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レビュー

現代史=想定外の歴史!?急激な発展の影には前代未聞の災害や事件があり…『漫画版 日本の歴史15』

 学校に通っていた頃、数ある科目の中で一番好きだったのは歴史だった。
 語句や年号をひたすら暗記して臨まなければならない試験がどうにもこうにも苦手だったので、残念ながら好きなだけで得意ではなかったが、それでも時の流れを遡り、神の視点で鳥瞰ちょうかんすることで、国をつくり、宗教を興し、貿易をすすめ、文化が海を越えて伝播していく――悠久の営みや時代のうねりを感じ、それに抗う大器を持つリーダーの野心に自分を重ね、興亡、闘争、悲劇や革新を緊迫しながら体感した。教科書を読むだけで異界を旅するような気分に浸れた。私たちの生きている世界が人が営んできた幾重もの「歴史」を通じて過去のスペクタクルなイベントと地続きになっていると感じられるのは無条件に胸躍った。まあ授業をちゃんと聞かずに教科書や副読本の好きなところを読みふけっていても授業に参加しているように見えるのもよかったのかもしれない。しかし何よりもそのスケールとダイナミズムが好きだった。
 それに引き換え、というか較べると自分たちが学んでいたあの時代はひどく長閑のどかだった。それが歴史の大河に想いを馳せた一因かもしれなかった。もちろん何も起きていないわけじゃない。世界のどこかでは根深い対立からもたらされる理不尽な殺戮が絶えず起こっていた。でも、少なくとも自分たちの住んでいるこの国は、数十年前を最後に、歴史のトピックスになるような事もなく、「平和ボケ」などという揶揄すら叫ばれる有様だった。その数十年前に世界を敵に回して争い、凄惨な犠牲を払いながら完膚無きまでに叩き伏せられ、そこから立て直したことで世界の民族の中で最も先進しているのではないか? だからここまで何もない、何も起きないのではないか? 戦争という概念を放棄したことで、民族として誰も辿り着けなかった成熟の境地に達しているのではないか?
 ――今にして思えば、間違ったことばかりを考えていた。
 そもそも、人類誕生、文明の開闢かいびゃくから始まる歴史の授業は得てしてそのペース配分を誤り、だいたい明治維新あたりで学年末の試験期間に差し掛かってしまい、そこからの150年ぐらいが駆け足というか殆ど省略になってしまっていた。そして通り一遍の知識以上の史観を得ることのないまま、あとは個別に自習しなさい、と受験シフトになったせいで第二次大戦の前後に起きるその価値観の転換と現代に至る過程は、独学で学ぶしかなかったのだ。
 そのせいもあるのかもしれないが、1945年の敗戦以降の現代昭和史(私がそれを学んだのは昭和という時代だった)は新憲法、安保条約締結、高度経済成長と公害問題と、それまでの年表に並ぶ〇〇の乱とか〇〇の変、〇〇の役のような、それまでの歴史の授業を彩っていた刺激的な見出しは鳴りを潜めているように見えた。そんな物騒なことを期待する罰当たりな気持ちは、人類が滅亡しそうになるような映画の空想に委ねればよかった。
 そうか…自分たちは教科書に載らないような何もない、平穏で退屈極まりない時代に生きてしまっている、もしかしたら試験に出るので語呂合わせで覚えた年号と年号の狭間の何もない空白期に当たってしまったんだな、でもそれは決して悪いことじゃない。この退屈はそれまでの尊い犠牲の上に成り立っている、心して享受しなくては。
 受験準備で自習時間が増えた教室でそんなことを考えていた。
 愚かなことにそんな時期がもうじき終わりを迎えるとは予想すらできなかったのだ。学校を出て歴史を学ぶ機会がなくなってから、大きな事件や災害がじわじわと増えていく。天災、事故、想像を超えた形での暴力。まさかの想定外、悲劇の連鎖。社会に出たことで少しばかりの参加意識が芽生えてきたから関心が高くなったのかもしれないが、それ以上に影響が大きなことが頻繁に起き、その度に想いを馳せる。これは後世の歴史の教科書に載る、やっとこれで自分たちの生きた時代が足跡として残るのだろうな――ただ、どれも残念なことにあまり嬉しくないではないか。それが起きた原因を考えると、決して胸を張れるようなことばかりとは言えないからだ。メディアを介しての体験とはいえ、その瞬間に立ち会った当事者としては歴史というフィルターを通して客観視できないし、そのきずはそう簡単に癒えるものではないし、一元的な結論に導けないほどその背景は多様化複雑化している。年月日と項目という見出し情報以上に、その事件や事故の犠牲者や被害者は共に生きた隣人としてのリアリティを孕んで心に刺さっている。だから、歴史に残るのと引き換えに、起きたことをどう伝えていくのか、二度と起きないように何をすべきなのか、を見つけて、次へ伝えていかないとならないと思うのだ。
 いたずらに年齢を重ね、無自覚に学ぶ側から伝える側になっていた。そうなって初めて本書が紡いでいる戦争とその前後の昭和、そして今につながる現代をきちんと捉えられたような気がする。一家の営みが時代に翻弄されながら世代を超え、現代につながっていく。明治以降の急速な近代化、国際化と現代を繋ぐはずのミッシング・リンクが示されると今までの大きな間違いに気づかされる。決して何もない時代じゃなかったのだ。こうなる前触れは、あの何も起こらない時代に芽吹いていたのだ 。歴史上に残るような出来事は突然起きるわけじゃない。その原因を紐解くことが重要だったんだ。自分たちが生きてきた時代が閉じようとしている今、次の何かの前触れは絶対にうごめいているのだ。残念ながらそれを見極めることはできない。だが、人の営みを思い遣り、過去の歴史を振り返ることで、何かしらのヒントを探すことができるだろう。

 何かが、取り返しのつかない何かが起きる前に、止める方法があるならば。
 これからの時代を生きる大勢の人たちのために。


>>山本博行・監修『漫画版 日本の歴史 15 戦争、そして現代へ 昭和時代~平成』


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