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特集

「ハッピーエンディング」のその先は?劇団雌猫が『無駄に幸せになるのをやめて、こたつでアイス食べます』を読んで考えた 【劇団雌猫 座談会(後半)】 

構成・文=松永麗美
劇団雌猫イラスト=kamochic

「無駄に幸せ」を読んで劇団雌猫が語る、幸せの多様性

第6回カクヨムWeb小説コンテスト キャラクター文芸部門大賞受賞作である『無駄に幸せになるのをやめて、こたつでアイス食べます』(著者:コイル / メディアワークス文庫/KADOKAWA)。
生活も恋もすべてを後回しにして仕事に邁進してきた莉恵子と、住む場所を夫の裏切りとともに失った芽依。頑張りすぎる女子と頑張るのをやめた女子ふたりが、突然始まった同居生活を通して自分らしく生きる姿を描いた本作の発売を記念して、劇団雌猫からひらりささん、もぐもぐさん、かんさんをお招きした座談会を開催しました! 主人公ふたりと同年代の働く女子でもある劇団雌猫が語る幸福論と日々を幸せにするヒント、前後編にわたってお届けします!

▼前編はこちら
https://kadobun.jp/feature/talks/6ijdvzl7roo4.html

劇団雌猫紹介文

ひらりさ、もぐもぐ、かん、ユッケの4名からなる平成生まれのオタク女性ユニット。インターネットでは語られない「周りのあの子」の本当のところを知りたい!という純粋な興味から2016年冬にスタートした同人誌『悪友』シリーズが話題沸騰となり、商業活動を開始。著書に『海外オタ女子事情』 (KADOKAWA)、『浪費図鑑-悪友たちのないしょ話-』(小学館)シリーズ、など。3月10日に『世界が広がる 推し活英語』(学研プラス)発売予定。  
Twitter:https://twitter.com/aku__you


――主人公ふたりがそれぞれ違う前進の仕方をしていく姿も、本作の魅力ですね。少し話は逸れますが、この作品の中には小さな「日々を幸せにするスキル」が散りばめられていますよね。雌猫さんたちも、自分をちょっと幸せにするためにやっていることってありますか?  

もぐもぐ:私の場合は、ちょっと良いランチを食べること!インスタとかで写真をめっちゃ見て調べて、「これは写真で映えてるだけかもしれないな」とかまで吟味して、気持ちを高めてから行ってます(笑)。

かん:私はこんまりさんの「唯一ここだけは自分の好きなものを好きなように詰めていい引き出しをつくる」っていうのを実践してる。
(※こんまり=近藤麻理恵さん。独自に編み出した「こんまり®メソッド」を通して、自分の価値観や感性を明確にし、自信を持って自分らしい日々を過ごせる『人生がときめく片づけの魔法』を実践している片付けコンサルタント。)

もぐもぐ:へえ〜! その引き出しだけ自由で、片付けなくていいってこと?

かん:そうそう。こんまりさんの場合はその引き出しにアロマが入ってるんですよ。こんまりさんはアロマが大好きで、その引き出しだけは好きなものをめちゃくちゃ詰めていいっていうのがストレス発散なんだって。私もそれを真似してお香とかめちゃくちゃ詰めて、引き出しを満タンにしては使い、また使っては詰めて、ってやってます。

もぐもぐ:その引き出しを開ければ必ずハッピーになれるってことか。宝箱みたいだね。

ひらりさ:私は結構クヨクヨするタイプだから、将来のこととかを考えすぎると不安になるんですよね。だから何かをやるというよりは、やらないように、考えないように……(笑)。

一同:(笑)

ひらりさ:あ、でも最近日記を書いているんですよ。そこでは周りが何をしているかや5年後どうしたいか、みたいなことじゃなく、「昨日の自分に比べて今日の自分は調子いいかな?」って基準で書くようにしています。
あと「Twitterやめたい」っていうのはもう100万回言ってますね(笑)。ちょっと中毒になっちゃってるんで、年明けからアプリを削除して3日くらい我慢してはまた入れて、みたいなことを繰り返して、ちょっとずつ我慢できる日数を増やそうとしているところです。


――何かを足すのではなく、引くことで幸せにするパターンですね。

ひらりさ:Twitterは本当に自己肯定感が下がるなって思うんですよ。しかも他人の投稿を見て下がる面と、「またこんな無駄なことに時間を使ってしまった」って形で下がる面とがある。特に何か新しい情報がなくてもダラダラ見ちゃうといちばん自己肯定感が下がるから、それを無くしたいんですよね。せめてアプリじゃなくブラウザから見るだけにしようと頑張っては失敗しているので、あまり偉そうには言えないんですけど……。

もぐもぐ:わかる〜。  落ち込んでる時にSNS見ちゃうとイライラしちゃうよね。「だめだ!これは負のループ!」って思ったら敢えて距離を置くのはメンタルのために大事だなって思うよ。

ひらりさ:そうそう。だからさっき話した、芽依は住む場所を変えたことがきっかけになっていろいろ付いてきたって話にも通じるんですけど、細かい習慣であっても「なんとなくこれをやっている時の自分は嫌だな」って思うものをひとつやめてみるのは良いかもしれない。

かん:それ、私の場合は自炊することから逃げて、特に食べたいものがないのにUber Eatsから頑張ってメニューを探してる時の自分だな……(笑)。

一同:(笑)

ひらりさ:でも自炊って、生活の中で自己肯定感高めるのに良い方法ですよね。私は今イギリスに住んでいるんですけど、ちょっと遠くまで歩いて中国系のスーパーで白菜を見つけた時の喜びとかがすごい。こっちでは料理酒がめちゃくちゃ高くて1本3000円くらいするんだけど、Twitterで「今Amazonで半額になってる!」って教えてもらえたことで滑り込みで安く買えたり、そういうことが日々の楽しみに繋がってます。まあ、結局Twitterに頼っているんだけど(笑)。

もぐもぐ:コロナの影響もあるけど、日々の生活の中で幸せになれるって大事だよね。この作品の中でも、莉恵子が最新型の薄いコタツをヨドバシエクストリーム便で買うエピソードがめっちゃ好き! そこでAmazonでも楽天でもなくヨドバシエクストリーム便なのもわかる! 衝動買いだけど、昼に欲しいって思ったものが夜届くってテンション上がるし家に帰るのが楽しみになりますよね。私もコタツ買いそうになりましたもん、間一髪で踏みとどまったけど……(笑)。 莉恵子は「すごく頑張ったんだから今日は高いクリーム塗りまくろう!」とか、そういう幸せの手段をいっぱい知ってるのが良いよね。


――握手会とか良席ゲットとかで感じる幸せとはまた違う幸せですよね。

ひらりさ:そうなんですよ、20代はオタク活動でぶち上がっていれば日々もなんとかなってたんですけど、アラサーともなるとぶち上がるのも疲れたりするので、ベースになる部分を、穏やかな凪状態を保ちつつちょっとずつ底上げしていかないと今後厳しいなって思っていて。

かん:ここ数年はコロナでの公演中止や延期も増えて、楽しいイベントに期待しては無くなってっていうのを何度も繰り返してるから、やっぱりもう現場依存だとメンタルが持たないよね。これは30代に限らずどの世代にも共通して言えると思うけど、幸せを外部要因に依存しすぎると、裏切られたときに持ちこたえられない。イベントが無くなったから次のイベントで挽回しようって思っていても、その次も無かったとか全然ありますからね。

もぐもぐ:めっちゃわかる。日々をちょっとずつ充実させておかないと、そういうことがあった時に保てなくなってくるよね。

ひらりさ:だからこそ、イベントとかここぞというときにぶち上がれるように、ボトムアップが必要なんです。あと、これはまたちょっと別の話かもしれないんだけど、以前は普段がゼロどころかマイナスでイベントが始まった瞬間元気になるみたいな感じだったんだけど、今は普段から元気じゃないとここぞと言う時にぶち上がるだけの体力も無いんですよね……。だから気持ちの前に体力が大事だなって実感してる。

もぐもぐ:元気であれば意外と気持ちもついてくるしね。で、元気であるためにはやっぱり普段の生活から整えておかないと。だから莉恵子が家の片付けしてるの超応援しながら読んじゃったし、私も一緒に家に転がっている通販の段ボールを全部処分した(笑)。    


――今のお話もそうだと思うんですが、時代の変化や年齢を重ねたことで「幸せ」の価値観が変わってくることもありますよね。

もぐもぐ:ネットでいろんな人の意見が入ってくるから、どうしても他人の評価で判断しちゃうところってありませんか? 例えばネットで「この映画は駄作だ!」って批評されているのを見て「そうなんだ、じゃあ観るのやめとこう」って思ってしまったり……。でも、実際に観たら結構面白いこともあるし、ここ数年は他人の意見や評価よりも、意識して自分が体験したことを重視するようになってきました。いろんな物事に対して、それをプラスに取る人もいればマイナスに感じる人もいるよねってくらいのバランス感で判断できるようになった。
それと同じで、この作品に出てくる「一般的な幸せに当てはまらないかもしれないけど本人たち的には幸せ」っていうのも、それはそれでひとつの形だよねって思うんですよね。「一般的な幸せ」が常に「無駄な幸せ」なわけじゃないし。どっちが良いとかじゃなく、以前の芽依が望んでいた結婚して子供産んで〜みたいな形も幸せだし、莉恵子みたいにバリバリ働いてるのもアリ。今の親友とふたり暮らしして毎日楽しいのも幸せ。


――この作品のタイトルには「無駄に幸せになるのをやめて」という言葉が入っていますが、無駄に=旧来的な幸せじゃなく、本質的な幸せを追い求める物語なのかなと思うんです。

ひらりさ:幸せか……。でも私はまだ何が幸せな人生なのかわからないな。「今日、今一瞬今幸せ」って瞬間と、「今なんか嫌かも」っていう繰り返しで人生ができているのであって、人生に明確なハッピーエンドがあるわけじゃないってことに、最近やっと気がついたところだから。
そもそも人生はルートとエンディングによって構成されているものではなく、日々の気持ちが折り重なってできているものだから、今ハッピーだからってそれが永遠に続くかはわからないし、今アンハッピーな人が10年後もそうかはわからない。それはこれからの自分次第だったりするから、「これが幸せ」って考えが変わったというよりは、幸せのモデルが変わったところはあるのかもしれないですね。
あと幸せって、頑張った結果として手に入るものでもなかったりする。それに気が付いたから、「幸せ=ハッピーエンド」って価値観や、「あの人より自分の方が頑張っているのに」みたいな気持ちは前より無くなったかな。何が幸せかを考えるのも大事だけど、「幸せとは頑張れば手に入るエンディングである」って思考から抜けたらだいぶラクになった感じがしますね。

もぐもぐ:「頑張ってハッピーエンディングを勝ち取ろう!」とかじゃなく、「今、幸せだな」って瞬間を増やしていこうってことだ。

ひらりさ:もちろん人にもよるとは思うんだけどね。私の場合もともと30歳以降の人生が見えてなかったから、30歳を超えても人生が続いていたことによって幸せのモデルが変わったのもあるかもしれない。10代は受験で20代は就職、あともしかしたら人によっては結婚とか出産みたいな、みんなが目指す大きい節目って全部20代までにある気がしてしまっていて、その先の長い人生ってものにまでは当時は想像が及ばなかったんだよね。

もぐもぐ:たしかに「今」と「老後」の間って想像しにくいかも。あんまり地続き感無いよね。長い時間があるはずなのに。

ひらりさ:あと、私はマンガやライトノベルを読んで育ったんですけど、振り返ると、主人公や出てくるキャラクターの年代が10代、20代ばかりだったんですよ。それも30代以降を想像しにくい理由のひとつだったのかも。だからここ10年くらいでライト文芸やそれ以外のジャンルでも出てくるキャラクターの年代が広がって、中年・高齢のキャラクターが出てくる作品や明確な恋愛ハッピーエンドだけで終わらない作品が増えてきたのは良いことだなと思いますね。


――キャラクターのその後の人生が中年以降まで地続きで続いていくような作品が増えてくると、読む人の価値観もさらに変わっていくのかもしれませんね。

ひらりさ:そう、だからこの作品も絶対続きが読みたいですよね! 個人的には芽依編の続きがあってほしいな。

もぐもぐ:私は莉恵子に懐いてくる歌い手・蘭上が愛しくて気になるキャラだったので、     その後も知りたい!続刊、楽しみにしています!

作品紹介



無駄に幸せになるのをやめて、こたつでアイス食べます
著者:コイル
カバーイラスト:海島千本
メディアワークス文庫/KADOKAWA刊
大好評発売中
定価:737円(本体670円+税)

お仕事女子×停滞中主婦の人生を変える二人暮らし。じぶんサイズのハッピーストーリー
仕事ばかりして、生活も恋も後回しにしてきた映像プロデューサーの莉恵子。旦那の裏切りから、幸せだと思っていた結婚生活を、住む場所と共に失った専業主婦の芽依。
「一緒に暮らすなら、一番近くて一番遠い他人になろう。末永く友達でいたいから」そんな誓いを交わして始めた同居生活は、憧れの人との恋、若手シンガーとの交流等とともに色つき始め……。そして、見失った将来に光が差し込む。
これは、頑張りすぎる女子と、頑張るのをやめた女子が、自分らしく生きていく物語。
【本書だけで読める、番外編「十六歳の神代と、ネズミの姫」を収録】

公式作品ページ https://mwbunko.com/product/322107000143.html
amazonページはこちら




コイル

東京在住。映像制作会社勤務。2020年にカクヨムに投稿した『オタク同僚と偽装結婚した結果、毎日がメッチャ楽しいんだけど!』を「電撃の新文芸」で刊行し、作家デビュー。2021年には、第6回カクヨムWeb小説コンテストに投稿した『無駄に幸せになろうとすると死にたくなるので、こたつでアイス食べます』がキャラクター文芸部門≪大賞≫と《ComicWalker漫画賞》を受賞し本書の刊行に至る。

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