【幻の作品が復活! 皆川博子『ゆめこ縮緬』復刊企画④】おすすめコメント・葉山響(ライター)
~皆川博子幻の名作『ゆめこ縮緬』復刊に寄せて~
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皆川博子さんの短篇は「冒頭がすごい」「引き込まれる」と話題です。幻想・綺想をこよなく愛する7人の本読みの達人に、『ゆめこ縮緬』収録作の中で、書き出しが好きな作品を教えていただきました。
1篇にしぼるのはとても難しい! といううれしい悲鳴の中、皆さんが選んでくれた作品の試し読みをします。ぜひ皆川ワールドに触れてみてください。
推薦コメント
「桔梗闇」
地蔵が鳴くのである。泣くのではなく、喋るのでもなく。初っ端から意表を突かれているところに、「まあ、お聞きな」と言われてしまう。そうしたらもう、耳を傾けざるを得ないではないか。脱帽である。
――葉山 響(ライター)
試し読み
み、みィと、地蔵が鳴いた。
地蔵が鳴くものか、猫だろうって? まあ、お聞きな。
あたり一面、芒(すすき)の原。
おあつらえむきに、お月さまじゃないか。
月の光がつくる影のせいさ、地蔵が薄く笑っているように見えるのは。
一つだけなら、さほど目をひくこともない、身の丈五寸ほどの小さい地蔵だけれど、それが、芒のあいだに、百か、二百か。
あちらで、みィ、こちらで、みィ。
鳴きかわすのだよ。
そう言って、桔梗(ききょう)はみィィと語尾をのばす。
「噓だい」
六歳の周也は、身をこわばらせ、空元気をみせる。
「噓ばっかり言って」
「噓と思うなら、お思いよ」
このつづきは、千街晶之(書評家)さんのおすすめコメントと共に第2回でお読みいただけます!
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