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連載

カドブン meets 本が好き! vol.42

まばゆく光る、己の正義を貫こうとする魔法少女の精神──山吹静吽『夜の都』レビュー【本が好き!×カドブン】

カドブン meets 本が好き!

山吹静吽『夜の都』レビュー【本が好き!×カドブン】

書評でつながる読書コミュニティサイト「本が好き!」(https://www.honzuki.jp/)に寄せられた、対象のKADOKAWA作品のレビューの中から、毎月のベストレビューを発表します!
今回のベストレビューは、鳩羽さんの『夜の都』に決まりました。ありがとうございました。



まばゆく光る、己の正義を貫こうとする魔法少女の精神

レビュアー:鳩羽さん

美しき夜の名をもつ娘は、異界に足を踏み入れてしまったがために魔女になることを強いられる。生まれた時から続く出会いと別れ、生と死に、少女が「ご一緒できて光栄でした」と決意できるようになるまでの物語。

 言語社会学の助教授である父の学会参加に同伴することになったライラは、父と若い義母のローズと3人で、長い航海を経て、御伽噺に出てくるかのような独特の文化と礼儀作法を持つ東洋の島国を訪れた。厳しい全寮制の学校で、近代的な科学や人権を叩き込まれたライラから見ると、異国情緒は認めるにしても、東洋の島国は劣った社会に感じられる。
 ローズと反りが合わないことや、同胞の西洋人から向けられる女性蔑視に激しく反発して、ライラは聖域として閉ざされている洞窟の祠に踏み入った。参拝者の願いを叶えるという井戸を覗き込むと、そこに星のような光が見える。ホテルに帰ったライラは、急に襲ってきた激しい睡魔にあらがえず、意識を失うが……。

 優等生で、少し融通がきかなくて、勝ち気な少女であるライラが華やかに活躍するファンタジーなのかと思いきや、幻覚に次ぐ幻覚、幻想と夢と現実が不可分に混ざり合った酩酊感に翻弄され、読者もライラと共に、何が起こってるのか解らない状況にただ困惑する。
 星の井で異界に繋がる鱗粉のような粉を吸ってしまい、夢を通じて異界に呼ばれるようになってしまったライラだが、その間、現実の肉体は仮死状態になっていて、身体に戻れないと本当に死んでしまうのだという。
 この事態と、夢を見るたびになぜか必ず忘れてしまう「身体に戻る方法」を教えてくれたのが、夢のなかの電話で通話をしたクダンと名乗る美しい声の女だった。クダンはライラに魔術を教え、弟子にしようとするのだが、ライラはいずれこの国を去る旅行者であることと、何より教育を受けた女である矜持から、魔術などといいう得体の知れないものを受け入れることができない。
 それでも実際、亡者に襲われ、身を守るために否応なしに魔術の特訓をすることになっていくのだが、クダンへの反発、親しみ、疑念、などなど、物語の先が読めず、意外な人物が意外な役目を持っていたりと、最後まで飽きさせない展開なのは物語の中盤以降も変わらない。妖精たちの飛び交う幻想的な異界の描写から、恐ろしい亡者にライラが襲われる緊迫感のある場面、ライラが魔術を使う戦闘の高揚など、めまぐるしく転がっていく物語にだんだん引き込まれていく。

 物語を追いかける魅力の他に、もう一つこの小説で特筆したいことは、様々な女同士の関係である。
 小生意気な少女であるライラと義母ローズの、間に父親を挟んだ緊張感のある関係。近代西洋の知識を持ったライラと、東洋の不思議の力を持つ女であるクダンの関係。
 他にも、崇拝の対象である女とそれに仕える下僕としての女の関係や、人生の先達が年若い女を導き守ろうとする女の関係など、様々な女同士の対立関係とその変化が巧みに描かれている。
 それは知らずに済めば知らない方がよく、見えないのならば見えない方がよい類いの、世の裏側に属する事柄なのかもしれないし、単なる成長の過程に過ぎないのかもしれない。
 だが、ライラは女であることに代表される不公平さや理不尽さを受け入れ、世界に相対していくことを選ぶ。
 帯にある「魔法少女」という言葉が内容に合わないのではないかと思ったが、魔法少女の清々しく己の正義を貫こうとする精神は、どんな時代を舞台にしても存在し得るし、まばゆく我々の目を惹きつけるのだろう。

▼鳩羽さんのページ【本が好き!】
https://www.honzuki.jp/user/homepage/no15102/index.html

書誌情報



夜の都
著者 山吹 静吽
定価: 1,870円(本体1,700円+税)
発売日:2022年03月29日

あまりにも美しく苛烈な、ヒストリカル・ネオファンタジー×魔法少女物語
異国から来た少女は、眠りの世界で魔女修行をする。「夜の都」を望む異界を訪れて。
魔女の「クダン」から教わるのは、妖精の鱗粉を触媒とした、月の姫から授かりし魔術。
亡者どもを追い払う任務を、世界を守る役目を、図らずも背負わされた少女の運命は。
圧倒的な想像力が世界を創造する、あまりにも美しく苛烈な、ヒストリカル・ネオファンタジー×魔法少女物語。

▼書籍の詳細はこちら
https://www.kadokawa.co.jp/product/321806000313/
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