
時事ニュースと法律豆知識が盛り込まれた、探偵と助手のミステリ連作集── 五十嵐律人『六法推理 』レビュー【本が好き!×カドブン】
カドブン meets 本が好き!

五十嵐律人『六法推理』レビュー【本が好き!×カドブン】
書評でつながる読書コミュニティサイト「本が好き!」(https://www.honzuki.jp/)に寄せられた、対象のKADOKAWA作品のレビューの中から、毎月のベストレビューを発表します!
今回のベストレビューは、ぽんきちさんの『六法推理』に決まりました。ありがとうございました。
時事ニュースと法律豆知識が盛り込まれた、探偵と助手のミステリ連作集
レビュアー:ぽんきちさん
クールな「法律マシーン」の法学部4年生と、行動力と閃きが光る「自称助手」の経済学部3年生のバディが、身近な事件に挑む!
だが、ふとしたことから、「無法律」に相談を受けに来たことをきっかけに、メンバーが1人増える。
さて、凸凹コンビで「無法律」に持ち込まれた相談を解決しようという連作集。
全5話。
一話目「六法推理」は夏倫がそもそも「無法律」に足を踏み入れるきっかけになった事故物件の話。
二話目「情報刺青」はネット上に公開されたリベンジポルノの事件。イマドキのユーチューバーなども絡むのだが、実は公開した人物の狙いは意外なところにあり・・・。
三話目「安楽椅子弁護」は安楽椅子探偵ならぬ安楽椅子弁護。古城の友人が事件に巻き込まれたのだが、法曹資格を持たない学生の身では弁護はできない。そこで本人が訴訟を行う形でいろいろと知恵を付けるという運び。
四話目「親子不知」はいわゆる毒親の母親と縁を切りたいという女性の相談。ここにもう一組の親子の問題が交錯し、事件は思わぬ展開に。
五話目「卒業事変」では、古城が卒業を間近に控える中、夏倫がカンニング騒ぎに巻き込まれる。
5つの話は緩くつながり、幕間として法曹一家・古城家のエピソードも挿入される。
かつては多くのメンバーがいた「無法律」がなぜ古城1人になってしまったかも徐々にわかってくる。
著者は現役弁護士だそうで、一般にはなじみの薄い法律豆知識もところどころに入ってくる。
例えば、民事裁判では、多くの場合、原告は、賠償金という形で何らかの金の支払いを要求する。単に「金が欲しいから」というよりは、事件の顛末をはっきりさせ、責任の所在を明らかにしたいというケースも少なくない。だがここに「認諾」という手段がある。事件自体について深く追及されたくないと考える被告側が、「原告の主張を認める、金を払う」、として、裁判を終わらせてしまうのだ。少し前、公文書改竄問題により自殺者が出た事件の民事裁判で、国側が「認諾」し、真相に蓋をする形になったのは記憶に新しいところだろう。本作ではちょっとひねった展開で、裁判は実際「認諾」で終結するのだが、実は陰で動いた人物がいて、という凝った話になっている。
その他、親と法律的に絶縁することの困難さ、ネット上の名誉棄損などで発信者情報開示を請求する際の流れなど、なかなか今日的でなるほどと思う点も多い。
今日的といえば、事件自体、時事問題を盛り込んだ形で、リベンジポルノ毒親問題、カンニング、セクシャルハラスメントなど、最近のニュースを思い出させるフックが多い。
これらを法律的見地からまず古城が推理していく。見えない糸を手繰り寄せ、これが真実なのか、と読者も誘導される。だが、実はその推理には無理や穴があり、そこを夏倫がずばりと突き、解決に至る、というのが定石のような形。
ホームズは古城なのかと思わせておいて、ワトソン的な夏倫の洞察の方が優れているというのはなかなかおもしろいパターンである。
ただ、個人的には事件が重苦しくてやや閉口した。事件が解決しても心情的にはすっきりしない。そこが現代の空気を映しているといえるのかもしれないが、娯楽として読むにはやや重いように思う。
▼ぽんきちさんのページ【本が好き!】
https://www.honzuki.jp/user/homepage/no3483/index.html
書誌情報
六法推理
著者 五十嵐 律人
定価: 1,870円(本体1,700円+税)
発売日:2022年04月25日
現役弁護士作家が放つ、青春×多重解決ミステリ!
その悩み、一人で抱え込まずお気軽に無法律へ。
学園祭で賑わう霞山大学の片隅。法学部四年・古城行成が運営する「無料法律相談所」(通称「無法律」)に、経済学部三年の戸賀夏倫が訪れる。彼女が住むアパートでは、過去に女子大生が妊娠中に自殺。最近は、深夜に赤ん坊の泣き声が聞こえ、真っ赤な手形が窓につくなど、奇妙な現象が起きているという。戸賀は「悪意の正体」を探ってほしいと古城に依頼するが……。リベンジポルノ、放火事件、毒親問題、カンニング騒動など、法曹一家に育った「法律マシーン」古城と、「自称助手」戸賀の凸凹コンビが5つの難事件に挑む!
詳細:https://www.kadokawa.co.jp/product/322107000450/
amazonページはこちら