楡周平『ヘルメースの審判』(角川文庫)の巻末に収録された「解説」を特別公開!
楡周平『ヘルメースの審判』文庫巻末解説
解説
「これから先の日本では、経緯こそ異なれど、ニシハマと同じような危機に直面する企業が続出するでしょう。従来の企業のあり方を根本から見直し、大胆な改革を行わない限りはね……。その時、何が起こるかは、誰にも分かりません。それこそ、神のみぞ知る。神の審判次第ですよ」
「商人の守護神といえば、ヘルメース……。果たして、ヘルメースはニシハマにどんな審判を下すのだろう……」
巨大総合電機メーカーのニシハマは、なぜヘルメースの審判を仰ぐこととなるのか。それは、打破されるべき悪弊が根強く存在し、同社の行く手を阻んでいるからである。ミスを犯せば、出世の道が断たれてしまう。与えられた仕事のみを無難にこなすだけになり、チャレンジしようとはしない。過去の成功体験にしがみつき、時代遅れのビジネスモデルのなかで必死に延命を図ろうとしている。最難関と考えられている東都大学出身者以外は役員になれない。言語・文化・習慣・教育・価値観の多様性を共有しようという姿勢が希薄。改革を唱える人間は、和を乱す「異物」としてしか見られない……。そのような悪弊は、ニシハマのみならず、多くの日本企業に程度の差はあれ、残されているのが現実なのではなかろうか。
本書は、そうした悪弊がいかに組織を疲弊させていくのかという点にメスを入れた「警世の書」である。と同時に、そこから脱却するには、どのような方策が考えられるのかという点にも視野を広げた「悪弊打破の特効薬」にもなる作品。さらに言えば、より広く日本の大企業がグローバルに事業を展開するために、なにが必要か、そしてどのようにステップを踏んでいけばよいのか、そのために不可欠なアイデアやヒントとはなにか、それらの一端を知りえる力作である。
ニシハマのモデルは、
主人公は、アメリカで教育を受け、ハーバード大学を優秀な成績で卒業した
ラストに用意されているドンデン返しに至るまで、
経済小説の作家としての
それだけではない。「企業の再生」から始まった彼の作品世界は、「地域の再生」(『プラチナタウン』、『和僑』、『サンセット・サンライズ』)へと広げられ、さらには、「日本が抱える大問題」や「政策提言」など、「日本の再生」に関連した領域にも拡充されている。例えば、①カレー専門店を素材として農畜産業のあり方を描いた『国士』、②ネット通販と非正規労働者を
そこで強調しておきたいのは、「企業」「地域」「日本」という三つの再生が有機的に結びついた形で進んでこそ、しかもグローバルな視点をベースにしてこそ初めて、それぞれの真の再生・活性化が果たされるという考え方が確立しているように思われることだ。確かに、コストを削減し、利益率を向上させるというやり方は、個々の企業の目線で言えば正しいし、生き残るためには仕方がない面もある。ただ、それだけで終わってしまっては、得られる効果は限られてしまう。特定の企業だけ、特定の地域だけで完結してしまうのであれば、「世の中の人の幸せ」、ひいては「日本の再生」にまでは行き着かないからだ。個々の作品が「警世の書」になっているだけではない。「楡の作品世界」自体が「警世の切り口」になっている。読者に響くのは、単に「頑張れ、企業」、「頑張れ、地域」、そして「頑張れ、日本」という言葉だけではなく、ビジネスモデルという形で、どのようにして頑張っていけばよいのかについても、具体的かつ現実的に踏み込んで言及されているからである。
混迷の時代、『ヘルメースの審判』をはじめとする楡の作品には、読者ひとりひとりの心に届き、生き方にも訴えかけているような迫力が備わっている。
作品紹介
書 名: ヘルメースの審判
著 者: 楡周平
発売日:2024年07月25日
粉飾、癒着、学閥……。 大企業病に立ち向かえ!極上経済エンタメ小説!
世界的電機メーカー・ニシハマの創業一族に婿入りした梶原賢太は、原発建設のプロジェクト携わっていた。建設計画に遅れが発覚し、莫大な損失が危惧されるニシハマは、窮地に立たされる。奔走する梶原のもとに常務の広重が現れ、使用済み核燃料の最終処分場建設という、政官財を巻き込む一大プロジェクトの遂行を命じる――。経営陣からのプレッシャーに屈せず、前代未聞のビジネスを成功に導けるのか。波瀾の企業エンタメ!
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