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連載

「小説 野性時代」連載コラム「告白します」 vol.12

兼桝 綾「頭が良い女の子」【連載コラム「告白します」】

「小説 野性時代」連載コラム「告白します」

最も旬で刺激的な物語が詰まった月刊文芸誌「小説 野性時代」より、コラム「告白します」を特別公開!
執筆者の個性が光る「告白」をお楽しみください。

(本記事は「小説 野性時代 2024年2月号」に掲載された内容を転載したものです)

兼桝 綾「頭が良い女の子」
【連載コラム「告白します」】

 恋の告白をはじめて受けたのは小学校6年生の時だった。私は中学校受験を控え、大きな市の進学塾に電車で週3回通っていた。学校の「中受組」は両手の指で数えられる程度だったと思う。特に市内まで塾通いしている女子は、私ともうひとりしかいなかった。そのとは決して仲が悪くはなかったが、同じ塾でなければ、一緒に昼食をとることはなかったかもしれない。
 対して男子中受組はどこか誇らしげにつるんでおり、成績が良いだけでなくサッカーも得意な2名(ちびまる子ちゃんの大野君と杉山君みたいだった)を頂点としたグループができあがっていた。その中でM君は皆に好かれ、成績も比較的良く、ただしその体型とややだらしない生活態度から「いじられ」がちな少年だったと思う。
 そのM君が私を好きだと言う。正確には「Mは兼桝さんが好きらしいで!」と、別の男子が言い、M君はその後ろで動揺していた。なんで好きなんー? と周囲から野次がとんで、M君は観念したのかみずから発言した。「兼桝さんは、頭が良いけえ……」。
 私は見世物のような状況にかっとなって、「そんなこと考える暇あったらM君は宿題を忘れんほうがええと思う」と冷たい返しをして、話はそれきりになり、卒業後も連絡をとったことはない。だから、私がこんなにも彼の告白を、何度も掌で包み撫でさするように、大事にしてきたことを知る由もないだろう!
 私は「頭が良い」とされる生徒だった。みんなで掲示の当番をさぼった時、教師に放課後呼ばれたのは私だけだった。「テストの点が良くても、偉そうになってはいけない」教師は言った。私は当番を馬鹿にしているわけではなくて、おそらく他の子たちもそうであったように、ふざけて、甘えて、それでも許され、見逃されたかったのだ。だが一部の大人からは、私は許されるべき子どもではなく、審判のように見えていたのかもしれない。彼らからは、私に馬鹿にされてなるものかという意思を感じた。
 だから、頭が良いことが、好かれる理由になるなんて、思ってもみなかったのだ。本当に? かわいいあの子と同じように。優しく素直なあの子と同じように。頭が良いから私のことを好きになったの? では私はあなたのためにこのままでいよう!
 それは受験戦争の中で、頭が良いことが善だと教えられた末の、ごく素朴な選択だったのかもしれない。ともあれ彼の告白が、私に頭が良い女の子であることを引き受けさせた。私よりもっと頭が良い女の子に沢山出会った今でも、彼には感謝している。

プロフィール

兼桝 綾(かねます・あや)
1988年、広島県生まれ。小劇場での活動や情報資産管理の仕事を経て、現在は出版社に勤務(育休中)。2022年小説集『フェアな関係』を刊行。愛猫の名は「けむり」。

書籍紹介



フェアな関係(タバブックス刊)
著者:兼桝綾
発売日:2022年11月24日

地元と東京、仕事とジェンダー、恋愛、セックス、結婚。この社会にいる女性たちの自我を描く兼桝綾の第一小説集『フェアな関係』タバブックス刊。雑誌「仕事文脈」掲載作に書き下ろしを加え書籍化。装画は増村十七。

掲載号紹介



小説 野性時代 第243号 2024年2月号
編 小説野性時代編集部
発売日:2024年01月25日
商品形態:電子専売

秋吉理香子、垣根涼介がついに最終回! 荻原浩、誉田哲也の連載好評第2回も掲載、充実のラインナップでお送りする月刊小説誌

【連載最終回】
秋吉理香子――殺める女神の島
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【連載】
荻原 浩――我らが緑の大地
誉田哲也――暗黒戦鬼グランダイヴァー
伊東 潤――天地震撼 信玄と家康
赤川次郎――三世代探偵団 愛と哀しみへの逃走
伊吹有喜――銀の神話
近藤史恵――風待荘へようこそ
櫛木理宇――死蝋の匣
佐藤正午――熟柿
阿津川辰海――バーニング・ダンサー
恩田 陸――産土ヘイズ
河崎秋子――銀色のステイヤー
今村翔吾――天弾

【コラム】
告白します――兼桝 綾「頭が良い女の子」
私の黒歴史――嶋津 輝「不穏じゃないし、ざわざわしない」

【記事】
Book Review「物語は。」吉田大助
――北沢 陶『をんごく』

第15回 小説 野性時代 新人賞 二次選考通過作品発表
第16回 小説 野性時代 新人賞 応募要項
第45回 横溝正史ミステリ&ホラー大賞 応募要項

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