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レビュー

「これに勝る漢文文法書なし」との声も高い名著を復刊! ――『漢文の語法』巻末解説【解説:齋藤希史】

漢文学習者必携!伝説の文法書復刊
『漢文の語法』

 漢文愛好家に長らく復刊を望まれていた伝説の名著、西田太一郎『漢文の語法』。このたびついに角川ソフィア文庫への収録が実現いたしました。
 校訂・解説をご担当くださった齋藤希史先生(東京大学教授)は、学生時代にこの『漢文の語法』を読み込むことで漢文読解の難所を越えたという、長年の愛読者。
 巻末の「解説」では、そんな齋藤先生が本書の使い方を詳しくご紹介くださっています。皆さまの読書のご参考にしていただきたく、一部を特別公開します!

漢文の語法



40年前の初心者より、すべての漢文学習者へ――『漢文の語法』西田太一郎 文庫巻末解説

解説:齋藤希史(中国文学者、東京大学教授)

 この本の著者が想定している読者は、「はしがき」にあるように、「漢文の初歩的知識をそなえている人々」です。原著が出版されたのは1980年。それから40年あまり経った現在では、「初歩的知識」の意味するところが違うのではないかと思われるかもしれません。けれども、たとえば高等学校の教科書に載せられている漢文教材が易しくなっているわけでも、漢文を読む方法に変化が生じているわけでもありません。『論語』や『史記』や唐詩を訓読で読んでいるのは、同じです。たしかに、漢文学習に当てられる時間は少なくなり、入試科目から漢文を外す大学は増えましたが、学習される読解の水準が下がったわけではなく、「初歩的知識」の意味するところも、少なくとも語法上のそれに限るなら、変わってはいません。漢文がぎっしりつまったこの本を読むには自分の知識が足りないのではないか、などとおそれることはないのです。「初歩的知識」、つまり高等学校の「古典」で習う範囲、あるいはそれほど厚くない大学受験用の参考書にまとめられた範囲の知識があれば、どなたでもこの本を活用することができます。最初にその方法について、四十年前の初心者として少し述べて、本解説の導入としたく思います。

 この本の根幹となっているのは、のべ1270を超える豊富な文例です。文例には著者による訳文が付されています。まずそれを生かしましょう。これを機に漢文をもういちど学んでみたい、という読者には、何よりも文例と訳文をしっかり読む方法が効果的です。ついつい文例を飛ばして解説を読んでしまいがちですが、それはしばらくがまんして、むしろ文例を書き写すくらいの姿勢が望ましく思われます。そうであれば、どの章や節から始めてもかまいません。『論語』や『史記』など、見たことのある文例をつまみ読みするのも手です。その場合でも、そうした文例を含む節ないし小節ごとにまとめて読むことをおすすめします。とにもかくにも、漢文を一字ずつていねいに読む。そして訳文とつきあわせる。原著の「凡例」には、「訳文は構文を示すためにことさらに直訳した場合がある。最良の訳と考えたわけではない」と記されています。つまり、原文の構文を理解するためには「最良」の手がかりとなるように作られた訳文なのです。文例には重なるものがあり、同じ漢文を別の言い回しで訳していることにも気づきますが、訳文は原文の意味を考えるためのものですから、バリエーションがあることは学習者にとってはむしろありがたいヒントになります。漢和辞典を手もとに用意して、気になった語を調べながら読むのもよい方法です。

 漢文をいくらか読み慣れている読者であれば、あるいは右のやりかたで多少読み慣れてきたなら、少し時間をとって、全体を通読するのがよいかと思います。文例をていねいに読み――これは変わりません――、訳文で自らの理解を点検し、解説があれば、相互参照されている節も含めて、文例の理解を深めるために読む。未知の人名や書名が出てきたら、とりあえずメモだけしておいて先に進み、文例の理解を優先させる。出てくる人名や書名は限られていますので、まとめて後で調べてもそれほどの量にはならないからです。何週間、あるいは何ヶ月かを費やすことになるかもしれませんが、そうやって最後まで読み通せば、漢文を読む力はかなりついているに違いありません。

 もちろんこの本は、語法便覧としても有用です。相当に漢文を読み慣れたとしても、漢文の原典を――訓点つきのものであれ、そうでないものであれ――読んでいる時に、語法上はどのように理解すべきか、疑問に思う箇所に出会うことは少なくないでしょう。自らの理解を確かめたくなることもあります。そうした時、漢和辞典や中国語による古漢語辞典も役に立ちますが、この本の目次と索引を活用し、豊富な文例とそれにもとづいた著者の実証的な解説を読めば、より深い理解が得られます。これまで議論になってきた語法については、日中古今の学者たちがどのように考えてきたのかも示され、参考になります。電子版であれば、より網羅的な検索によって、語彙や句法をピックアップすることもできるでしょう。

 (中略)

 40年前の初心者が、漢文を少しは読めるようになりたいと一念発起して、手もとにあった原著の例文を白文ですべて大学ノートに書き写したことがありました。それをコピーしたものに句読点を打って、原著と照らし合わせて復習すれば、いくらかは読解力もつくだろうと考えたのです。どれくらい時間がかかったか記憶はさだかではありませんが、とりあえず書き写して、また句読点を打ってという作業はひととおり終えました。復刊のための校訂作業もそれと似たところがあり、没頭しているうちに、いつのまにか時間が経ってしまいました。共同校訂者の田口さんも原著の愛用者で、全ページにわたって詳細な書きこみをした一冊をまた最初からめくり、『漢文の語法』の世界に潜りながら、作業を進められました。ただひたすら読むということに誘う力がこの書物にはあるのでしょう。著者の謹厳かつ熱のこもった読解の実践が読者にも伝わるということでしょうか。
 
 多くの読者が本書を手にし、いつかまた没頭する誰かが現れることで、与えていただいた貴重な機会に報いられればと願っています。

作品紹介



漢文の語法
著 西田太一郎
校訂 齋藤希史・田口一郎
解説 齋藤希史
定価 1,782円(本体1,620円+税)
発売日 2023年1月24日
ページ数 736

漢文学習者必携!伝説の文法書復刊
「これに勝る漢文文法書なし」との声も高い名著を復刊。漢文の読解力を高めるには、漢字の知識に加えて、「文法」の精確な理解が必要だ。漢字の音と意味の関係や規則、文の構造、例外的な用法などについて『論語』や『史記』などの中国古典の名著から引いた1270を超える文例を用いて実践的・体系的に解説。文例をしっかり読み込み、漢字についての知識と理解を深めることで、確かな読解力を身につけよう。語法便覧、慣用句辞典としても活用できる、究極の指南書。
詳細:https://www.kadokawa.co.jp/product/322007000547/
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