お電話かわりました名探偵です リダイヤル

通報だけで難事件を鮮やかに解決!『お電話かわりました名探偵です リダイヤル』1話試し読み!#6
空前絶後の警察ミステリ!『お電話かわりました名探偵です リダイヤル』
Z県警本部の通信指令室。その中に電話の情報のみで事件を解決に導く凄腕の指令課員がいる。千里眼を上回る洞察力ゆえにその人物は〈万里眼〉と呼ばれている――。
シリーズ1巻『お電話かわりました名探偵です』に続き、ふたたび〈万里眼〉の活躍が読める新感覚警察ミステリ『お電話かわりました名探偵です リダイヤル』が12月刊の角川文庫に登場!
凄腕の指令課員が活躍するエンターテインメント快作の第一話を特別に公開いたします。
『お電話かわりました名探偵です リダイヤル』試し読み#5
6
カーテンを開けると、診察台の上で上体を起こした悠真と目が合った。
「お母さん」
息子の笑顔は、武田
本当に、無事だった。
そう実感した瞬間、亮子の目から大粒の涙があふれ出した。
「どうしたの。お母さん」
悠真がきょとんと首をかしげる。
亮子は息子に歩み寄り、その頭を自分の胸に抱き寄せた。
「馬鹿。心配したじゃないの」
「ごめんなさい」
「いいの。もういい」
無事でいてくれれば、それで。
亮子が勤務する総合病院に息子が運び込まれたのは、二十分ほど前だった。マンションのポンプ室に入り込み、眠ってしまったらしい。管理人が出入りする際にダイヤル錠の暗証番号を盗み見て覚え、以来ときどき出入りしていたというから、子どもは侮れない。
酸欠に陥って救急外来にやってきた小学校一年生の男の子が、整形外科に勤務する看護師の息子だと、同僚たちは最初気づかなかった。息子を搬送してきた救急隊員から、お母さんがこの病院で働いていると男の子が言っていますと報告を受け、亮子の院内PHSに連絡があったのだった。
ひとしきり息子の感触に浸って、ようやく緊張がほぐれてきた。
「お母さんこそごめん。一緒にいてあげられなくて」
両親が揃った家庭なら、息子の帰りが遅いと気づくことができた。息子も一一〇番でなく、親に電話で助けを求めることができた。
これからは自分が父親役もこなす。なにに替えても息子を守り抜くし、立派に育て上げる。離婚するときにそう誓ったはずだが、意気込みだけではどうにもならないことがあると痛感させられた。やはり自分には難しいのだろうか。
悠真が大きくかぶりを振る。
「そんなことないよ。お母さん、お仕事頑張ってるし。お母さんがお仕事に集中するためにも、僕、これからもっとお利口さんにするね」
その言葉に息子の成長を感じて、ふたたび鼻の奥がツンとする。
だが泣いてばかりいられない。これからこの子と二人で頑張っていくのだから。亮子は
「でもよかった。検査してもらって、安心したんだ」
息子が笑う。
なんの話だろう。精密検査をしたとは聞いていないが。
「なにを検査してもらったの」
「マイクロチップ」
「マイクロチップ?」
思いがけない単語が飛び出してポカンとなった。医師に頼み込んででも精密検査を受けさせたほうがいいのだろうか。
「実はね」息子が意味ありげに声を潜める。
小さく手招きをされ、亮子は腰を低くして耳を息子の口もとに寄せた。
「僕、UFOに乗ってきたんだ。宇宙人にさらわれたの」
「まあ」と驚いてみせたが、その話は聞いていた。酸欠のせいで意識が混濁し、幻覚症状があったらしい。一一〇番通報の途中で意識を失ったというから、かなり危険な状況だったのだろう。本当に、よくぞ無事でいてくれた。
亮子にとってこの世で一番の宝物が、真剣な顔で
「ケンちゃんが言ってたんだ。宇宙人が人間をさらって、マイクロチップを埋め込むんだって。マイクロチップを埋め込まれた人間は、さらわれたことすら覚えていないんだって」
「そうなんだ」
「うん。でも僕はさらわれたことを覚えてる。記憶を消されていないからたぶん大丈夫だとは思ってたんだけど、検査してもらって安心した」
そのとき顔見知りの看護師が通りかかり、息子によかったねという感じの笑みを向けた。そして亮子には、そういうことだから、という感じのウインクをして立ち去る。
マイクロチップが埋め込まれたのではないかという息子の不安を、
「そっか。よかった」
そう言って息子の髪の毛をわしゃわしゃする。
「お母さん。僕、大きくなったら警察官になりたい」
「警察官に?」
「うん。僕が助かったのは、一一〇番のお姉さんのおかげなんだ。UFOがどこにいるかを捜し当てて、助けてくれた。ここに来る途中で救急車の人に
力強く宣言する息子が頼もしい。
「わかった。悠真が警察官になれるよう、お母さんも応援する」
寂しい思いをさせているかもしれないし、親として至らないところもあるかもしれない。けれど息子はしっかりと成長してくれている。
私も頑張って親として成長していこうと、亮子は決意を新たにした。
(この続きは本書でお楽しみください)
作品紹介・あらすじ
お電話かわりました名探偵です リダイヤル
著者 佐藤 青南
定価: 748円(本体680円+税)
発売日:2021年12月21日
「おかけになった謎は、私が承ります」
「<万里眼>を出せ」。Z県警通信指令室に頻繁にかかってくるようになった<出せ出せ男>からの入電。身元を特定する手がかりはまったくない。気味の悪さを感じつつ、今日も市民からの通報に対応していた早乙女廉は、男の子から『宇宙人にさらわれた』という一報を受ける。信じがたい内容に動揺していると、ほかならぬ<万里眼>その人、君野いぶきがいつものように割り込んできて――。電話越しに事件解決、空前絶後の警察ミステリ!
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