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レビュー

剽窃か盗作か。小説家としての倫理上の問いと、その驚くべき結論――『ecriture 新人作家・杉浦李奈の推論 IV シンデレラはどこに』 松岡圭祐 文庫巻末解説【解説:東えりか】

事件の鍵は本の中にあり――。新感覚のビブリオミステリ!
『ecriture 新人作家・杉浦李奈の推論 IV シンデレラはどこに』 松岡圭祐

角川文庫の巻末に収録されている「解説」を特別公開! 
本選びにお役立てください。

ecriture 新人作家・杉浦李奈の推論 IV シンデレラはどこに』 松岡圭祐



『ecriture 新人作家・杉浦李奈の推論 IV シンデレラはどこに』文庫巻末解説

解説
あづま えりか(書評家)

écriture 新人作家・杉浦李奈の推論』の一巻目が発売されたのは二〇二一年十月二十五日。そこから二か月に一冊というハイペースで新刊が出され、このⅣは四月二十五日に店頭に並ぶはずだ。面白さは折り紙付き、松岡圭祐という当代きっての人気作家の実力を改めて思い知らされているところだ。いやはや、すごい。
 主人公のすぎうらは二十三歳の小説家。小説投稿サイト「カクヨム」でKADOKAWAの編集者に見いだされライトノベルの文庫を三冊とハードカバーの一般文芸ミステリー『トウモロコシの粒は偶数』をじようしているが鳴かず飛ばず。その後、とある事情で強制的に書かされたノンフィクション作品は一部の注目を集めたものの、いまだアルバイトで食いつなぐ日々だ。三重県の両親からの「帰ってこい」コールは無視し、近くに住む三つ年上の兄・こうの過剰な心配も振り切って創作にまいしんしたいと思っている。
 だが彼女には小説を書くより秀でたある才能があった。彼女にはマニアックな文学的知識があり、その知識を駆使して推理を重ね、文壇内で起こる事件を解決へ導いているのだ。
 一作目では新進気鋭のベストセラー小説家・いわさきしようと「芥川龍之介と太宰治」についての対談後に起こった、岩崎の二作目の作品の盗作疑惑としつそう事件を解決に導く。
 では日本推理作家協会賞作家で大ベストセラーを次々と放つ元コピーライターの作家、ばしらとうぞうの新作『告白・女児失踪』が実際に起こった女児失踪事件そのままであった理由を推理する。
 ではすいせいの如く現れ一〇〇万部を突破する小説をたて続けに出した作家、さくらに続く新人作家発掘オーディションに合格した李奈と友人作家のゆう、他七名の作家が瀬戸内海のある離島で遭遇した殺人事件を解決する。典型的な密室殺人事件をめぐり李奈の推理はえる。
 そして本書ⅣではRENというネット出身の作家の盗作疑惑に巻き込まれる。
 親会社が医療機器メーカーの出版社グライト出版が大々的に売り出したRENは、年に二十冊も新刊を出し女子中高生を中心にどれもがベストセラー。一〇〇万部突破した作品もあるが文芸評論が出ることは皆無である。文壇は完全無視でも書店では大歓迎だ。しかしRENの著作はそれほど売れない作家たちが書いた「隠れた名作」のアイデアを組み合わせて作られているという告発がネットで炎上し、ブームは突如として失速した。
 日本の法律では盗作やひようせつに対してはっきりした基準があるわけではなく、ストーリー展開やアイデアは同じでも、登場人物名や文章が違えば盗用に問えない。
 著作権は〝思想または感情を創作的に表現したもの〟を保護している。〝表現したもの〟とは文章だ。つまり文章が違えば盗用に当たらないのだ。
 これまで出版関係の難事件を数々解決してきた杉浦李奈のもとに、多くの作家から相談が寄せられるようになったのもうなずける。しかも李奈の著作『トウモロコシの粒は偶数』もまたパクられていることが判明した。
 この問題解決に頭を悩ませる李奈に、今度は脅迫メールが届く。それは「シンデレラの原典をさぐれ」という突拍子もないものだ。一週間以内に回答しなければ身内に災いが起こるという。実際、昨年夏に『シンデレラ物語』の原典に関し、新たな見解を発表する予定だったくわたによしという文学者が死亡事故を起こしていた。周囲に危害が及ぶことを恐れ、李奈は一人で調査を開始する。果たして、RENの事件とシンデレラの原典探しは何らかの関係があるのか。
『écriture 新人作家・杉浦李奈の推論』シリーズを最初からお読みいただいた読者は気づいていると思うが、通底しているテーマの一つが「小説における模倣と剽窃、そして盗作」である。
 小説家を志す人は、好きな作家の文章を真似たり書き写したりすることが多い。新人作家のデビュー作を読んで「あの作家の書き方に似ているな」と感じることはままあることだ。だが独特の言い回しや文章のくせ、あるいは表現をそのまま使用した場合は剽窃とされ、文章やアイデアをそっくり自分のものとする盗用、盗作とはニュアンスが違う。
 このあたりの線引きは大変難しい。オリジナリティと模倣は創作の両輪であって、自覚せずに行っている場合もあれば、確信犯でありながら発覚しない、あるいは疑問視されてもあえて触れられないということも多々あるのだ。
 二〇〇九年第六十二回日本推理作家協会賞「評論その他の部門」受賞作であるくりはらゆういちろう『〈盗作〉の文学史 市場・メディア・著作権』(新曜社)はデリケートで、ともすれば人々が関わらないようにする問題を真正面からとらえた唯一無二の評論である。
 著者は明治時代から現代のネット小説まで言及し、報道されたり論争となった盗作や模倣とされる作品について善悪ではなく客観的に論じている。なかには丸写しで新人賞を受賞し、「受賞のことば」までパクりだったという猛者もさも居たのには驚かされる。
 松岡圭祐には『小説家になって億を稼ごう』(新潮新書)という挑戦的なタイトルながら、中身は非常に実用的な作家になる方法論があるが、その中で小説投稿サイトに用いられたアイデアは他の投稿者も流用して構わないという風潮が蔓延はびこっていることを懸念している。本書でも法律上問題がなくても小説家としての倫理上、人の作品のアイデアを使うことの是非を問うている。
 かつて私もある大家の小説家がノンフィクション作家の体験記をまるまる小説化した本を読んだことがある。あれが現代でネットにさらされたら、多分大炎上しただろうと思う。
 さて本書のもう一つの謎、シンデレラの原典については多くの人が昔から興味を持っていた。いまはディズニーアニメで初めて触れる子どもが多いのかもしれないが、私は絵本や童話から入った。昔の童話には残酷なシーンもあって、ガラスの靴を履くために姉たちは指を切り落とさなくてはならなかった。それが猛烈に印象に残っている。
 十七世紀のフランスの童話作家シャルル・ペローの作品が元になっているため、シンデレラの原典はヨーロッパにあると思われていた。しかし後年、それは覆される。その過程は本書に詳しいが、類似した物語は世界中にあふれており、でんしたのか自然発生的に存在したのかは長く議論されてきた。
 世界的に似たような民話が残っていることは、やなぎくにも研究しようとしていたらしく、『昔話覚書』の中で〝主として二つ以上懸け離れた民族の間にどうしてこのような一致または類似があるのかを、考えてみようとした試みのつもりであった〟ことをたかまさふみが『グリム童話と日本昔話』(二〇一五年三弥井書店)の中で触れている。シンデレラ研究に限ってもやまむろしずか『世界のシンデレラ物語』(一九七九年新潮選書)やはまもとたか『シンデレラの謎』(二〇一七年河出ブックス)などの労作がある。
 松岡圭祐はこれらの研究結果に十分な敬意を払いつつ、大胆な仮説と現代の最先端技術であるテキストマイニングを駆使して杉浦李奈に驚くべき結論を出させている。終盤の知的格闘技ともいうべき議論の構築は、今までの三作品で鍛え上げられた杉浦李奈の成長の証であり、今後彼女が書くべき小説の方向性を表していると思う。
 本シリーズもまた『催眠』『千里眼』『万能鑑定士Qの事件簿』『特等添乗員αの難事件』『高校事変』『水鏡推理』などと同じく大人気シリーズに育っていくのだろう。ただ今一番気になるのは、杉浦李奈の次回作だ。岩崎翔吾事件のノンフィクション作品の次はどんな作品になるのだろう。そろそろ創作に本腰を入れさせてあげたいと思うのは私だけではないはずだ。

作品紹介・あらすじ
『ecriture 新人作家・杉浦李奈の推論 IV シンデレラはどこに』



ecriture 新人作家・杉浦李奈の推論 IV シンデレラはどこに
著者 松岡 圭祐
定価: 880円(本体800円+税)
発売日:2022年04月21日

事件の鍵は本の中にあり――。新感覚のビブリオミステリ!
中堅・グライト出版が大々的に売りだした新人作家REN。刊行した作品が女子中高生を中心に次々ベストセラーになるが、既刊からのパクり問題が浮上しブームは突如として失速。出版界の事件を解決してきた李奈には、被害作家からの相談が寄せられる。自著からの盗作も判明し、頭を悩ませる中、別の難題も抱えていた。「シンデレラの原典を探れ」という不可解なメールが届いたのだ。送り主の意図、そしてその正体は一体……!?
詳細:https://www.kadokawa.co.jp/product/322201000357/
amazonページはこちら


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