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「おらが、おらで」あるから幸せになれる――『あっぱれ!! わけあり夫婦の花火屋騒動記』しそたぬき レビュー【評者:吉田大助】

月夜に屋根から落ちてきた男と即結婚!? 笑い、ときめき、ネオ江戸小説
『あっぱれ!! わけあり夫婦の花火屋騒動記』しそたぬき

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あっぱれ!! わけあり夫婦の花火屋騒動記』しそたぬき



「おらが、おらで」あるから幸せになれる

評者:吉田大助

 いきだ。いなせだ。日常会話ではまず使うことのない言葉が、読み進めていくうちに自然と心の中から引き出されていった。ライトノベルと一般文芸を架橋する「富士見ノベル大賞」の第4回入選作、『あっぱれ!! わけあり夫婦の花火屋騒動記』(しそたぬき)。江戸が舞台の新感覚時代小説だ。
序章で描かれるのは、人口百人余りの村を飛び出し、江戸を目指すと決めた青年の姿。青年は、「おらに出来る事」は「何もない」と思っている。しかし──<江戸には大勢の人がおる。そんなに人がおるんじゃったら、一人くらい、おらを必要としてくれる者がおるんではなかろうか? おらが、おらでも、笑顔に出来る人がおるんではなかろうか?>。青年の詳しい素性は明かされぬまま、本編が幕を開ける。
本編の語り手を務める主人公は、江戸の外れの貧乏長屋、通称「わけあり長屋」に住んで1年余りとなる独身女性のソラだ。冒頭、隣人たちとのご近所付き合い&井戸端会議を通して、7対3とも8対2とも言われる江戸の極端な男女比率と結婚事情、ソラが少し前まで付き合っていた元カレとのエピソードが明かされていく。「立って半畳、寝て一畳」のこの長屋に、有名な大店の箱入り娘だったソラが暮らしているのは何故か。ソラがこの長屋で一人営む「危険な商売」とは? そろそろ謎が解き明かされてほしいと思い始めたタイミングで、あまりにも意外すぎる登場の仕方で、若い男が目の前に現れる。「おら、決して怪しい者ではありませんから」と主張する大いに怪しい、けれど愛嬌あふれる男の弱みに付け込んだソラは、とある提案をする。「あなた、あたしの旦那になりなさい」。ソラは1年前に火事を起こして一家離散となった花火屋「丸屋」の唯一の後継ぎであり、婿を取って形ばかりの主に据えることで、店を再興させようと企んだのだ。「なるほど。分かりました」。その男──ハルのきっぱりした返事をもって「第一章【晴雲秋月】」の幕は降りる。素晴らしい導入部だ。
とはいえ再興のキーパーソンであるハルは度が過ぎるお人好しで、商売には向いていない。手持ち花火を売り歩きにいくのだが、売り上げは壊滅的なばかりか、悩み事を抱えた隣人を拾ってきてソラの仕事を増やしてしまうのだ。しかし、その仕事が、各話で解くべき「謎」となる。実は本作、いわゆる「日常の謎」のミステリー連作集という側面もある。特に「第二章【籠鳥恋雲】」で描かれる、両国の花火見物で出会った一目惚れ相手を探して欲しい……という少女の依頼は、江戸という時空ならではの謎の魅力といい伏線の大胆不敵さといい、ミステリーとして大満足の仕上がりだ。異色のワトソン&ホームズとして活躍する交際0日婚夫婦は、謎を解くことによって、依頼人との縁ができる。そして、縁は縁を呼ぶ。終盤の展開は、問答無用の快感の連鎖だ。
軽妙洒脱、江戸っ子風情が漂うソラの語り口がとにかく魅力的で、キャラクターたちがみな生き生きしている。彼女たちが「わけあり長屋」に暮らしている理由は、表向きには<罪に問われるわけではないが、大っぴらには口に出来ない、そんな事情を抱えている>からだが、読み進めていくうちに理解が深まる。彼女たちは世間が突き付けてくる良識や「わきまえろ」という圧に屈せず、自分の人生を自分で選ぼうとしている人たちなのだ。
主人公サイドにいる人間たちはみな、弱音を吐かないし言い訳をしない。周囲に不機嫌さを撒き散らさないよう空元気のスイッチは入れるけれども、自分を大きく見せるような空威張りはしない。ここで今一度、序章に記されたハルの心の叫びを引用しよう。<おらが、おらでも、笑顔に出来る人がおるんではなかろうか?>。この物語は「おらが、おらでも」……いや、「おらが、おらで」あるからこそ幸せになれるし周囲の人々を幸せにすることもできるのだと、軽やかな筆致で、しかしこれ以上ないほどに力強く描き出す。
また、この物語において陰に日向に顔を出すのは、現代ではなかなかお目にかかれなくなっている基本的道徳だ。例えば、「情けは人のためならず」。人に情けを傾けることは、巡り巡って自分にいい報いが返ってくる。あるいは、自分の努力や功徳は、誰も見ていないかもしれないけれども、「お天道様が見ている」。
こうしたテーマやメッセージは現代人の心根に通じるものがあるにもかかわらず、もしも現代を舞台にして描いていたら、いささかユートピア的に感じられたかもしれない。江戸が舞台だったからこそそれらを押し出すことができ、全てを輝かせることが見事叶った。いきだ。いなせだ。そして……「あっぱれ」だ!!

作品紹介・あらすじ
『あっぱれ!! わけあり夫婦の花火屋騒動記』



あっぱれ!! わけあり夫婦の花火屋騒動記
著者 しそたぬきイラスト 樹 もゆる
定価: 726円(本体660円+税)
発売日:2022年07月15日

月夜に屋根から落ちてきた男と即結婚!? 笑い、ときめき、ネオ江戸小説
江戸の貧乏長屋に住むソラ。大店だった生家の花火屋は失火により零落。再興を目指して婿探し中だが、難航している。
十五夜の晩、男がソラの居室の屋根を踏み抜いて落ちてくる。ハルと名乗った男は、江戸に来たばかりでゆくあてがないらしい。あきれつつもしめたと思ったソラは屋根の修繕費と引き換えに結婚を提案し、二人は晴れて夫婦となる。
しかしお人好しのハルは厄介事ばかり持ち帰ってくる。一目惚れの相手を探す娘さん、師匠と決裂した絵師の少女、そしてソラの元恋人――。店の再興はどうなる!?

詳細:https://www.kadokawa.co.jp/product/322202001132/
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