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特集

同じ年デビューの“同期作家”トーク! 逸木 裕『五つの季節に探偵は』× 市川憂人『断罪のネバーモア』刊行記念対談

構成・文:若林踏(書評家)

『五つの季節に探偵は』『断罪のネバーモア』刊行記念対談

人の本性を暴かずにはいられない私立探偵を主人公にした短編集『五つの季節に探偵は』。大胆な着想で警察捜査小説と本格謎解きを融合させた『断罪のネバーモア』。
同時期に刊行された注目の新刊について、著者である逸木裕と市川憂人がTwitterスペース上で対談を行った。
同じ年にデビューした“同期作家”が交わすトークは盛り上がりを見せ、本人たちも気付かなかった思わぬ共通点が浮かび上がってきた。

市川憂人が逸木裕に感じた“見えない縁”


――逸木さんと市川さんは、同じ年に作家デビューしているんですよね。

逸木:そうなんです。私が『虹を待つ彼女』で横溝正史ミステリ大賞を受賞してデビューしたのが2016年ですが、同じ年に市川さんは『ジェリーフィッシュは凍らない』(創元推理文庫)で鮎川哲也賞を受賞してデビューしているんです。
本の刊行がちょうど同じ時期に重なり、両者ともSF的な要素があったため、新人の作品として並べて取り上げていただくことが多かったように思います。
そういうわけで市川さんには“同期”のような意識は持っていたんですが、実は直接お会いする機会が無くて……。

市川:そうそう。Twitterスペース上ですが、こうやって直接お話しするのは初めてなんですよ。
でも、デビュー年に刊行された宝島社の『このミステリーがすごい!2017年版』に新人賞について語る匿名座談会のコーナーがあって、その中で私の『ジェリーフィッシュは凍らない』と逸木さんの『虹を待つ彼女』が最優秀新人賞として取り上げられたんですね。
その時から逸木さんには見えない縁を感じています(笑)


――その『虹を待つ彼女』に登場する私立探偵・みどりを主人公にした連作短編集が『五つの季節に探偵は』です。市川さんは逸木さんの新作をどう読まれましたか?

市川:謎解き短編としての魅力に溢れた本だと思いました。読み終わった後に「本格謎解きミステリの新人賞でデビューした自分の立場が無いぞ、これは」と思ってしまったくらい(笑)
真面目に言いますと5W1Hの謎の中でも、本作はWhy、つまり「なぜ?」についての解明にはたと膝を打つ作品ばかりで堪能しました。
特に私が感銘を受けたのは第三話の「解錠の音が――2009年 秋」ですね。謎解きとしての完成度はもちろん、謎が解けた後のラストの場面が素晴らしいと思います。

逸木:ありがとうございます。今回の作品はいずれも原稿用紙八十枚くらいの分量でしたが、むしろ制限があるが故に書きたいことが整理しやすく、どれも楽しく執筆することが出来ました。

探偵の歩んだ人生を辿る『五つの季節に探偵は』


――『五つの季節に探偵は』はみどりの高校時代を描いた「イミテーション・ガールズ――2002年 春」を起点に、みどりの人生を辿る年代記として読めます。

逸木:でも当初はみどりの過去を、こんなに時系列をしっかり辿って書く予定はなかったんです。
三作目の『星空の16進数』を刊行した後、KADOKAWAの編集者さんから短編の依頼をいただきました。『星空~』にはみどりの他にウェブデザイナーとして働く17歳の少女が主役として登場するのですが、「だったらみどりを同じ17歳に設定して、青春時代のお話を書いてみようじゃないか」と思い立って書いたのが、「イミテーション・ガールズ」です。
その後も続けてみどりの話を書いている内に、いつの間にか過去のエピソードが埋まってきて、このたび一冊の本になったという次第ですね。


――みどりは「人の本性を暴かずにはいられない」という強烈な欲求を抱えて生きるキャラクターです。市川さんもマリア&漣のように個性際立つ探偵役を描いていますが、市川さんから見て本作のみどりはどのようなインパクトを持ったキャラクターでしょうか?

市川:『虹を待つ彼女』や『星空の16進数』からは想像が付かないような、「こんな業を背負った人物だったのか!」という面が窺えて、ちょっと吃驚しました。
しかも「たとえ人を傷つけてでも暴きたい」という強い願望が第一話からずっと描かれている。ぶれないんですよね。
あと個人的に良いな、と感じたのは、最後に収められた「ゴーストの雫――2018年 春」で、みどり以外の人物を視点に据えて描いていたことです。
「ああ、みどりって人はこういう風に見えるんだ」と、大人としての彼女のキャラクターを客観的に捉えることが出来て、みどりという人物をより深く掘り下げることが出来ているなあ、と。これは短編集の構成としても優れていると思います。

逸木:もともと、みどりは『虹を待つ彼女』では主人公にとってのメンター・目指すべき存在として登場した脇役です。当初から性格や考え方にぶれがない人物として作品の中に登場しています。
それ以降の作品でみどりの視点から物語を書くことになり、彼女が抱えている葛藤や成長に触れる必要が出てきました。『五つの季節に探偵は』では、彼女の旅路を十六年にわたって書くことが出来て、本当に良かったと思います。
そういえば市川さんも短編集『ボーンヤードは語らない』(東京創元社)では、レギュラー探偵であるマリアと漣の過去を描いていますよね。

市川:ああ、言われてみれば、過去編を短編集でという点では確かにそうですね。

逸木:マリア&漣もみどりと同じく、『ジェリーフィッシュは凍らない』で登場した段階からすでに確固としたキャラクターですよね。
でも『ボーンヤード~』では彼らの前史が語られることで、マリアと漣がそれぞれどのような思いを抱きながら年齢をかさね、あのようなキャラクターになっていったのかが分かる。私はそこに惹かれましたし、「自分はこういう構造のお話が好きなんだな」ということに改めて気付きました。

市川:なるほど。そう考えると、みどりのシリーズとマリア&漣のシリーズには共通する部分があるのかもしれませんね。
デビュー年が一緒、ということ以外に逸木さんとの共通点がまた一つ増えたかも(笑)

『断罪のネバーモア』の原型は私立探偵小説だった!


――市川さんの『断罪のネバーモア』は警察捜査小説の体裁を取りつつ、そこに大胆な着想を盛り込んだ本格謎解きミステリです。逸木さんは市川さんの新作をどう読まれましたか?

逸木:例えるならば「しっぽまであんこが詰まったたい焼き」といいますか、徹頭徹尾ぎっしりとミステリの要素が詰め込まれた非常に満足度の高い作品でした。
『断罪のネバーモア』は四編の物語で構成されていますが、各編が終わるたびに衝撃的な展開が待ち受けていて、全く飽きさせない。さらには本格謎解きミステリとしての巧みな仕掛けも施されています。
そのうえ、社会派的な要素が含まれている点も良いですね。市川さんの作品には『神とさざなみの密室』(新潮文庫)や『揺籠のアディポクル』(講談社)など、もともと社会派ミステリの側面を持っているものがありますが、本作もどこまでも本格ミステリを志向しながら、社会批評の物語としても読み応えがある。市川さんにしか絶対に書けないバランスの作品として成立していると思います。そこもまた大きな魅力ですよね。

市川:ありがとうございます。そのような感想をいただけて嬉しいです。
でも実を言うと、自分自身ではバランスを取りながら書いている、という意識はあまり無いんですよ。

逸木:えっ、そうなんですか?

市川:はい。というのも自分はまず、謎解きを構築する上で面白い設定は何だろう、というところからスタートします。
設定をあれこれと考えながら作り上げる過程で、次第に物語全体が出来上がっていくんです。先ほど逸木さんが仰った社会派的な部分というのも、謎解きの部分を書いている内に「ああ、じゃあ、こんな風に物語を展開してみようか」という感じでどんどん膨らんでいった結果、気が付いたら出来上がっていることが多いです。

逸木:そうだったんだ。あれだけ調和のとれた感じで本格謎解きと社会派が融合しているので、てっきり計算しながら書いているとばかり思っていました。

市川:実は『断罪のネバーモア』も、元々は社会派要素のある警察捜査小説ではなかったんですよ。最初のプロットでは主人公は警察官ではなく、私立探偵だったんです。それもただの私立探偵ではなく「警官の下っ端としてこき使われる探偵」という、従来の名探偵と警察の関係をひっくり返した設定を書こうと思っていたんです。

逸木:それは意外ですね。もし初期設定のままで作品が書かれていたら、『五つの季節に探偵は』と同じ私立探偵ものですので、本日のトークテーマも「私立探偵を書くということ」みたいなものになっていたかもしれません(笑)

市川:ははは、確かに (笑)
でも、その設定だと「探偵という職業がもっと世間に認知されている」ことが前提になるので、ちょっと現実的ではないな、ということになりまして。そこから色々と変えていった結果、現在の『断罪のネバーモア』のような形が出来上がったというわけです。
今回の作品をすでにお読みいただいた方のなかには、プロトタイプの名残があることに気付いた人もいるかもしれませんね。

逸木:なるほど。設定を考えてから、そこに物語を肉付けしたり、改変を加えたりしながら小説を書きあげていくんですね。
そのお話を聞くと市川さんって、いわゆる“設定厨”といいますか、独特な設定を構築することに拘るタイプなんでしょうか?

市川:いやあ、“設定厨”とは違う気がしますね(笑)
設定に拘るというより、面白い謎解きを成立させるための条件を細かく考えることに拘っている、という方が正確かな、と思います。

逸木:なるほど、あくまで本格謎解きのため、というわけですね。
私は1980年生まれ、市川さんは1976年生まれ。青春期には綾辻行人さんを始めとする所謂“新本格ミステリ”と呼ばれる作品群がすでに数多く書かれており、さらには京極夏彦さんや森博嗣さんなど、従来の謎解きミステリの枠には収まらない作家が次々に登場した時代でありました。同世代の作家を見てみても、社会的なテーマを描く際も、それを本格ミステリのフォーマットで書こうと自然に思える世代なのかなと思っています。ですので、市川さんの謎解きへの拘りは非常に分かります。

市川:そうですね。私はもともとクイズやパズルが大好きでして、それが高じて『東西南北殺人事件』(講談社文庫)に始まる〈大貫警部〉シリーズや〈三毛猫ホームズ〉シリーズなど、赤川次郎さんの作品を読み始めたのがミステリに触れるきっかけでした。
さらに色々な作品を読んでいくうちに、綾辻さんの『十角館の殺人』(講談社文庫)と運命的な出会いを果たし、本格謎解きの魅力にどっぷりと浸かった人間になりました。
ですから、どのようなテーマを選んでも謎解きの部分だけは核に持っていたいと思っています。


――今回は初めての対談ということでしたが、お二人の共通点が色々と伺えて興味深かったです。本日はありがとうございました。

作品紹介

『断罪のネバーモア』市川 憂人



断罪のネバーモア
著者 市川 憂人
定価: 1,925円(本体1,750円+税)
発売日:2022年02月02日

警察小説と本格ミステリが奇跡の融合。新米刑事が綻びから世界の欺瞞を暴く
度重なる不祥事から警察の大改革が行われた日本。
変革後の警察にブラックIT企業から転職した新米刑事の藪内唯歩は茨城県つくば警察署の刑事課で警部補の仲城流次をパートナーとし殺人事件の捜査にあたる。
刑事課の同僚たちの隠しごとが唯歩の心を曇らせ、7年前の事件が現在の捜査に影を落とす。
ノルマに追われながらも、持ち前の粘り強さで事件を解決した先に、唯歩を待ち受ける運命は――。
リアル警察小説と本格ミステリの2重螺旋! 白黒が全反転する奇跡の終盤に瞠目せよ!!
詳細:https://www.kadokawa.co.jp/product/322010000472/
amazonページはこちら

『五つの季節に探偵は』逸木 裕



五つの季節に探偵は
著者 逸木 裕
定価: 1,760円(本体1,600円+税)
発売日:2022年01月28日

“人の本性を暴かずにはいられない”探偵が出会った、魅惑的な5つの謎。
人の心の奥底を覗き見たい。暴かずにはいられない。わたしは、そんな厄介な性質を抱えている。

高校二年生の榊原みどりは、同級生から「担任の弱みを握ってほしい」と依頼される。担任を尾行したみどりはやがて、隠された“人の本性”を見ることに喜びを覚え――。(「イミテーション・ガールズ」)
探偵事務所に就職したみどりは、旅先である女性から〈指揮者〉と〈ピアノ売り〉の逸話を聞かされる。そこに贖罪の意識を感じ取ったみどりは、彼女の話に含まれた秘密に気づいてしまい――。(「スケーターズ・ワルツ」)

精緻なミステリ×重厚な人間ドラマ。じんわりほろ苦い連作短編集。
詳細:https://www.kadokawa.co.jp/product/322011000440/
amazonページはこちら

▼【逸木 裕『五つの季節に探偵は』より「イミテーション・ガールズ」試し読み】
https://kadobun.jp/trial/itsutsunokisetsunitanteiwa/1ixx5pepp97o.html

▼【逸木 裕『五つの季節に探偵は』より「解錠の音が」試し読み】
https://kadobun.jp/trial/kaijounootoga/arzv78enws8w.html


逸木 裕(いつき ゆう)

1980年東京都生まれ。学習院大学法学部法学科卒。フリーランスのウェブエンジニア業の傍ら、小説を執筆。2016年、『虹を待つ彼女』で第36回横溝正史ミステリ大賞を受賞し、デビュー。他の著書に『少女は夜を綴らない』『星空の16進数』『空想クラブ』『電気じかけのクジラは歌う』『銀色の国』がある。

市川憂人(いちかわ ゆうと)

1976年神奈川県生まれ。東京大学卒。2016年『ジェリーフィッシュは凍らない』で第26回鮎川哲也賞を受賞しデビュー。他の著書に『ブルーローズは眠らない』『グラスバードは還らない』『ボーンヤードは 語らない』『神とさざなみの密室』『揺籠のアディポクル』がある。

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