文庫巻末に収録されている「解説」を特別公開!
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忘れようにも忘れられない強烈無比なインパクトを備えた一冊――『虚像のアラベスク』【文庫巻末解説】
解説
宇 田 川 拓 也 (ときわ書房本店)
ミステリの魅力に心
けれど、
ふたつの中編とひとつの掌編からなる本作は、『エコール・ド・パリ殺人事件 レザルティスト・モウディ』や『トスカの接吻 オペラ・ミステリオーザ』といった著者の初期作品から活躍を見せている〝芸術探偵〟こと神泉寺瞬一郎と
第一話「ドンキホーテ・アラベスク」は、名門バレエ団に届いた脅迫状をめぐるスリリングな一編。《『ドン・キホーテ』の公演を全て中止にしろ。さもなければ、公演中に舞台上でとんでもないことが起こることだろう》──そんな創立記念公演の中止を要求する差出人不明の封書が届いた直後、なんと来日予定の欧州委員会委員長がよりによってこの公演を観劇することに。今回の演目には危険をともなうシーンも多く、頭を悩ませる警護担当の海埜警部補は、瞬一郎とともに万全の備えで当日に臨むが……。
第二話「グラン・パ・ド・ドゥ」は、旅から旅を続ける〝踊り子〟のひとりである乙女チックな語り口が特徴の夕霧を視点人物に据えた物語。公演中のある日、夕霧の所属先である〝プロダクション〟の社長が大きな
本作に仕掛けられた最大のサプライズについては、多くを述べるよりもとにかく実際に味わっていただくのが一番だろう。この大胆不敵にもほどがある一撃を成功させるために惜しげもなく注がれた「そこまでやるか!」と
そして最後に用意された掌編「読まない方が良いかも知れないエピローグ 史上最低のホワイダニット」が、まさにタイトルに偽りなし、〝史上最低〟の名に恥じない真相で、このある意味極めて切実な動機は、心の広い読者の間で永く語り継がれることだろう。
ところで、もし本作で初めて深水黎一郎作品に触れたという向きがいるなら、ここに描かれた強烈な驚き、度を超えた周到さ、恐れ知らずの稚気は、著者の才能のほんの一部であることをお伝えしておきたい。加えて、本作のあとに書かれた〈芸術探偵〉シリーズのひとつ『詩人の恋』(二〇二〇年)に手を伸ばすことを強くオススメする。作曲家シューマンの歌曲集
あわせてお読みいただければ、著者が数々の輝かしい経歴を誇り、いかにミステリファンからの信頼厚い書き手であるか、より明確にご理解いただけることだろう。
作品紹介
虚像のアラベスク
著者 深水 黎一郎
定価: 880円(本体800円+税)
やられた! 担当編集も悶絶!
名門バレエ団に届いた脅迫状。そこには、公演を中止しなければ舞台上でとんでもないことが起こると記されていた。
警備にあたる海埜警部補は、臨席する海外要人の身の安全のため、芸術関連の事件を数多く解決した甥“芸術探偵”神泉寺瞬一郎に協力を仰ぎ万全の体制を整える。
だが、公演当日、海埜が見守る舞台上で、信じられない光景が繰り広げられる! 何もかもが前代未聞。誰もが騙される、幻惑必至のどんでん返しミステリ。
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