友人の元恋人が仕掛けた爆発物。犯人を追う内、事件は複雑に絡み始める。
『三毛猫ホームズの十字路』赤川次郎
角川文庫の巻末に収録されている「解説」を特別公開!
本選びにお役立てください。
『三毛猫ホームズの十字路』赤川次郎
『三毛猫ホームズの十字路』赤川次郎 文庫巻末解説
解説
私にとって、赤川さんの三毛猫ホームズシリーズは、父の思い出と
今思えば、どうしてあの時、父に三毛猫ホームズの話を振らなかったのか、と思う。父の感想を聞きたかったな、と。大事なことには、いつも後になってから気づく。
三毛猫ホームズといえば、赤川さんの代名詞といっても過言ではない大人気シリーズ(累計部数は、2800万部!)で、テレビドラマ化もされている。数年前、赤川さんの著作の書評で「日本のお茶の間にミステリを定着させたのは、映像ではサスペンス系の二時間ドラマであり、活字では赤川ミステリだと私は思っている」と書いたのだが、このことは折に触れ何度でも書いていきたいと思っている。ミステリは、一部のマニアだけのものではなく、老若男女がそれぞれに楽しめるエンターテインメントなのだ。
本書『三毛猫ホームズの十字路』は、シリーズ第45作。ファンのみなさまにはもうお
今回は、晴美の目が見えなくなる、という衝撃のプロローグから始まる。友人の
大事な妹を傷つけた久保崎を追う片山と石津の前に立ち
シリーズ共通である、メインの事件と同時に枝葉の部分でも事件が起こり、それが絡まりあい、やがて解きほぐされていく、という筋立て、多様な登場人物が物語を
謎解きに至る道すじを示してくれるのが、三毛猫のホームズである、というお約束もばっちり! このホームズ、赤川さんの愛猫がモデルなのだが、愛猫家ならではのホームズの描写には、猫好き読者のハートも持っていかれてしまう。そもそも猫好きの間では、三毛猫の賢さは定評があるのだが、ホームズは格段なのだ。まぁ、なんと言っても、名探偵ですからね、ホームズは。
とはいえ、本書が、いや、三毛猫ホームズのシリーズが、ほんわかとしたコージーミステリかと思えば、そんなことはない。口当たりの良いカクテルだと思って杯を重ねていくうちに、気がつくと泥酔してしまうことがあるように、時折、舌を刺すようなぴりりとした苦味が顔を出す。そもそも、登場人物、ばんばん死にますからね。
そう、三毛猫ホームズシリーズは意外と〝歯ごたえ〟があるのだ。たとえば、久保崎の母親がそうだ。息子を
引っ越し後も1日中TVの前に座っていた国原だったが、団地の自治会長から、見回り班のリーダー役を頼まれたことで、見違えるように生気を取り戻す。そう、彼の張り切りすぎが
この国原の、生活のことは何から何まで人任せなのに、元刑事である、というそのプライドの高さと
さらに、さらに、先ほど、赤川ミステリはほんわかとしたコージーミステリではない、と書きましたが、それとは別に、物語自体というか、赤川さんの人間を見る目には、優しさがあるんです。そこがいい。それは、物語のラスト、晴美の言葉に集約されている。
全ての事件が終わった後、彼女はこう言うのだ。前科のある
「そうね。ただ、どこかで道に迷うんだわ、みんな」と。
晴美のこの言葉が、タイトルの「十字路」とも呼応しているのが、なんとも心憎いじゃないですか。
そうなのだ、ほんわかとはかけ離れた現実の厳しさ、世知辛さまでをもきっちりと描きつつ、けれどその現実に順応することができなかった人を、「道に迷う」と表現するところに、赤川さんの優しい
今年の秋、父の七回忌を迎える。三毛猫ホームズの文庫の解説を書いたよ、と伝えたら、父はどんな顔をしただろう、と思う。その顔を見ることはもう
作品紹介・あらすじ
『三毛猫ホームズの十字路』赤川次郎
三毛猫ホームズの十字路
著者 赤川 次郎
定価: 748円(本体680円+税)
発売日:2022年05月24日
友人の元恋人が仕掛けた爆発物。犯人を追う内、事件は複雑に絡み始める。
友人・絵美の別れ話に立ち会った片山晴美。別れを切り出された男は絵美のアパートに爆発物を仕掛け、爆発に巻き込まれた晴美は目が見えなくなってしまう。兄の片山義太郎刑事は、姿を消した犯人とその母親を追い始める。しかし、見つけた母親を尾行し行き着いた団地では、幼女を襲う犯罪が多発、さらに爆破犯の姉が死体で発見されて……。複雑に交錯する事件の結末は?
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