12月12日発売の「小説 野性時代」2018年1月号では、真山仁、坂木司の新連載がスタート!
カドブンではこの新連載の試し読みを公開いたします。
本日は坂木司『ホテルジューシー2』新連載第一回を公開いたします。
>>【新連載試し読み】真山仁『トリガー』
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残念なパーマで、“ハーフ”の僕は、とっくに人生のてっぺんを越えてしまった。大学一年にして「余生」を生きているのだが……。
大好評を博した青春成長ミステリ、待望の第2弾、スタート!
僕は余生を生きている。
子供は、自分が生まれ育った環境を「普通」だと思って育つものだ。
たとえばそこに仲の良い両親がいればそれを普通だと思い、暴力的な関係を見れば同じように思う。家が一軒家だとかマンションだとか、親と一緒の部屋で寝るとか寝ないとか、飲み物の基本がお茶なのか牛乳なのかとか、パターンは色々ある。
でもそういう色々は、子供が家の外に出るとバレてしまう。
「ええ? お前ってまだ親と風呂入ってんの?」
「信じらんねえ。朝にラーメンって、最高だな」
「水、買わないんだ?」
まあ、色々あるよね。いいことも悪いことも。
バレるのは、大体小学校。六年間もあるし、行事とか学校公開とかで家の事情がバレまくる。そして絶対、それをネタに騒ぐ奴がいる。その流れが笑いに向かうかいじめに向かうかは、運とキャラ次第。
もし君がラッキーなら、そういうはやし立てを許さないクラスメートや先生がいるだろう。そうでなくても、いじめに加わらない友達に恵まれていればなんとかなる。逆にアンラッキーなら、誰も守ってくれなかったり、気づかれなかったりするだろう。
でも言われた方のキャラが強ければ、挽回はできる。気が強いとか面白いとか、一人でも自分の世界にいれば大丈夫とか。まあ、色々。
そんな中で一番の悲劇は、アンラッキーで、かつ、人に恵まれず、キャラも性格も弱かった場合。
僕はこれ。これの特盛り。
まず、問答無用で太ってた。理由的にはこれだけでもいいくらい。
ついでに色白。「白ブタ」確定。
ついでに天然パーマ。どうやっても直らない寝癖みたいな髪型。つまり僕の見た目は、突っ込みを待ってるボケ芸人みたいだったってこと。
そして当然のごとく運動が苦手。動けないブタだから、ただのブタ。
勉強は、普通だったはず。でも気が弱くてぼんやりしてたから手を挙げられず、結果バカ認定されてた。
ここまででもう、お腹いっぱい。なのに僕にはスペシャルトッピングがついていた。
それは、家族。
というか、遺伝子。
「おーいザンパ」
そう呼ばれて、へらっとした笑顔で振り向く。笑いたい気持ちなんかこれっぽっちもないのに。
だってそうしてないと、ひどい目にあうかもしれないから。
ザンパ。そう呼ばれはじめたのはいつだったのか。たぶん小学校の低学年だと思うけど、一年生の頃のことなんてさすがに覚えてない。ただ、ずっと地元で公立の小学校に入った時点で、方向性は決まってたんだろうなと思う。
あだ名の由来は二つ。
一つめは、『残念なパーマ』。
他にも『バクハツ』とか『しっパー』(失敗したパーマ)とかあったけど、最終的にこれに決まった。理由は、二つめとの兼ね合いだ。
で、二つめ。『残念なハーフ』。
これが最大にして最強の、僕のいじめられ原因。当たり前だけど、これっぽっちも僕のせいじゃないし、悪いことでもない。ついでに言うとハーフじゃなくてクオーター、それも多国籍ミックスだから間違ってもいる。
なのに小学校と中学校、都合九年間、僕は「ザンパ」と呼ばれ続けた。
(このつづきは、「小説 野性時代」2018年1月号でお楽しみいただけます)
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