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試し読み

「思考が気持ち悪いだけで無害なのかも」深見の意外な正義感に揺れる鏡花だが……『次期風紀委員長の深見先輩は間違いなく病気』試し読み⑤

「小説家になろう」で今話題沸騰中の異能青春ラブコメ 、ついに書籍化!

3月28日(土)に発売される『次期風紀委員長の深見先輩は間違いなく病気』から、第1章を5回に分けてお届けします!
心の声が聞こえる女子高生・鏡花と、一見完璧な優等生、でも内心は常に鏡花への妄想で溢れている深見先輩の二人が繰り広げる、“笑えるのに泣ける”純愛小説をぜひお楽しみください。

>>前話を読む

 ◆ ◆ ◆

「深見先輩の好きな教科ってなんですか?」
「……特にない」
「苦手な教科は?」
「家庭科だ」
 二年四組を目指し、深見先輩と藤野さんの後ろをついて行く。聞いている分にはただの一般的な質問だけど、先輩は教科と鏡花をその都度聞き間違え、生きている鏡花なら何でもいいだとか、苦手な鏡花なんていないだとか、正気とは思えないことを口走っている。
(深見先輩家庭科苦手なんだー! 私もお菓子作りは好きだけど授業はあんまり好きじゃないかも!)
 藤野さんは教室を出てからずっと深見先輩に質問を繰り返していた。質問をして、親交を深めたいらしい。動機は納得できるけど、その度私が犯行予告を受けているこの状況は全然納得できない。
「鏡花ちゃんの好きな教科は?」
「何もないよ、苦手な教科もないよ」
 即座に答えて、質問に答える番をさっさと深見先輩へ回す。藤野さんは優しい。だから仲間外れを作らないよう、定期的に私にも質問をしてくる。しかしそれは、深見先輩への犯罪アシストだ。彼女は知らないうちに共犯にされている。
「じゃあ次は深見先輩! 中学の時入ってた部活はなんですか?」
「剣道部だ」
(二年の夏までだったが、な)
 当初、私はこの二人が結ばれるかなんて、どうでもいいと思っていた。けれど今は、切実にくっついてほしい。深見先輩の関心が藤野さんに移れば、私の将来は安泰だ。
「あっ、じゃあ好きな女の子のタイプは? どういう感じの女の子が好きなんですか?」
(鏡花と言ってしまいたい。しかしそれは告白。鏡花なら明るくても静かでもどちらでも構わない。俺は鏡花なら全てを受け止め隅々まで愛し尽くせる。と言ってしまえればいいが)
「……思い付かないな」
「結婚って早くしたいですか?」
「ああ。だが準備もあることだし、一人で決めるものではないからな」
(鏡花が今と言うのなら、俺が十八になり次第即座に入籍する。しかしきちんと定職につき、将来の計画を立てた上で式を挙げたい。大学を卒業、就職し収入を得てから……、最短で二十三、二十四あたりか。あと七年。すぐだな。一つ一つ障害を取り除いていって、幸せに出来る環境を整えて迎えに行かないと……)
 そんな未来はあり得ない。結婚だってしないのだから。というか質問に対して私を連想しないでほしい。一思いに「やめろ!」と言ってしまえればどんなに楽だろう。
 せめて気を紛らわそうと周りに目を向けると、こちらを見る生徒たちと目が合った。深見先輩と藤野さん。美しいと称される二人が並んで歩くのだ。目立たないわけがない。やめろなんて言えば私の人生が終わる。
(ふーん、色々聞いてみたけど、意味なかったかも。そもそも先輩の好きなタイプに合わせる必要なんてないよね。私は私だし!)
 藤野さんはどうやら質問に飽きたらしい。今までの時間は一体何だったのだろうか。深見先輩がいたずらに私に関する知識を得て、そして犯行予告を繰り広げただけでは……。
 そう考えると、急激に疲労感に襲われ、足が錆付いたように重くなった。重たい足を引きずるようにして、なんとか目的の教室に辿り着く。
 深見先輩が扉を開くと、教室を二分するように、二つのグループが教卓のそば、窓辺の隅と分かれていた。教卓のそばに集まるのは男子生徒三人組のオタクっぽいグループで、アニメらしきキャラクターについて話をしている。一方窓辺に集まっている男子生徒五人のグループは、全員目立った校則違反はないまでも清潔感はなく、制汗剤や香水が入り混じった匂いが漂ってきた。
「俺は、アンケートについて尋ねてくるから、二人はそこで待機するように」
(アンケートを集めたのであれば、教卓付近にあるはずだ)
 深見先輩は私たちにそう言って、黒板の方へと向かっていった。やはり、回収漏れはあったらしい、オタクグループの一人からアンケート用紙の束を受け取ると、安堵した様子で枚数を確認している。
「私も行っちゃおーっと!」
 すると藤野さんも教室へと入っていった。自分はどうすべきか迷っていると、窓辺にいる男子生徒の一人が(あ)と何かに気付き、彼女についてこそこそと話し始めた。
(見えるじゃん!)
 窓辺にいる男子生徒たちは次々に(まじか! 本当だ!)と驚きの声をあげる。一体何のことだと思って藤野さんを注意深く観察すると、彼女のスカートの左側の部分がややめくれ上がってしまっていた。そのせいで、窓側の位置からは下着が見えているらしい。いつからそうなっていたかは分からないけれど、教室に来るまでは私が後ろを歩いていたことで周囲からは死角となり、そして私は上の空で気付けなかったようだ。
 一刻も早くこの場を去らせたほうがいい。一歩踏み出そうとすると深見先輩が先に動いた。
「藤野、装いに乱れがある。石崎、藤野に付き添ってやれ」
 深見先輩は藤野さんと、彼女に嫌な目を向けていた男子生徒の間に立ち、彼らの視界を遮った。
(最低だな。ろくでもない人間だ。人を何だと思っているんだ)
 軽蔑を帯びた心の声。深見先輩の鋭い視線に、へらへらと笑っていた男子生徒たちが不満げな表情に変わる。
 私は藤野さんを庇い、声を潜めながら状況を伝えると、彼女は「うわ……」と急いでスカートを整え、自分を見ていた男子生徒たちに嫌悪の眼差しを向けた。しかし彼らに反省の色はなく、(見えたんだから仕方なくね?)と心の中で漏らし、口でも「不可抗力じゃん?」と言い訳を始めた。
 見えてしまった後に、藤野さんのスカートについて教えあった挙句、笑いものにしたくせに。人の気持ちが分からないのか。私がそう思ったのと同時に深見先輩が口を開く。
「そんなはずないだろう。人に対して無礼な振る舞いをしておいてそんな態度とは。人の気持ちが分からないのか。次に似たような真似をすれば藤野が何も言わなかったとしても処分の提言を教職員に行う」
 切り捨てるように発された言葉が、私がさっき抱いていたものとまるで同じで、思わず目を見開く。深見先輩は言い終えると、そのまま教室を出て扉を閉めた。
 藤野さんは「ありがとうございます!」と感激したように深見先輩へと頭を下げる。(かっこいい! しかも私のこと助けてくれた! 好き!)と彼女の中での先輩への評価が際限なく上昇している。一方先輩は「礼を言うことではない。何かあったら報告するように」とだけ返し、委員会室へ歩き始めた。しかしすぐに足を止めて、こちらへと振り返る。
「石崎も何かされた時は言え、言い辛いことなら別の人間にでもいい。罰する」
「……はい、ありがとうございます……」
 深見先輩は用件だけ伝えると、また規則正しい歩幅で進みだし、藤野さんがその後ろを追っていく。
 人の気持ちが分からないのか。そう深見先輩は、怒っていた。真剣に藤野さんのために、そして私のために怒っていた。
 未遂の人だから性質が悪いと考えていたけど、正しい倫理観を持っているのかもしれない。そもそも心の声は私が勝手に聞いているだけで、意図的に聞かされているわけではないし、もしかして表現とか思考が気持ち悪いだけで、無害……なのかもしれない。
 私は、真っすぐに背筋を伸ばして歩く背中を見つめてから、二人の後を追った。

 深見先輩はそんなに悪い人じゃないのかもしれない。
 そう思った翌朝、私は昨日と同じように委員会室へ向かっていた。外からの日差しが差し込み、廊下の床に窓枠の影がうすく浮かぶ。不思議と昨日までの足の重みは感じない。朝練真っ只中の生徒や職員室へ向かっていく先生たちの心の声は変わらず煩わしくて、憂鬱ではあるけれど。
 委員会室に辿り着くと、そこにはまだ誰もいなかった。黒板は綺麗なまま、何か伝言が貼られている様子もない。時計を確認すると集合時間の二十分前で、少し早く着きすぎたようだった。
 席に着く気も起きず、教卓へ近づくと(鏡花だ)と心の声が響く。振り返ると、紙の束を持った深見先輩が扉の前に立っていた。
「おはよう。早いな。いい心がけだ」
「おはようございます……。あの、今日、委員会ありますよね?」
「ああ」
 このまま教卓のそばにいても話すこともない、席に着こう。いつも座っている教室後方の席に向かって踵を返すと、深見先輩は「ポスターが」と呟いて、紙の束を教卓に置いた。
「刷り上がったんだが……」
 先輩が持っていたのは、アンケート結果のポスターだったらしい。それらは見やすく、優しい色合いに仕上がっている。所々ゆるめのキャラクターが描かれており、そのキャラは揃って校則違反をしていた。
「これって、西山先輩が描いていた……?」
「ああ。奴は美術部だからな」
(兄妹で美術部に入っているが、委員長は自分が芸術、生きる文化遺産だと言って部活のほうにも出ていないと聞いた。後できちんと注意しなければ)
 なんだか、どんどん委員長のイメージが分からなくなる。なぜそんな人が委員長なのだろう。もっとましな人なんて、いっぱいいるだろうに。
「に、西山は色を塗ることが好きらしい。バッジなんかも自作していると言っていた」
 西山先輩のリュックについていたバッジは自作だったのか。ポスターを見ると、どうやら委員の人間を元にしているらしい。藤野さんを元にしているらしきピンクのキャラクターはバイクに乗っていて、神経質そうな深見先輩っぽいキャラクターは剣か何かを持って暴れている。そして壊れたギターを持っているのは……中岡先輩だろうか? どことなく気弱そうにしている。
 もしかして、西山先輩はよく人を見ているのかもしれない。 眺めているとポスターには私らしきキャラクターもいて、深見先輩の隣に寂しそうな顔で立っていた。
「今日壁に貼る。今のうちなら、手に取って見ても構わない」
「……え、あ」
 深見先輩が私にポスターを一枚差し出してくれたものの、ぼんやりとしていた為反応が遅れてしまった。先輩の手からポスターが一枚すべり落ち、そのまま二人の間に着地する。慌てて拾い上げようとすると、同じようにポスターを拾おうとしていた先輩の手と私の手がぶつかって、お互い咄嗟に引っ込めた。
「ごめんなさい」
 謝りながらポスターを拾い深見先輩に差し出す。けれど先輩は驚いたような目で私を見て止まっている。呼びかけてみても、返事はない。
(鏡花の、香りが強い。今、触れたのは、鏡花の手だった。俺は、今、鏡花に触れてしまったんだ……)
 こちらを見つめる深見先輩の瞳は酷くうつろで、目の前にいる私を認識していないようだ。やがて先輩は、揺らめくように立ち上がり、ゆっくりと自分の手と私を交互に見る。
(さっきの距離は、まるで恋人同士の距離だった。あと少しで、唇だって触れそうで、駄目だ抑えろ。鏡花を汚すな……。だが実際に手が触れて……、鏡花の肌が、熱が……。あ、あ、もう、無理だ。完全に今……)
 絶望した声色なのに、興奮しているようにも聞こえ、私は本能的に後ずさった。この人、本当に危ない。同時に深見先輩はふらつき黒板に背中を強くぶつける。そして不自然にかがみ、鼻からぼたぼたと血を滴らせはじめた。
「あれれ、深見鼻血出てるの……?」
 突然かけられた声に目を向けると、リュックを背負った西山先輩が教室の扉の前に立っていた。その後ろに中岡先輩と藤野さんもいて、心配した様子でこちらを見ている。
「石崎ちゃん? だいじょーぶ? だいじょばない?」
 再度西山先輩に声をかけられ、なんとなく呆然としていた頭が冴えてきて、そして金縛りに遭っていたようだった唇が動き出した。
「深見先輩が……突然鼻血を出したんです……」
 どうしてかは、絶対言えない。西山先輩は首を横に傾けた後、「深見大量出血だって」と後ろに立つ中岡先輩に伝えた。位置の関係で状況をよく把握できていなかったらしい中岡先輩は驚きのあまり思考を停止した。藤野さんは急いで教室に入り、今なお絶望的な表情で鼻血を流す深見先輩の背中をさすりはじめる。
「わたし、保健室に行って、せんせー呼んでくるっ」
「おっ俺も!」
 西山先輩が走り出し、慌てて中岡先輩も後に続く。その二人の心の声は、一瞬で目の前の狂った言葉の羅列にかき消されていった。
(好きだ、鏡花好きだ……、うう、興奮が抑えられない。何で俺はこうも不甲斐ない……。好きだ……鏡花愛してる……)
 聞こえてきた声に、絶句しながら立ち尽くす。
 新種だ、この人は。途方もなく、新種の、病人……。
 深見先輩は、間違いなく病気だ。

(このつづきは本書でお楽しみください)


稲井田そう『次期風紀委員長の深見先輩は間違いなく病気』

稲井田そう『次期風紀委員長の深見先輩は間違いなく病気』


稲井田そう次期風紀委員長の深見先輩は間違いなく病気』詳細はこちら(KADOKAWAオフィシャルページ)
https://www.kadokawa.co.jp/product/321905000426/


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