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特集

「季節を大切にしたくなる小説です」 人間六度×けんご 対談 『きみは雪をみることができない』刊行記念

取材・文/高倉優子

人間六度『きみは雪をみることができない』刊行記念! 20代の同世代トーク

昨年、第28回電撃小説大賞≪メディアワークス文庫賞≫と、ハヤカワSFコンテスト≪大賞≫をW受賞した文学界期待の星・人間六度さん。10代の頃、白血病を患い闘病した経験を元に、ある病気を患うヒロインが登場する最新刊『きみは雪をみることができない』を発表しました。刊行を記念して、「ブックトッカー」とも呼ばれる人気インフルエンサーけんごさんとの対談が実現! 20代のおふたりが繰り広げる同世代トークをお楽しみください!

ヒロインが冬眠する物語


――人間六度(以下、六度)さんは大学4年生の26歳、けんごさんは社会人1年目の23歳。初対面のおふたりに同世代対談をしていただきます。六度さんは、けんごさんのTikTokの動画はご覧になっていましたか?

六度:はい。「コピーライト能力が高いな」と感心しながら見せてもらっていました。短い動画の中で人の心を掴むって本当にすごい。たとえば「読書感想にぴったりな作品」というテーマで紹介された動画では、「夏休みの宿題ですら楽しめるはずです」というコピーが刺さりました。視聴者を引き付ける言葉選びが、けんごさんの武器ですね。
 個人的に読みたくなったのは『15歳のテロリスト』(メディアワークス文庫/KADOKAWA)。「他人事にはできない社会問題を考えるきっかけにしてほしい作品があります」と紹介されていましたよね。また、安楽死がテーマの『レゾンデートルの祈り』(KADOKAWA)もぜひ読んでみたいと思いました。

けんご:見てくださってありがとうございます。嬉しいです! 僕は自分に合わないと思った本は最後まで読めません。つまり最後まで読み切った作品=面白い小説ということ。紹介する本の基準として、まず僕自身が最後まで読み切った作品ということになるんです。
 小説ってどれだけ売れていても、たとえば300万部を突破したベストセラーであっても、普段本を読まない人は知らないということも多い。だから○○万部とか○○賞の受賞作といった情報は省き、僕自身が面白いと感じたことに焦点を当てて紹介することを心がけています。


――六度さんの最新作『きみは雪をみることができない』はいかがでしたか?

けんご:冒頭に謎があるじゃないですか? それが気になって最後まで一気に読みました。もともとそういう仕掛けがある小説が好きなんですけど、この作品はまさにそういうタイプ。小説って基本的に結末が盛り上がるように書かれているものだと思うんですけど、プロローグから面白いってすごいです。
 また主人公の夏樹は大学生でほぼ同世代ということもあり、大学内の描写もめちゃくちゃリアルに感じました。たとえば「文学部が第一希望だったのに、滑り止めや売れ残りと思われがち」とか、そういう描写についても、わかる!と。

六度:もともと大学が主催する文学賞のために3万字くらいの中編として書いたものなんです。その時は言いたいことがまったく伝えられなくてグダグダになってしまったので電撃小説大賞に応募するため、長編として手直ししました。
 その際、もっと自分自身を投影した作品にしたほうがいいだろうと考えたんです。白血病の闘病経験や、大学に在籍していることでリアルに描ける世界があるはず、と。数ある闘病ものの中で目立てるようなリアリティを目指したいと思い、冒頭の部分を考えました。だからこだわって書いた部分がけんごさんにちゃんと届いていて嬉しいです。

けんご:病気に関する描写は本当にリアリティがあって、他の作品とは違うと感じました。ヒロインの優紀は冬眠してしまう「名前のない病気」を患っているわけですが、架空の病気であればあるほどリアリティを追求するのは難しい。でも六度さんが体験されたことをベースにしているからこそリアルに感じられるんでしょうね。

六度:ありがとうございます。闘病中、自分でもメモを取ったりしていましたが、データとしては母がつけてくれていた闘病日記がかなり役に立ちました。いつ誰がお見舞いに来たとか、食事をどれくらい食べたかなど、写真とともに詳細な記録をつけてくれていたんです。けんごさんがおっしゃった通り、ヒロインは白血病ではないので、病気そのものというより、心の動きを描く上で参考になりました。たとえば、ベッドの上で動けない時の不安やもどかしさなど。

けんご:どうして「冬眠する」という設定にしたんですか?

六度:伝承を元に話を作るのが好きなんですが、グリム童話の「ねむり姫」を現代版にしたらどうなるだろうという発想から広がっていきました。もしずっと眠っている人がいるとしたら、周囲の人にとってどんなことが大変になるだろう、と。

けんご:童話のお姫様のようにただ眠っているわけではなく、栄養補給や排せつのケアをしなければならないという部分まで描かれていましたよね。

六度:僕自身、人工肛門をつけていた時期があるんです。おなかに排せつ物が溜まる袋をつけ、その袋の中の物を一定時間で自ら出さなくてはいけない。漏れ出したら便が散らばって大変なことになるし、とても気を遣うんですが、そういった物を身につけているなんて、洋服をめくらない限りわからない。そういう外側からは見えない病や、表面化しない苦しみというものを描きたいと思いました。
 また相手からすると、恋人が冬眠しているということは冬のイベントを一緒に楽しめないということになりますよね。ハロウィンもクリスマスもバレンタインデーも一緒にいられないというのはけっこう辛いんじゃないかな、と。だから眠る季節として冬を選んだんです。

「もっと夏を大切にしなきゃ」と思える小説


――タイトルにもある「雪」は、おふたりにとってどんな存在ですか?

六度:スキーやスノボといったウインタースポーツが好きで、家族で北海道旅行に行ったりしていました。だから僕にとっては楽しいもの。東京で降ると大変だったりもしますけど。

けんご:九州育ちの僕にとっても特別な存在です。晴れや曇りや雨や雷は、どの季節でも見られますが、日本において雪は冬にしか見られないものですし。僕がもしこの作品を動画で紹介するとしたら、「季節を大切にしたくなる小説です」という切り口にします。僕は暑いのが苦手なので夏が嫌いなんですよ。でもこの作品を読み終えた後、「もっと夏を大切にしなきゃ」と思った。冬以外の季節にこそガンガン推したいな、と。夏場の書店のコーナーでも「タイトルに雪ってついているけど、夏こそ読んでほしい」といったポップが立たないかなと妄想したりしていました(笑)。

六度:いやー驚きました。「夏を大切にしなきゃ」というその感性、素晴らしいです。じつは今作、終章を含めると4章で構成されているんですけど、もともと季節にちなんだ章タイトルをつけていたんです。最終的にその案はなくなったんですが、四季を意識して書いたことが伝わった気がしてすごく嬉しいです。

けんご:ちなみに僕は終章が好きです。あの結末は切ないけれど、すごくよかったと思います。

六度:ありがとうございます。応募作の段階では文字数のオーバーで、泣く泣く削った部分だったんですが、担当編集者さんからアドバイスをもらってあのような形で復活させました。けんごさんに気に入ってもらえてよかった! ありがとうございました。

「聴く読書」の可能性を感じている


――おふたりの普段の読書についてお聞かせください。

けんご:小・中・高と野球一色の生活だったのでまったく本は読みませんでした。大学入学と同時に「お金がかからない趣味がほしい」と思い立って本を買うようになったんです。リアル書店が好きなので、店内を歩きながらポップや表紙を見て気になる本を探していました。初めのうちは○○万部といったベストセラーを選び、その後は、同じ作家さんの他の作品を読んだりと、少しずつ世界が広がっていった感じです。
 SNS活動を始めてからは、フォロワーさんたちが「この作家さんのこの作品が面白いですよ」とか「けんごさんが紹介してくれた作家さんの別の作品がおすすめです」など、逆に僕が勧められる機会も増えましたね。今、いろんな方法で本と出合えているのが嬉しいです。

六度:けんごさんと同じく、僕もまったく本を読まない子どもでした。父が読書家だったので反発する気持ちがあったのかもしれません。最近では勉強の意味でもたくさん読みたいと思っているので、Kindleの読み上げ機能やAudibleといったアプリを活用しています。お風呂場にジップロックに入れたスマホを持ち込んで聴いたり、可処分時間を増やすことを意識して読書しているんです。
 漫画や動画って画面を見ていないとわかりづらいけれど、小説は音だけで楽しめるメディアですよね。今後さらに読み上げ機能等が進化していけば、可処分時間のすべてを読書に充てられるんじゃないかという可能性を感じています。

けんご:その話を聞いていて思ったのは、他のエンタメは流していれば情報が入ってくるけれど、小説だけは自分で取りいかなければいけないメディアなんですよね。でも「聴く読書」なら、他のエンタメ同様に勝手に情報が入ってきてくれる。取り入れればかなり読書のハードルが下がると思いました。

六度:自分から情報を取りにいくという楽しみも当然ありますけど、現代人はせっかちですからね(笑)。小説家としては「聴く読書」が普及してくれることを祈るばかりです。


――それでは、文章を書くことについてはいかがでしょう。おふたりとも得意でしたか?

六度:小学校の高学年くらいの頃、好きになりました。それまでは絵を描くことのほうが得意だったけど、突然「文章を書くって楽しい」と思うようになって。高校に入ってから小説も書くようになりました。でも読書感想文はずっと苦手でしたね。そもそも課題図書じゃなく、自分で好きな本を選ばせて欲しいと思っていたので。けんごさんは得意だったんじゃないですか?

けんご:いえいえ。じつは僕、読書感想文を書いたことがないんです。そもそも宿題自体、提出しない子どもでした(笑)。昨年、中学の担任の先生から連絡をもらったんですけど、「あのおまえが小説紹介をしているなんて信じられない」と言われたほど。本当に小学校から大学までずっと野球ばかりやっていたので。

六度:僕は体力がないのでフィジカル系なのがうらやましいです。今、大学4年なんですが、2年までは合評サークルの会長を務めたり、割と充実した生活を送っていたんですよ。ただ3年以降はコロナ禍だったこともあり、すっかり引きこもりになってしまって……。そのおかげでじっくり小説を書く時間が作れたので結果オーライなんですけど。

けんご:僕は就活の際にオンライン面接を受けたくらいで、あまりコロナ禍の影響は受けませんでした。土日も含め毎日野球の練習をして、稀にある休みには仲間たちと大騒ぎしているような典型的な体育会系の学生でした(笑)。だから僕の読書が趣味だと知っている友だちも少なくて、「Tik Tokを見ていたら急に出てきてびっくりした!」と言われることもよくありました。

六度:野球と読書……ギャップ萌えです(笑)。

文章で人の心を動かしていきたい

六度:ところでけんごさんは動画でヨルシカの曲を使ってらっしゃることが多いですよね。お好きなんですか?

けんご:通勤など電車で移動する時は、ヨルシカしか聴いてないかも。

六度:ヨルシカしか(笑)。

けんご:すごくプライベートな話をすると、3月に大阪、名古屋、東京で各2日ずつライブがあるんですけど、僕、合計、4日行きますからね。それくらい好きなんです。

六度:めちゃくちゃ行くじゃないですか(笑)。僕もヨルシカ、大好きです。もともとn-buna(ナブナ)さん名義の「始発とカフカ」や「夜明けと蛍」が好きで、改稿作業のときはずっと流していました。それにしてもなぜ、ヨルシカもYOASOBIも、ずっと真夜中でいいのに。も「夜」なんですかね?

けんご:彼らのファンのこと「夜行性」って言うし、実際に昼より夜のほうが好きだという人って多い気がします。

六度:確かに、僕も夜に執筆しているし。集中できるんですよね。朝が弱いので、どんどん夜にずれ込んでいくんです。明け方の6時くらいまで書いたりして、それが続くと早起きのパターンになったりして(笑)。僕が大学生だからできることかもしれませんが。


――それでは最後に、直近のお知らせと今後の目標についてお聞かせください。

けんご:4月28日に小説『ワカレ花』(双葉社)を発売します。SNS活動をする中で声をかけていただき、昨年10月に書き始めて約3カ月で書き上げました。ジャンルは恋愛小説です。これまでのSNS活動を反映した僕以外は書けない作品になっているんじゃないかと思います。

六度:ご自身の得意なジャンルで勝負をしかけてこられたんですね。それにしても筆が速いですね。素晴らしい。

けんご:これまで紹介した作品に対して、「大好きな作家さんです」「大きな力をもらえました」など、たくさんのコメントをいただくことがあって。そのたび、文章で人の心を震わせることができるなんてうらやましいなと思っていたんです。だから僕も文章で人の心を動かせるように頑張っていきたいなと思っています。

六度:僕は、デビュー作『スター・シェイカー』を発表したばかりなのでエゴサーチしまくってます(笑)。「めちゃくちゃだけど面白い」と言ってくださっている方がいて安心していますが、勝負はこれからなので気を引き締めていかねばと思っています。現在は3作目の執筆に向けて、準備を進めているところです。けんごさん、同期の小説家としてこれからも仲良くしてくださいね。

けんご:こちらこそよろしくお願いします! 『きみは雪をみることができない』も改めて読ませていただき、新たな感想が浮かんだらお伝えしますね。

六度:ありがとうございます。楽しみにしています。

小説概要



【タイトル】 きみは雪をみることができない
【著者】 人間六度

【カバー写真】 岩倉しおり
【判型】 文庫判
【ページ数】 336ページ
【定価】 本体670円+税
【書店発売日】 2022年2月25日(金)
【レーベル】 メディアワークス文庫
【発行】 株式会社KADOKAWA

【特設サイト】
https://mwbunko.com/special/kimiyuki/

【あらすじ】
恋に落ちた先輩は、冬眠する女性だった――。
ある夏の夜、文学部一年の埋 夏樹は、芸術学部に通う岩戸優紀と出会い恋に落ちる。いくつもの夜を共にする二人。だが彼女は「きみには幸せになってほしい。早くかわいい彼女ができるといいなぁ」と言い残し彼の前から姿を消す。もう一度会いたくて何とかして優紀の実家を訪れるが、そこで彼女が「冬眠する病」に冒されていることを知り――。
現代版「眠り姫」が投げかける、人と違うことによる生き難さと、大切な人に会えない切なさ。冬を無くした彼女の秘密と恋の奇跡を描く感動作。
会うこともままならないこの世界で生まれた、恋の奇跡。
第28回電撃小説大賞≪メディアワークス文庫賞≫受賞作
詳細:https://www.kadokawa.co.jp/product/322110000314/
amazonページはこちら


人間六度(にんげん・ろくど)

1995年名古屋市生まれ。18歳の時、白血病を発症し、臍帯血移植を行う。2018年日本大学芸術学部文芸学科に入学。2021年「スター・シェイカー」で第9回ハヤカワSFコンテスト≪大賞≫受賞。同年「きみは雪を見ることができない」で電撃小説大賞≪メディアワークス文庫賞≫を受賞し、小説家デビューを果たす。

けんご

1998年福岡市生まれ。TikTokにて「けんご@小説紹介(kengo_book)」として小説紹介をするインフルエンサー(ブックトッカー)。紹介した小説がバカ売れし、重版を重ねるという社会現象を巻き起こす。21年12月には「第1回けんご大賞」を発表。独自の感性で紹介した小説が次々と重版出来するなど、出版界を賑わせている。2022年4月28日には処女小説となる『ワカレ花』(双葉社)を上梓予定。今後は小説家としても活動する。

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