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レビュー

2人の男がスカイダイビング中溶けて混ざり、消失した。これは超常現象か、犯罪か?『グアムの探偵3』

 お待たせしました! 「グアムの探偵」、シリーズ第三作刊行です。
 既にシリーズを読まれている方が大半かと思いますが、この巻がシリーズ最初、という読者の方もいらっしゃるかもしれない――このシリーズは、どの巻からでも面白く読めることも魅力の一つなのだ――ので、まずはこのシリーズの輪郭を。
 タイトルにある通り、物語の舞台はグアム。ん? 何でグアム? 何で探偵? と思った方(私もその一人)は、既にこの物語に片足を突っ込んでしまった状態だ。あとは、もう読むしかない。ちなみに、この、タイトルの妙というのは松岡圭祐さんの他の著作にも表れていて、「催眠」「千里眼」両シリーズはもちろん、『ミッキーマウスの憂鬱』(時代を先取りした傑作!)、「万能鑑定士Q」シリーズ、「特等添乗員α」シリーズ(万能鑑定士も特等添乗員も、絶妙なフック!)、「探偵の探偵」シリーズ、「探偵の鑑定」シリーズ、『シャーロック・ホームズ対伊藤博文』(!)etc……と、読者の目をすっと引き寄せてしまう力がある。
 グアムに関する旅行ガイドには必ず載っている、グアム最大のショッピングモール、マイクロネシアモール。繁華街のタモンからシャトルバスが出ているそのマイクロネシアモールから、1号線沿いに徒歩三分の立地にあるのが、イーストマウンテン・リサーチ社だ。同社は、祖父であるゲンゾーが社長、父であるデニスが副社長で、その息子であるレイとともに、三代にわたるヒガシヤマファミリーが経営しており、ゲンゾーもデニスもレイも、探偵のライセンスを持っている。
 グアムはアメリカの準州であり、私立探偵とは準州政府公認の私立調査官を意味するため、日本の私立探偵よりも格段に権限を持つ。何しろ拳銃の所持が認められているのだ。他にも、刑事事件への関与も、制限付きとはいえ警察のデータベースにもアクセス可能。この、日本との地の差、も松岡さんがグアムを舞台にした一因だろう。
 ちなみに、純然たる日本人は77歳になるゲンゾーだけで、デニスはゲンゾーとフランス系アメリカ人の母の間に生まれたハーフであり、デニスと日本人女性の間に生まれたレイはクオーター。ゲンゾーとデニスは元ロサンゼルス警察の警察官で、レイは大学卒業後、警察学校の研修を経ている。
 物語は、この三人がイーストマウンテン・リサーチ社に持ち込まれた依頼を解決していく様を描いていくのだが、“日本語に堪能な探偵がいる”ことが社のセールスポイントでもあるため、持ち込まれる依頼は日本人観光客絡みのものが多い。
 と、本シリーズの背景説明はここまで。本書は1、2同様に五編からなる。第一話「ワームホールへのタンデムジャンプ」では、デニスとレイが、ゲンゾーの号令一下、イーストマウンテン・リサーチ社のチラシ投げ込みの島巡りに出かける。アメリカの探偵事務所は、たいていが警備会社を兼ねており、イーストマウンテン・リサーチ社も然り。とはいえ、契約しないままでも“友達のよしみ”で留守番を頼まれれば、無報酬であろうとも無下に断るわけにもいかない。そんな馴れ合いの日々に業を煮やしたデニスの宣言で、警備に対する依頼への対応をシステム化、相談は全てサイト上で無償で受け付ける、質問には専門家からの助言として、文章で回答することに。その回答が遅れていることを指摘されたレイは、デニスとともに丸二日かけて南西部にちらばる別荘地を一巡し、ビラを配る。
 第一話の依頼は、スカイダイビングの最中、インストラクターと共に空中に消えてしまった夫の行方を捜して欲しい、という尾栗おぐり洋子ようこからのもの。空から降ってきたのはパラシュートとバックパックのみ。確かに途中までは降下していた二人は、何処へ?
 第二話「メモリアル・ホスピタルの憂鬱」では、難病治療のためにグアム入りした日本人の患者とその家族の警護を依頼され、その任にあたったデニスの奮闘が描かれる。依頼人は橋浦はしうら椙人すぎとで、妻の杏奈あんなともども、七歳になる娘の美咲みさきの治療のため、家族にとっては四度目のグアムだった。「線維筋痛症」(全身の広い範囲に、慢性的に激しい痛みが生じる病気で、原因が不明のもの)に苦しむ美咲だが、不思議とグアムでは発作が軽減するとのこと。実は美咲は夫妻の実子ではなく、二年前に施設から引き取った養子だった。二度目のグアム訪問の時、帰りの空港にいきなり怪しい男があらわれ、前回は到着時の空港にもいた、という。その男は美咲の腕を掴んだものの、助けを求めた警備員が空港警察を呼んでくれて大事に至らなかった、という。男はなぜ美咲を狙っているのか……。
 第三話「ラッテストーンは回らない」は、ゲンゾーの古くからの友人で、グアム大学の名誉教授であるトキフミ・セラの行方不明事件を描く。セラの孫娘である世羅美月せらみづきから依頼を受けたイーストマウンテン・リサーチ社だったが、まるで神隠しにあったかのようなトキフミと彼が残した謎の言葉に翻弄される。果たしてトキフミは何処に? ちなみに、ラッテストーンとは、グアムの島中にある、珊瑚さんごでできた石柱群。八世紀ごろから作られたとされ、チャモロ文化唯一の遺跡でもある。
 第四話「スプレッド・ウィズSNS」は、日本人旅行客が巻き込まれたトラブルに端を発する“事件”を描いたもの。ある朝、二日酔いの頭を抱えて出社したレイは、オフィスに依頼人が殺到していることに驚く。しかも、依頼人は日本人ばかり。本来は接客担当ではない部署の社員までもが駆り出されていた。きけば、みな似たような相談内容――スマホやデジカメで画像を撮っていたところ、いきなり軍人に囲まれパスポート番号と氏名を記録された――だという。同内容の相談で、日本の総領事館へも日本人旅行者が押しかけているらしい。いったい、彼らは何故そんな目に?
 第五話「きっかけはフィエスタ・フードコート」は、レイがオフィスで受けた匿名電話から始まる。日本人が偽送迎の被害にあっている、と。その犯人は常習犯の男。通報者が指摘した場所に駆けつけたレイは、そこでカモられかけていた日本人の若い女性を救出する。その女性が世間知らず、かつ天然なことに半ば呆れるレイだったが、彼女がグアムを訪れた理由が、グアムの島民なら誰でも知っている超大金持ちの老婦人がらみの件で、グアム・マクミラン銀行の預金口座管理部長に招かれたからだと知ったことがきっかけとなり、ある事件に巻き込まれることに。
 こうして書き出してみるだけでは、個々の物語の魅力は伝わらないが、とにかく一つ一つの物語のミステリとしての密度が高いのだ。五つの物語に共通しているのは緻密な伏線とその回収で、それがまぁ、実に見事! さらりと読んでいたエピソードが、物語の中では重要な鍵になっているのである。そのことが明らかになった時の、頭の中が!マークで満ちていく爽快感がたまらないし、思わずページを遡って読み返し、その伏線の周到さに舌を巻いてしまう。参りました、と言いたいくらいの鮮やかさなのだ。
 本書の魅力はそれだけではない。グアムという国に対する認識――ハワイよりも手軽に行ける南国のリゾート、穏やかでのんびりとしたイメージ――が深まっていくこともその一つ。例えば日本の警察と、グアムの警察とでは、事件に対するスタンスが全く異なる、ということ。端的に言うなら「グアムの警察、頼りになんないじゃん!」である。でも、それは、日本における“警察信仰”――盗難など、何か被害にあって困った時は交番へ駆け込めば、お巡りさんが助けてくれる、といった――の裏返しでもあるんだな、と思う。
 そしてそのことに気がつくと、本書はさらに深みを増すように思う。そう、本書はグアムを舞台に描いてはいるものの、その向こうに透けて見えるのは、現代の日本が抱える問題に他ならない。例えば、第二話でデニスが辿り着く真実。例えば、第四話のストーリー自体を支えているSNSが拡散していく様。そう、本書で描かれているのは、“遠く離れた南の島で起きる事件”ではなく、ここ、日本の“今そこにある危機”と重なってくるのである。
 もう一つ、本書が新鮮に映るのは、メインキャラクタがヒガシヤマ三代の男「だけ」であること。ゲンゾーの妻のエヴァも、デニスの妻のケイコも、会話の中には登場するものの、ストーリーの中に実際に登場することはない。イーストマウンテン・リサーチ社に見目麗しい妙齢の女性が来たとしても(そして、レイの心が多少は揺れたとしても)、その女性とプライベートなドラマが始まることはない。そこには、あくまでも男たちの物語を描く、という作者の意志があるからだろう。松岡さんの大ベストセラーシリーズの両輪である「千里眼」「万能鑑定師Q」が、ともにヒロインものだったことを思うと、そこに松岡さんの気概がある、と思う。
 本書でシリーズ第三作までが出揃ったことになるのだが、このシリーズがどこに着地するのか。ひとまずは、次作の刊行を待ちたい。


書誌情報はこちら>>松岡圭祐『グアムの探偵 3』
☆第1巻試し読み、公開中→「第三話 グアムに蝉はいない」


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