横溝正史生誕120年記念復刊! 横溝正史の異色傑作!
横溝正史『華やかな野獣』
角川文庫の巻末に収録されている「解説」を特別公開!
本選びにお役立てください。
横溝正史『華やかな野獣』
横溝正史『華やかな野獣』文庫巻末解説
解説
中島河太郎
金田一耕助の名に三十年も
金田一耕助がはじめて紹介されたのは「本陣殺人事件」によってである。昭和十二年の事件で、当時二十五、六歳の青年とある。彼が戦地から復員して、その兵隊姿のままで、戦友から託された謎を解いたのが二十一年で、「年のころ三十五、六、小柄で貧相な男」と描写されている。
この
本書には金田一の関与した三つの事件が収められているが、「華やかな野獣」は昭和三十一年十二月号の「
こういう理詰めの考え方にとらわれず、年齢に超越して名探偵ぶりを見せてもらえれば、それで実は満足なのである。金田一探偵を守る会があるくらいだから、金田一も伝記作者も一千万部の読者に注目されて、今後何かとうるさくなりそうで、同情に耐えない。
題名の「華やかな野獣」とは、この物語のヒロインで、しかも被害者という凶運に見舞われる女性の修飾語であった。すばらしい美貌に恵まれた上、貿易会社を経営する敏腕家、おまけに破廉恥パーティの主宰者でもある。
機略に富み、胆力がすわっていて、しかも
その死体の様相が
パーティ参加者や関係者の聴取が開始されると、
もともとこの金田一が、ホテルのボーイに化けていたのがおかしいのだ。彼の魂胆が明かされて、単なる情痴の果ての犯行だと思われていたのが、新しい展開を示すのである。チグハグだらけの現象が、やがて説明されると、それらの必然性が
「暗闇の中の猫」は昭和三十一年六月、「オール小説」に発表された。著者が金田一に向かって、終戦後の東京ではじめて扱った事件はなにかと問うたとき、この二重殺人事件を思い出してくれた。これがきっかけで等々力警部と
二重殺人事件の意味は、戦後一年ほどしての銀行強盗事件が尾を引いて、新らしい事件を起こしたことを指している。盗まれた紙幣はまだ
犯人の
のちに無二の親友で協力者となる等々力警部も、それを明かされた
それが眼前で、キャバレーのマダムの毒死事件が起こると、急転直下、事件の真相を知っていると明言する始末である。あいかわらず、
犯人の巧妙なトリックもさることながら、それを
「睡れる花嫁」の事件は昭和二十七年十一月に起こったとある。七月の「幽霊座」事件、翌年の「三つ首塔」の物語に
金田一の事件簿のなかでも、きわだって陰惨である。いわくつきのアトリエから出た男を訊問した警官が刺し殺される事件が発端で、いまわしい死姦魔が
犯人像はほとんど明確だといっていいのだが、金田一の人間性観察と心理分析が、微細な点まで行き届いていて、それが犯罪工作の真相を鋭く看破する。決して表面だけに惑わされぬ金田一の本領が発揮されて、読者は快い敗北感を味わうことになるのである。
作品紹介・あらすじ
横溝正史『華やかな野獣』
華やかな野獣
著者 横溝 正史
定価: 792円(本体720円+税)
発売日:2022年03月23日
横溝正史生誕120年記念復刊! 横溝正史の異色傑作!
臨海荘の大ホールでは、大勢の男女が集うパーティが催されていた。
一夜限りの相手を物色する享楽的な宴が終わろうとした矢先、ベッドルームで死体が発見!
被害者は美しい女主人で、左の乳房をえぐられていた。ボーイに変装し潜入していた金田一耕助は駆けつけた警官たちと取り調べを開始する。
だが、事件の裏には大規模な麻薬密売が複雑にからんでいて……。
表題作に「暗闇の中の猫」「睡れる花嫁」を加えた傑作本格推理。
詳細:https://www.kadokawa.co.jp/product/322111000523/
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