文庫巻末に収録されている「解説」を特別公開!
本選びにお役立てください。
(解説:ペヤンヌマキ / 脚本家・演出家)
あれは忘れもしない、2019年の4月1日。新元号が「
小泉さんは大島真寿美さんの小説『ピエタ』をずっと舞台化したくて脚本家を探していたところ、私が主宰する演劇ユニットの公演を観てピンと来たそうで、なんと私に脚本を書いて欲しいと依頼してくださったのです。
それから
『ピエタ』は孤児、貴族、
そんなご縁で、今回文庫の解説にご指名いただきました。自由に書いてくださいね、とたぶん菩薩のような笑みを湛えた大島さんからメールをいただき、
ところで、もし過去に戻れるとしたらいつに戻りたいですか? という質問をされることがたまにありますが、皆さんは何と答えますか? 私は戻りたい時ってないよな、という結論に毎回至ります。逆に、絶対に戻りたくない時は、はっきりとしていて、暗黒だった中二の時と大学卒業したての頃です。暗黒の中二はさておき、大学を卒業して就職もせず、自分は社会から必要とされていないという絶望感と、これから自分はどうすればいいのだろうという不安に
そこで本作『モモコとうさぎ』です。就職活動に失敗して引きこもり生活を送っていたモモコは、家出をし、放浪の旅をします。行く先々で理不尽な目に遭いながらも、モモコなりに、のらりくらりと順応していく。しかしモモコはひとつの場所に
演劇がやりたくて東京の大学へ進学した私でしたが、役者には向いていないことが四年間でわかったし、当時付き合っていた劇団主宰の彼みたいに面白い脚本が書ける気もしなかったし、そもそも演劇で食べていける人なんて
『モモコとうさぎ』で大好きなシーンに、モモコが「仕事って自分で作ったりもするのか」と発見したり、「あ、そうか、わたし、これが好きだったんだ」と気づいたりするシーンがあります。ぼんやりと主体性なく生きてきたように見えるモモコが、他者と出会うことによって気づきがもたらされる。すごく素敵なシーンです。
しかしだからと言って、「好きを仕事に」というキャッチコピーが付くような、好きなことを見つけてそれを仕事にして成功する、主人公が何者かになるようなお話を、大島さんは用意していません。話としては成功
大島さんは「人生、いずれどこかには流れ着く」のだと
それは、全ての人の人生を肯定する、全ての人の生を祝福する言葉だと思います。
その言葉に、かつて人生に迷った人も、今迷いの
大島さんの作品は、全ての人に優しい。どんな人も傷つけない。そんな作品が私は好きだし、私もそんな作品が作りたい。
大島さんのその優しさはどこからくるのでしょう。大島さんのルーツが知りたいです。
私の話に戻りますと、ひょんなきっかけから入ったアダルトビデオの世界でいろんな人と出会い、様々な性癖、価値観に触れたことが創作の糧となりました。
そして私の人生も流れ流れて、小泉今日子さんと出会ったり、小泉さんのおかげで大島さんの作品や大島さんご本人と出会ったり、そして今このような文章を書かせていただいたりしています。まだ流れている途中、これからどんなところに流れ、どんな人と出会うのでしょう。楽しみで仕方ないのです。
モモコはこれからどんなところに流れ、どんな人と出会うのでしょう。
モモコと私と全ての人の人生に幸あれ。
▼大島真寿美『モモコとうさぎ』詳細はこちら(KADOKAWAオフィシャルページ)
https://www.kadokawa.co.jp/product/321912000320/