代小説界に彗星のごとく現れた破格の新鋭・蝉谷めぐ実さんの第2作おんなの女房』は、「役者の女房」を中心に据えたエモーショナルな時代小説です。刊行を記念して、蝉谷さんに作品についてたっぷり語っていただきました。

▼蝉谷めぐ実特設サイトはこちら
https://kadobun.jp/special/semitani/

▼『おんなの女房』試し読みはこちら
https://kadobun.jp/trial/onnanonyoubou/d4k9zw18ga8s.html



『おんなの女房』刊行記念蝉谷めぐ実さんインタビュー


――第27回中山義秀文学賞受賞、おめでとうございます。

蝉谷:ありがとうございます。


――デビュー作『化け者心中』は、時代小説としても、ミステリとしても高く評価されました。そのことをどのように捉えていらっしゃいますか。

蝉谷:すごく光栄です。こんなに高く評価していただけるとは思っていませんでしたので、嬉しいですし、この世界で生きていけるという自信をもらいました。


――『化け者心中』は、化政期を舞台にしたミステリとして書いたのですか。それともミステリのエッセンスがある時代小説として書いたのですか。

蝉谷:歌舞伎界の人間模様を描きたかったので、まずは時代小説を書くことを考え、テーマを深めるためにミステリの手法をプラスした感じです。


――昔から時代小説がお好きだったのですか。

蝉谷:松井今朝子さんが好きなので、そうですね。化け物が好きになったのは夢枕獏さんの『陰陽師』が切っ掛けで、京極夏彦さんを読んで妖怪+ミステリというスタイルを知りました。


――義秀賞の公開選考会では「鬼」の正体をめぐって賛否が分かれました。その部分については、どのようにお考えですか。

蝉谷:選考会の前にも、読者の方から「鬼」についての否定的なご意見はいただいていて、そのご意見は自分の中で腑に落ちています。ただ私が書きたかったのが「人間」と「化け者」の狭間にある何かだったので、「人間」を書くためには、「鬼」を出すことが不可欠だったと思っています。



――前作の田村魚之助と藤九郎のコンビを続けて出すこともできたはずですが、二作目の『おんなの女房』は化政期の歌舞伎界を舞台にしているものの、それ以外はまったく新しい物語になっていました。

蝉谷:担当編集者さんが、「魚之助の続編を読みたい気持ちもありますが、別の歌舞伎役者も見てみたい」と言ってくださったので、なら挑戦させてくださいと。前作は”男性でありながら女性”という女形に焦点を当てて書いたのですが、今回は、女性に真正面から向き合いました。


――前作は長編でしたが、今回は連作短編ともとれる構成でした。そこも新しいチャレンジだったのでしょうか。

蝉谷:そうですね。二作目では『化け者心中』とは違った形で書いてみたいという想いはありました。


――いつも女性の格好をしているなど、本書の主人公の喜多村燕弥は、前作の魚之助と似ているところもありました。

蝉谷:ありますよね。ただ燕弥はブレるんです。燕弥も女形であることを自分の中心に据えているのですが、それが揺らいでしまうところがある。そのため魚之助とはちがった女形像になったのではと思っています。


――魚之助のモデルは三代目澤村田之助でしたが、燕弥もモデルはいるのでしょうか。

蝉谷:モデルはいませんが、作中に登場する役者の女房のエピソードには史実をもとにしたものがあります。


――第一話「時姫」は、米沢藩士の娘・志乃が燕弥に嫁ぎ、まったく違う世界に飛び込んだ志乃の戸惑いがコミカルに描かれていきます。武家の娘が役者に嫁ぐ設定に違和感がありましたが、その疑問が丁寧な伏線の回収と共に合理的に説明されるので、前作と同じくミステリ的な面白さがありました。

蝉谷:どんな物語でも、謎は読者の方にページをめくらせる力になります。『化け者心中』のような大きな謎ではありませんが、ちょっとした謎を提示して解明はすこし後という構成は意識しました。


――燕弥の自宅を訪ねたファンが、志乃を女中と勘違いするエピソードは、現代のアイドルの追っ掛けを思わせるものがありました。

蝉谷:あの話も、史実に基づいています。役者がお店に入ると出待ちの贔屓が押し掛けたり、生垣に隠れて望遠鏡で覗いたりする浮世絵が残っているんです。そんな贔屓の熱量は現代と似ていますね。


――第二話「清姫」は、初野寿太郎の女房のお富が、夫が森田座の座頭・理右衛門の女房・お才と浮気していると疑い、志乃と一緒に真相を追います。お才は強烈なキャラクターで強く印象に残りました。

蝉谷:当時は、役者の女遊びは普通でしたから、お才の決着の付け方は現代人の価値観とは違っているかもしれません。当時の常識が反映されているのがお才です。反対にお富は、夫が浮気したら嫉妬する、どちらかというと現代的な価値観をもった人物ですが、当時にもこういう考えの女房もいたのではないかと思っています。



――役者の女房の評判記『女意亭有噺めいちょうばなし』が物語に絡みますが、この評判記は実際にあったのですか。

蝉谷:ありました。役者の女房に関する史料は少ないのですが、その中で役者の女房を位付けしたものが『役者女房評判記』とも言われる『女意亭有噺』です。見世物になっている鳥たちが役者の女房の品定めをしているんですが、これがとっても面白くって、史料を見つけたときは絶対に作中に使いたいとメモに書き留めました。


――第三話「雪姫」では、男女の役で共演する木嶋仁左次と燕弥が衆道の関係なのかを軸に進んでいきます。前作でも、現代的にいえばLGBTの問題を描かれていましたね。

蝉谷:そうですね。女性同士、男性同士といった関係性には名前のつけられない深い何かがあると思っています。今回は、そんな二人の男性の近くにその片方の女房がいた場合、女房は二人の関係性に対してどんな感情を持つのだろうと、そういう部分を書きました。


――第四話の「八重垣姫」では、志乃が「女大学」の世界を叩き込んだある人と対決します。歌舞伎という柔らかい世界を使って、武家の常識というお固い世界に挑むので、対比が際立っていました。

蝉谷:志乃は、女性だから、武家の娘だから、こうあるべきという枠を信じていましたが、燕弥と結婚し、お富たちと交流することでどんどんと変わっていく。最終話の「八重垣姫」で志乃なりの一つの結論が出たと思っています。


――結婚の意味、夫の浮気、子供を産むか産まないかなど、志乃の人生をたどることで、結婚するのが「普通」なのか、子供を産むのが「普通」なのかが問い掛けられていました。前作でも「普通」とは何かがテーマでしたが、ここに関心があるのでしょうか。

蝉谷:やはり現代に投げ掛けることのできるテーマを描きたいというのはあります。現代は女性の地位が向上しつつあるとは思いますが、「女性は家にいなければならない」「子供を産んで一人前」といった価値観は色んな人の頭の中にこびりついている。それなら女性の「普通」って一体何、とその問いに答えてみたいと考えていました。


――前作では『堂島連理柵』の台本の読み合わせ中に事件が発生しますが、この作品は本書にも出てきました。前作と世界観は繋がっているのですか。

蝉谷:繋がっています。『化け者心中』に登場した役者の名前もちょろっと出てきたりするので、見つけて、あっと思ってもらえるとうれしいです。


――空を飛ぶイメージに希望の意味を持たせたところも、前作と共通しているように思えました。

蝉谷:二作目を書き終わって気付いたのですが、鳥を含め生き物というモチーフが好きみたいです。生き物の持っている性質や姿形は、読者の方にイメージを伝えやすいですし、ただ単に生き物が好きという理由もありますね。


――元禄時代や化政期でありながら史料が多い幕末風の風俗になっている時代小説もありますが、蝉谷さんは丁寧な時代考証をされています。化政期らしさをどのように表現されているのでしょうか。

蝉谷:化政期は、町人の力が台頭し、人々がいきいきとしていたところが魅力の一つだと思っています。なので、登場人物の目線で、登場人物の心の動き方を中心に据えて書くように心がけています。歌舞伎も、退廃的な演目が出てきたり、女性が強かったり、お上に盾突く物語が書かれたりしているので、そうした世界観を活かしています。


――化政期の歌舞伎はご専門ですが、知識があると逆に小説は書きにくくないですか。

蝉谷:確かに、知識があるとブレーキがかかることがあります。ただ大学時代にお世話になったゼミの教授に「学問的な厳密さに縛られちゃいけないよ」とアドバイスをいただいたので、縮こまらないようには書いていきたいです。


――今後、どのような作品を書きたいですか。

蝉谷:次は『化け者心中』の続編になる予定です。調べれば調べるほど歌舞伎周りの面白いお話の種が出てくるので、当分は江戸時代のお話になるかと。特に芝居小屋で働く役者以外の人たちが、どんなことを考えてスターを支えていたのかには興味があります。まだ実在の役者を書く勇気はないのですが、いずれは挑戦してみたいです。



プロフィール

蝉谷めぐ実(せみたに めぐみ)
1992年大阪府生まれ。早稲田大学文学部で演劇映像コースを専攻、化政期の歌舞伎をテーマに卒論を書く。広告代理店勤務を経て、現在は大学職員。
2020年、『化け者心中』で「第11回小説 野性時代 新人賞」を受賞し、デビュー。21年に同作で第10回日本歴史時代作家協会賞新人賞、第27回中山義秀文学賞を受賞。

作品紹介



おんなの女房
著者 蝉谷 めぐ実
定価: 1,815円(本体1,650円+税)
発売日:2022年01月28日

『化け者心中』で文学賞三冠。新鋭が綴る、エモーショナルな時代小説。
ときは文政、ところは江戸。武家の娘・志乃は、歌舞伎を知らないままに役者のもとへ嫁ぐ。夫となった喜多村燕弥は、江戸三座のひとつ、森田座で評判の女形。家でも女としてふるまう、女よりも美しい燕弥を前に、志乃は尻を落ち着ける場所がわからない。
私はなぜこの人に求められたのか――。
芝居にすべてを注ぐ燕弥の隣で、志乃はわが身の、そして燕弥との生き方に思いをめぐらす。
女房とは、女とは、己とはいったい何なのか。
いびつな夫婦の、唯一無二の恋物語が幕を開ける。
詳細:https://www.kadokawa.co.jp/product/322102000165/
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https://kadobun.jp/special/semitani/



『おんなの女房』試し読み



とざい、とーざい。――いびつな夫婦の、恋物語の幕が開く。【 蝉谷めぐ実『おんなの女房』試し読み#1】
https://kadobun.jp/trial/onnanonyoubou/d4k9zw18ga8s.html


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