『君の顔では泣けない』著者・君嶋彼方さん待望の新刊! 小説野性時代新人賞受賞第一作『夜がうたた寝してる間に』
新人ばなれしたデビュー作として話題となった『君の顔では泣けない』の著者・君嶋彼方さんの待望の第2作となる長篇小説『夜がうたた寝してる間に』が8/26に発売となります。
生まれつきある「力」を持ったことで、周囲との違いや関係性に悩みを抱える高校生の葛藤と成長を描いた作品です。
本作の冒頭50ページを特別公開。書き出しの一文から息を呑むほど美しい、珠玉の物語をお楽しみください。
▼君嶋彼方特設サイトはこちら
https://kadobun.jp/special/kimijima-kanata/
『夜がうたた寝してる間に』試し読み#2
しばらく歩くと生徒たちの姿は減っていく。A組からD組を過ぎた先にあるそのドアの前には、一人の女子生徒が
「おっす。お疲れ」
「なに、どしたの。教室入れないの?」
「うん、
そっか、と返すと会話が途切れてしまう。どうにも彼女と話すのは苦手だった。何か次の言葉を、と頭の中で必死に探していると、ふいと視線を
「あれ」
小さな声が聞こえた。振り返ると、
「岡先生、鍵忘れて今職員室に取りに行ってんだってさ」
興味のなさそうな「そう」という短い返事と共に、大きなあくびを一つする。我妻はいつも眠そうだ。厚ぼったい二重の目を
「先生もさぁ、こんな寒い廊下で待たすの勘弁してほしいよなぁ。風邪引いちゃうじゃんなあ」
話しかけてみても、案の定「そうだね」とだるそうに返されただけで、やはり会話は続かない。
授業開始のチャイムが鳴る。いい加減居た
「すまんすまん。お待たせ」
口ではそう言うものの、のたのたと歩いてゆっくりとドアの鍵を開けている。「センセー、遅いよー」と口を
そしてようやく教室のドアが開く。岡先生が入り、電気を
各々が席に着く。篠宮は教壇の目の前、我妻は一番後ろのドア側の席。そして俺は、前から三列目の中央辺りに座る。どこに座るか決まってはいなかったが、いつの間にかそれぞれの定位置ができていた。
教壇に立った岡先生が、よく通る声を張り上げた。
「この一週間、何か変わったことがあった人は?」
毎回投げかけられるその質問に、手を挙げる者はいない。それでも毎週、岡先生はこの言葉を投げかけてくる。
毎週土曜日、四時間目、ロングホームルーム。時計の両方の針が頂点を指す頃。俺たち三人はその時間帯に、普段使われていない教室に集まる。それが俺たちがこの学校へ在籍するための義務だからだ。
特殊能力所持者。それが俺たちの正式な名称だ。
俺たちは、常人にはない特殊な能力を使うことができる。