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連載

北上次郎の「勝手に!KADOKAWA」 vol.15

北上次郎の勝手に!KADOKAWA 第15回・横溝正史『雪割草』

北上次郎の「勝手に!KADOKAWA」

数々の面白本を世に紹介してきた文芸評論家の北上次郎さんが、KADOKAWAの作品を毎月「勝手に!」ご紹介くださいます。
ご自身が面白い本しか紹介しない北上さんが、どんな本を紹介するのか? 新しい読書のおともに、ぜひご活用ください。

80年前の未刊行長編


書影

横溝正史『雪割草』
定価: 1,276円(本体1,160円+税)
※画像タップでAmazonページに移動します。


 小栗虫太郎『亜細亜の旗』を読んだ。これは太平洋戦争前夜に地方新聞に連載された「家庭小説」だ。山口直孝氏がデジタルデータ化された九州新聞の記事を、熊県立図書館で閲覧しているときに発見したので、1941年に連載されたものが、2021年に「新刊」として刊行(春陽堂書店)されたのだから、驚いた。この『亜細の旗』がそれまで作品目録に載っていなかったのは、作者が証言を残さず、また連載されたのが地方新聞だったので研究者の調査からこぼれてしまったという二点が大きいようだ。

 一読するともっと驚くのは、これが本当に小栗虫太郎の小説なのか、と思うくらい、読みやすいことである。なにしろ、小栗虫太郎といえば、あの難解な『黒死館殺人事件』の作者である。ところが、この『亜細亜の旗』はそれが嘘のように読みやすく、面白いのだ。なんと通俗恋愛小説なのである。発見者の山口直孝氏は、「血なまぐさい犯罪を扱う小説は時局にふさわしくないと忌避され、発表が次第に難しくなっていった」と書いていて、小栗虫太郎がこのような「家庭小説」を書いたことにはそういう理由があると前記書の解説に記している。

 そういう作品を書いたことについて、作者が証言を残さなかったのは、本人には結局、不本意だった、ということなのかもしれない。しかし、これは貴重な資料だ。しかも、いま読んでも面白いのだ。一読の価値がある。
 そして、その山口直孝氏が『亜細亜の旗』の前に発見したのが、横溝正史『雪割草』なのである。というわけで、その詳細は次号。

横溝正史『雪割草』詳細はこちら(KADOKAWAオフィシャルページ)
https://www.kadokawa.co.jp/product/321912000324/


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