『皇室、小説、ふらふら鉄道のこと。』より、第1章を特別公開!
>>第1回「三浦しをん、筋金入りのテツ=原武史に息を呑む」
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――三浦の描く女性同士の関係性と、
松本清張の描く女官同士の恋愛感情。
この二つが同時に語られる日が来ようとは――。
 三浦さんの小説には、女子高生同士の性愛が描かれていますが、未完に終わった松本清張の長編小説『神々の乱心』(文春文庫)にも、宮中の女官同士の「愛」が描かれています。
三浦 原さんが絶賛されているので、私も『神々の乱心』を読みました。すっごく面白かった! この小説で書かれている女官同士の恋愛やいじめは、清張先生のファンタジーも入ってそうですけどね(笑)。宮中は組織なので、同性の上司を「旦那様」と男に擬して呼ぶのだろう、と登場人物が論考している箇所など、「なるほど」と思いました。これが組織じゃなかったら、恋愛感情が絡んでいたとしても、女性同士の関係はここまで湿度感たっぷりにはならないような……。現実の女子校って、もっとさばけてるというか、「おっす!」って感じだった気がしますからね。女だけの世界に慣れきって、みんな身なりも気にしないおっさんになってく。
 この小説は、宮内省皇后宮職の女官が、埼玉県梅広の「月辰会研究所」から出てきたところを、埼玉県警察部特高課警部の吉屋謙介に目撃され、尋問されるところから始まります。梅広というのは架空の地名で、実際には現在の東松山を指すと思われます。女官は尋問されたあとに奈良県吉野の実家に帰り、吉野川で投身自殺します。女官は、源氏名を「深町」という高等女官の萩園彰子に仕えていたため、二人の性愛関係も疑われます。
 女官の世界は上から下まで階級で、つぼねは男子禁制です。高等女官が下級女官に旦那様と呼ばせる社会で長く生活したら、擬似恋愛の芽生えもないわけではないでしょうが、清張が想像をふくらませて書いている気はしますね。
三浦 先輩後輩とも異なる序列やピラミッド構造のある点が、女子校とは違うところですよね。
 女子校と言えば、日本にはなかった女子教育を始めたのは、キリスト教が入ってきたときだと思うんですが、結局その内実は花嫁修業なんですよ。でも時代に合わせてとりあえず受験対策の授業もする。その矛盾に、先生がたは気づいていたんだろうか? 良妻賢母を目指し、かついい大学いい会社に行って働け、というのは無理が多すぎるだろ、と当時から思っていました。
 この問題は、今も結論が出ていないですよね。産んで育てて、家事もほとんどやって、社会でもバリバリ働いて輝いてねって、そりゃ無茶な要求だろう! 女性一人一人の中では、「自分はどう生きたいのか、何を選択するのか」と、悩んだ末の結論があると思いますけれど、社会全体の中で女の人をどう位置づけるかは、学校教育も政治家も何も考えていないような気がします。
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 この小説の中で、高等女官の「深町」に対してのみ、「こんな女が出世できるもんかな」と疑問を持ちました。のし上がるときに露骨にきりきりしていて、こういう人は女だけの世界では支持が得られないと思うんです。深町、戦略が間違ってるぞ、と(笑)。でも、全体として女性の描きかたは、今読んでも違和感がない。謎が謎を呼ぶ展開で、「どうなるんだろう」とわくわくしましたね。未完なので原さんが三通りの結末予想をしていますが、それも面白かった。
 清張自身の結末アイディアの一つに、雷がありますね。人形浄瑠璃の『菅原すがわら伝授でんじゅ手習てならいかがみ』も皇位簒奪さんだつをめぐる陰謀の話で、ラストは宮中での落雷です。清張先生ももしかしたら浄瑠璃がお好きで、悪者が陰謀を打ち砕かれるとなったら、ラストは雷だろうと思われたのかもしれません。
 それにしてもこの小説には、現実の天皇が出てきませんよね。『菅原伝授手習鑑』でも法皇の存在は語られますが、天皇はほぼ登場しません。なぜなんでしょうか。

書籍

『皇室、小説、ふらふら鉄道のこと。』

原 武史 三浦 しをん

定価 1620円(本体1500円+税)

発売日:2019年02月27日

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    書籍

    「本の旅人2019年3月号」

    角川書店編集部

    定価 100円(本体93円+税)

    発売日:2019年02月27日

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