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試し読み

呪いの魚がいるとして、どこに生息しているのか。どうすれば釣り上げられるのか。『虚魚(そらざかな)』試し読み#17

わたしは探している。〈人を殺せる〉怪談を。
第41回横溝正史ミステリ&ホラー大賞〈大賞〉受賞作!

10月22日に発売された、第41回横溝正史ミステリ&ホラー大賞〈大賞〉受賞作にして、新名智のデビュー作『虚魚そらざかな』。
本作は、“体験した人が死ぬ怪談”を探す怪談師の三咲と、“呪いか祟りで死にたい”カナちゃんのふたりが、本物の怪異を追い求める物語。
怪談を探すミステリであり、怪異とめぐりあうホラーでもある、選考委員の絶賛を浴びた大注目小説を、まずは試し読みからお楽しみください。

虚魚そらざかな』試し読み#17

 十五分ほど歩いて、予約していた宿に着いた。古い旅館だと聞いていたけれど、どうも最近リニューアルしたらしく、中はきれいで、インターネット回線まである。カナちゃんも気に入ったと見えて、絵や掛け軸をめくっては、裏にお札を探していた。わたしは一応、仲居さんに尋ねてみたが、幽霊が出る部屋はないということだったので、ちょっと残念だ。
 客室に備え付けのお菓子をつまみ、体力を回復したところで、また歩いて河口まで向かった。道沿いには公園や海水浴場がいくつもあり、レジャー客でにぎわっている。カナちゃんは、あらかじめ東京で釣り仲間から情報収集していたらしく、狙い目の場所をいくつか挙げてくれたので、順番に回ってみることにした。
 着いてみると、やはりそこは釣り人に人気の場所で、先客が何人もいた。わたしはちょうど帰ろうとする釣り客を呼び止めて、釣果を聞いた。
「今の季節はキスだよ。あとはタチウオ。たまにヒラメなんかも釣れるよ」
「このあたりで変わった魚を釣った人がいるらしいんですけど、ご存じないですか」
「変わった魚?」
「ええ、あの、釣り上げた人が死んでしまうこともある魚だとか」
「ああ」と、釣り人は納得した表情になった。「ダツのことかな」
「ダツ?」
「このくらいの銀色のとがった魚でね。夜、ライトなんかつけて釣りをするでしょう。そうすると、光に反応したダツが飛んできて、人に刺さっちゃうんだよね」
 後ろに立っていたカナちゃんが急にわたしのそでを握ってきた。小さな悲鳴をもらしたのも聞こえた。
「この辺にもいるから、夜釣りをするなら気をつけたほうがいいよ」
 それだけ言うと、釣り人は満足げに去っていった。そのうしろ姿を、カナちゃんは複雑そうな表情で見送った。
「怖くなった?」
「まさか」カナちゃんはにこりともせずに言った。「でも、呪いで死ぬならともかく、魚が刺さって死ぬのは嫌だ」
 呪いの魚の正体がダツのはずはないが、そんな物騒な魚がいるならそれはそれでホラーだ。
 わたしはあらためて周囲を見回した。釣り上げると死ぬ魚が釣れたという狗竜川の河口とは、このあたりで間違いない。ここに来る前、集めた話の中から描写を拾って、だいたいの場所を推定しようとしてみた。ただ、どうもそれが話によって微妙に違うようだった。右岸だったり左岸だったり、砂の上だったりそうじゃなかったりする。話がすべて本当だとすれば、このあたり一帯のどこにでもせいそくしている可能性がある。
 一方、時間帯については、必ず早朝か夜更けのどちらかだった。また、例の魚を釣るときには、周囲から人の気配が消えている、という共通の特徴もあった。仮に時間帯が関係しないのだとしても、今の釣り場の混雑を見る限り、日中にそんな状況が起きるとは考えにくかった。
 いずれにせよ、釣りに挑戦するのは明日からの予定だったので、今日は下見だけで引き上げることにした。それに今夜は、釣りとは別に調べておきたいことがあった。
 宿に戻り、晩ごはんを食べたあと、カナちゃんとおに入ることにした。温泉ではなかったが、ふたりで入ってもかなり広々としていて、気分がよかった。カナちゃんは湯船の中で鼻歌まじりに足を伸ばす。わたしもその隣に体を沈めて、このあとの予定を伝えた。
「この近くに河童かつぱが出る池があるらしいの。そこへ行ってみようよ」
「河童?」カナちゃんの頭からタオルが落ちる。「魚じゃなく?」
「これはまだ、わたしの想像なんだけど、そのふたつは同じものじゃないかと思うの」
 わたしは、東京で同業者から聞いた河童の話を、カナちゃんにも聞かせた。

つづく

虚魚そらざかな』新名智



第41回横溝正史ミステリ&ホラー大賞<大賞>受賞作
虚魚
著者 新名 智
定価: 1,815円(本体1,650円+税)
発売日:2021年10月22日

わたしは探している。<人を殺せる>怪談を。 横溝賞<大賞>受賞作。
“体験した人が死ぬ怪談”を探す怪談師の三咲は、“呪いか祟りで死にたい”カナちゃんと暮らしている。幽霊や怪談、呪いや祟り、オカルトや超常現象。両親を事故で亡くした日から、三咲はそんなあやふやなものに頼って生きてきた。カナちゃんとふたりで本物の怪談を見つけ出し、その怪談で両親を事故死させた男を殺すことが、いまの三咲の目標だ。
ある日、「釣り上げた人が死んでしまう魚がいる」という噂を耳にした三咲は、その真偽を調べることにする。ある川の河口で似たような怪談がいくつも発生していることがわかり、ふたりはその発生源を求めて、怪異の川をたどっていく。“本物”の怪談に近づくうち、事情を抱えるふたりの関係にも変化がおとずれて――。
選考委員の絶賛を浴びた第41回横溝正史ミステリ&ホラー大賞<大賞>受賞作。
詳細:https://www.kadokawa.co.jp/product/322106000335/
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