その日は、特にいつもと変わらない朝だった。少しだけ寝坊してしまい、学校へ着くのがいつもより遅くなったくらいだろうか。スマホをいじりながら電車に揺られていると、先に学校へ着いているはずの毛利からメッセージが届いた。
【二人とも、もう学校着いた?】
いやまだ、と返事をする。おれもうすぐ、と榎本も返している。
【やばいぞ。はよ来い】
【やば! やばい! アーサーはよ!】
そして電話がかかってくる。慌てて切って、【今電車だから出らんない】と入れる。
【駅着いたら教えて】
毛利が返してくる。それから一向に何も連絡はなく、なんなんだよもう、と溜息をついて画面を閉じる。
電車を降り、二人にメッセージを入れる。校門で待ってる、と毛利が言う。学校へ向かうとその言葉の通り、校門に二人がいた。榎本が大きく手を振る。早く早く、と急き立てられて、わざと歩みを緩めて向かう。
「アーサー、おっそいよもう」
「うっせえなあ。これで大したことなかったら殴るかんな」
「うわっ暴力的。いやめっちゃ大したことあるから!」
「直接見た方が早いよ。行こう」
二人に背中を押され、校門をくぐる。そして、二人の言っていることが誇張ではないとすぐに分かる。
人だかりができていた。生徒たちががやがやと騒ぎながら、集まって何かを見ている。その奥では学年主任の
こっちこっち、と榎本に手を引っ張られるがまま、人の波をかき分けていく。そして、その光景が目に飛び込んできた。
花壇に、机が咲いていた。
一つや二つではない。数十、いや百を超える数の机が、校舎の壁に沿って
「なんか投げ捨てたみたいよ、窓から」
毛利がその異様な状況の説明をし、榎本もそれに続ける。
「しかも、うちの学年だけらしくてさ。やばくない?」
その言葉に顔を上に向ける。二階の窓は全て大きく開かれていて、薄いクリーム色のカーテンがひらひらと舞っているのがちらりと目に入った。ここからは見えないけれど、きっとどの教室も空洞なのだろう。いたずら、という言葉で片付けるには暴力的な気がした。
「ここで集まらない! 早く体育館に行きなさい!」
積まれた机の前に立つ国城が、怒気を
俺はじっとその光景を眺めていた。机と椅子。それらが折り重なるように落ちている。もう飽きてしまったのか、行こうぜ、と榎本が俺の
それでも脳裏にはまだこびりついていた。オブジェのようなその机たちと、ざわつく生徒たち、苛立つ教師。明らかにそこにあるのは非日常だった。嫌な予感がした。俺が今までどうにか保ち続けていた平穏が、音を立てて崩れていくような予感が。
十一月の上旬。
試し読み
紹介した書籍
関連書籍
書籍週間ランキング
4
地雷グリコ
2025年2月17日 - 2025年2月23日 紀伊國屋書店調べ
アクセスランキング
新着コンテンツ
-
試し読み
-
レビュー
-
連載
-
試し読み
-
連載
-
試し読み
-
特集
-
試し読み
-
試し読み
-
文庫解説