2月7日発売予定、10代から支持の人気作家・あんのまる完全新作『100億円求人』。中学生4人が「闇バイト」に巻きこまれて始まる、最後の一行まで目がはなせない「究極の頭脳戦」。大人たちとのヒリつく心理戦の先にある、あなたの予想をぜったい裏切るどんでん返しに注目です! モニター読者である10代男女から熱烈な感想も届いている期待の一作を、大ボリュームで試し読み公開!
中学生4人、人生を賭けた究極の頭脳戦!!
あんのまる『100億円求人』試し読み#05
8.最終準備
8月29日 午前10:00 in別館
オープニングセレモニーは明日。
別館の庭で、書き込みだらけの資料の山を整理して、小型の無線機や変装道具のチェックをし終えたとき。
「ねえ、【蓬莱郷】には何があると思う?」
庭でテーブルセットの練習を終えたあざみが、手持ちぶさたに庭の花をぶちっと引き抜いて言った。
「わたしは、キラキラのお金がつまってるんやと思う!」
「ぼくは、そうだな、数年前の日常を取り戻せるような、何かがあると良いなって思う」
「僕、すごいスピリチュアルなものがあると思う! だ、だって蓬莱ってさ、不老不死の薬を持った仙人が住んでる伝説の場所なんだよ!」
モネの言葉に、ぼくはカジノシティの【トコヨノクニ】って名前を思い出した。
これは、古事記とかに出てくる常世の国っていう、不老不死になれる理想郷からとってるんだろうな。
「き、気づいたんだけど、『玉枝』っていう名前はさ、竹取物語で、かぐや姫が求婚者の1人に要求した“蓬莱の玉の枝”からつけたと思うんだ。そんな名前を使うなんて、考察がはかどるよね! ふへへ」
その話は国語でやった気ぃする、ってつぶやいた楓は内容を思い出そうとして、あきらめてた。
「あははっ もしかしたら【蓬莱郷】は、月に住む天上人がいるような不思議な場所かもしれないな」
「しししっ そうだよね。世界中の悪い大人がほしがる代物だし、人生を変えるくらいのものがあるに決まってるよね!」
そう言ったあざみは、手に持った赤紫色の花を見つめて笑った。
4年前。
多くの裏社会に生きる大人たちが、【蓬莱郷】を求めて探し回った。
けれど、だれも、その理想郷を見つけることはできなかった。
ネット上では、半年も経てば、うわさはうそと片づけられて。
人々はまたちがううわさに夢中になった。
でも、ぼくらはちがった。
正確には、ぼくらと、バロイア国と、千手楼は。
「よし、こっちに集まって。作戦の最終確認だよ」
あざみの声に、ぼくらはあい色のクロスのかかったテーブルに集まった。
そこには、ナイフとコインと、一輪の花だけが、三角を描くように置いてある。
「まずは、4年前の振り返りから。あのときのゲームのメインプレイヤーは、3チームだった」
ナイフが、千手楼のいる本郷グループ。
コインが、バロイア国。
赤紫の花が、ぼくら『スパギャラ』。
「4年前の、おれたちの目標は2つ。1つ目が、『玉枝』を盗むこと。2つ目が、【蓬莱郷】を見つけて入ること」
いつの間にか、テーブルの中央に『玉枝』を示す花瓶が置かれてた。
「1つ目の『玉枝』を盗むのには成功。2つ目の【蓬莱郷】を見つけることはできなかった」
花瓶をつかんだあざみ。
「しかも、最後におれたちは、『玉枝』を奪われた」
花瓶は、バロイア国のコインのとなりに移動する。
「これが、4年前のこと」
ぼくらはうなずいた。
「『玉枝』は実在した……ところで、なんで千手楼は『玉枝』をほしがってると思う?」
「え、それは、本郷の持ってたものは、いまは千手楼のもんやから、取り返したいんやろ?」
楓の言葉に、あざみはしししっと笑った。
「千手楼は、【蓬莱郷】に行きたいからだよ、きっと」
なるほど。あざみの言いたいことがわかったぼくは、にこっと笑った。
「おれは気づいたんだ。千手楼は【蓬莱郷】のありかを知ってるから、『玉枝』をほしがってるんだって。だから、このタイミングでおれたちが集められて、仕事を依頼されたんだ」
あざみの推理に、ぼくの鼓動は速くなる。
「【蓬莱郷】は、今回の求人内容にはふくまれてないけど、この理想郷は、どこにあると思う?」
「どこやろ、この別荘地にはなかったもんな……」
楓が首をひねる。
ニヤッと笑ったあざみが、バッとテーブルクロスを引き抜けば。
真っ白のテーブルに、竹筒状のナプキンが美しくのっていた。
「カジノシティ【トコヨノクニ】だ」
「え! そこにあるんか!?」
「きっとね。4年前に【蓬莱郷】がうわさされはじめたときから、本郷は【トコヨノクニ】をつくりはじめてたから、可能性は大だ」
【トコヨノクニ】を示すテーブルの上の配置は変わっている。
中心に、【蓬莱郷】のナプキン。
右に、本郷グループのナイフと、ぼくらの花。
左に、バロイア国のコインと、『玉枝』の花瓶。
「作戦はシンプルだよ。カジノシティに、バロイア国が『玉枝』を展示する。その『玉枝』とニセモノを、おれがすり替える」
花瓶をパッと背中に隠したあざみは、ニヤッと笑う。
「そして、『玉枝』を千手楼に渡して、おれたちは100億円を手に入れて、首輪を外してもらうんだ!」
「ふへへ、本番はまかせてよ」
「ついでに、【蓬莱郷】も、行けたら行きたいな」
「ついでに、あのムカつくバロイアのやつらに、仕返しもできたらええな!」
ぼくらは、互いに目を合わせた。
これから、【100億円求人】っていうセカンドゲームがはじまる。
100億円を手に入れて、首輪からも、千手楼からも。
この最低な日常からも。
逃げきるために。
「絶対に、成功させるよ!」
あざみのつきだしたこぶしに。
ぼくらはこぶしをぶつけた。
「ゲームスタートだ」
9.ぼくの理想郷
5年前。
夏休みの1日目に、ぼくの人生が変わった。
「じゃあね、勇誠」
そう言った母さんは妹をつれて、出ていった。
きっかけは、父さんがクビになったから。
お金がなくなっていって、心も貧しくなっていって。
父さんは、変わった。
それからぼくは、ボロアパートに父さんと2人で住むことになったんだ。
全部が最悪だった。
「元どおりにしないと」
家も、家具も。前みたいにしないと。
母さんと妹が返って来られるように。
元に戻すためには、同じものが必要だった。
でも、そっくりな家を買ったり、似たような家具を集めたりするのには、大金が必要だった。
小学生のぼくに集められる金額なんて、ほとんどなくて。
それ以前に、剣道場に通うお金すら、家にはなかった。
ずっと努力してきた剣道もつづけられなくなって、優勝を目指してた大会にも参加できなかった。
ぼくのいままでの努力が、全部崩れた。
「もういやだ。……逃げたい」
この現実から、逃げたかった。
布団にうずくまったとき、ふと気づいた。
いままで、恵まれていたんだって。
恵まれた環境で、「努力」って言葉を使ってきたんだって。
いま、この環境じゃ、努力したって、周りの人とはスタート地点がちがう。
はじめる場所がちがえば、到達したい場所への過程も、そこまでかかる時間もちがう。
ゾッとした。
いままでの自分のおごりにも。
いまの自分の現実にも。
「うわ……しんど」
そんなとき、ぼくはダークウェブで【蓬莱郷】について知った。
夢を叶えてくれる理想郷。
母さんと妹が出ていく前と、同じ生活が取り戻せるかもしれない。
ぼくの望む場所が、逃げられる場所が、そこにあるかもしれないって、本気で思った。
そんなとき、ぼくは3人と出会った。
4年前、現実から逃げられると思って、逃げきれなかったファーストゲーム。
そこで手に入れたもので、人生は少しだけマシになった。
でも、日常は変わらなくて、ぼくの首には枷がついている。
逃げられないって思い知らされるたびに、少しずつヘドロみたいなものが積もっていって。
ぼくの心を殺していくんだ。
これから、セカンドゲームがはじまる。
このゲームが終わるころ。
きっと、ぼくはいまの壊れた日常から逃げきれる。
きっと、全部を元どおりにできる。
だからぼくは、絶対にゲームを成功させるんだ。
SECTION2 セカンドゲーム開始
1.海上のカジノシティ【トコヨノクニ】
8月30日 午後8:00
満月が暗闇を照らして、海を銀色に染め上げる。
今日この日、選ばれた人間が、一ヶ所に集った。
世界中の裏社会に通じる、富豪や国の要人たちの集まるそこは、世界最大級のセキュリティ対策がほどこされている。
要塞のように頑丈で、美術品のように美しいその場所の名は。
海上の【トコヨノクニ】。
「「「いらっしゃいませ」」」
セレモニー会場の三日月島と、カジノスペースの満月島に、ヘリコプターや豪華客船が次々に停まる。
白竹の壁に、白銀の光を灯すランタンが並ぶ会場で。
洗練された使用人たちがゲストを迎えた。
「こちらへどうぞ」
その使用人の中に――どこか大人びた雰囲気のある青年がいた。
青年の名前は、ミコ・クラモチ。
イギリスの三つ星ホテルで4年務めた日系イギリス人だ。
「イ・シツク様と、大納言大友様ですね」
ミコは、入り口からやってきた、2人の青年に深々と頭を下げた。
韓国マフィアの幹部の息子、イ・シツク――に変装したモネと。
日本のヤクザの幹部の息子、大納言大友――に変装したぼくだ。
おどろくことに、モネは日本語以外に、韓国語と英語と、中国語を話せる。意外と多才だ。
18歳くらいに見えるように変装したぼくらが浮かないのは、ここに、国籍も年齢も様々な人たちがたくさんいるからだ。
「こちらへどうぞ。ご案内いたします」
全てのゲストに使用人がつくわけじゃないけれど、他のゲストに比べて若いぼくらは、特別に専属の使用人がついてくれてる。
「ミコさん、僕のどかわいた」
モネが、スマートフォンをいじりながら言う。
「下水か海水、どちらがいいですか?」
ニコッと笑うミコ――に変装したあざみ。
「ゲ、ゲストにひどい態度だ!」
「あはは、ぼくはミコからは飲み物をもらわないようにしよう」
ぼくらに背を向けて案内するあざみは、ひそめた声で確認する。
「変装した相手は?」
一応、小型の無線機をつけているけれど、近い距離なら小声で話したほうが楽だ。
「24時間眠ってる。明日の夕方には、海岸のホテルで目が覚めるよ」
「了解。おれの変装相手も同じ」
うなずいたあざみは、ぼくらに施設の案内をしていく。
三日月島は、3つに分けられてるんだ。
北は、バーつきの談話室で、交流スペースになっている。
中央は、メイン会場で、特別展示が催されている。
南は、講演会場で、代表者のあいさつなどが行われる。
「20時30分より、『スペード印』とバロイア国の同盟式典が、講演会場で行われます」
三日月島は全ての壁が液晶画面になってるから、式典の映像がリアルタイムで見られるらしい。
「そして、こちらが21時より、バロイア国が公開する『玉枝』になります」
ぼくらがやってきたのは、中央のメイン会場。
その中心には、赤い布でおおわれた展示台があって、その周りを、4人の軍人が守ってる。
「本日は、バロイア国軍の10名の隊員が、カジノシティの警備にあたっています」
そんなに人数が多くないって思った。
今回のゲストが200人くらいしかいないから、警備の人員を多く入れられなかったのかも。
「基本的には、AIシステムを使い、監視カメラや様々なセンサーで防犯管理に努めているので、人員は少ないんですよ」
ぼくの考えていたことがわかったみたいに、あざみが追加で教えてくれた。
それにしても、バロイア国の軍服は、すごく豪華だ。
上質な白い生地に、金糸をまんべんなくあしらった服には、宝石を使った勲章やモールがついていて、一目でお金持ちってわかる。
「バロイア国って、そんなにお金を儲けてるの?」
ぼくは小声で、となりを歩いているモネに聞いた。
「こ、ここ数年で、宇宙開発の事業が拡大しつづけてるからさ、かなり稼いでると思うよ。成金って言葉がぴったりな感じだね」
「なるほど」
今回、ぼくらが関わる2つの組織をものでたとえるなら。
本郷グループが、渋い黒の“墨”ってイメージで。
バロイア国は、派手なカラフルの“宝石”ってイメージだ。
― ただいまより、『スペード印』とバロイア国の同盟式典を行います ―
(続きは本書でお楽しみください)
作品紹介
100億円求人
作:あんのまる 絵:moto
発売日:2024年02月07日
前代未聞、大胆不敵。最高にスリリングであざやかな頭脳戦!
腕力担当×作戦立案×ハッカー×偽造師。
全員曲者、そろえば最強の4人でいどむは、
命がけの「騙し合い」。
世界が注目するカジノシティ【トコヨノクニ】でのパーティーを舞台に、【報酬:100億円】の求人で集められた4人がいどむ、前代未聞、大胆不敵、最高にスリリングであざやかな頭脳戦!
ムカつく世界は、自由に元気に振り回せ――角川つばさ文庫「トップ・シークレット」あんのまるがおくる、「ぜったい騙される」極上の痛快エンターテインメント小説!
◆
いい? これからはじまるのは、
三つ巴の「騙し合い」ゲーム。
舞台、海上に浮かぶカジノシティ【トコヨノクニ】。
そのオープニングセレモニーに集うのは、
稀代の武器商人・本郷が遺した「どんな夢も叶えてくれる場所」"蓬莱郷"へたどり着こうと必死なワルい大人たち。
そこへ呼び集められたのは、ぼくたち4人の中学生。
パーティーの展示品・蓬莱郷へ至る鍵である「玉枝」をゲットする、っていうのが仕事の内容だ。
……え?
なんでぼくたちが、そんなヤバそうな「求人」に関わるのかって?
それは読んでからのお楽しみ。
まあ、色々あったんだ。
たとえば――ぼくの首には現在、
言うことを聞かないと、ボタン一つでいつでもドカン! と爆発させられる「監視用デバイス」がつけられてるから、とかさ。
100億円を稼いだら、きみならなにをする?
きっとなんだってできるし、どんな人生からも逃げられる。なんてね!
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