【連載第17回】河﨑秋子の羊飼い日記「羊は産まれた、桜はまだかいな」
河﨑秋子の羊飼い日記

北海道の東、海辺の町で羊を飼いながら小説を書く河﨑秋子さん。そのワイルドでラブリーな日々をご自身で撮られた写真と共にお届けします!
>>【第16回】「母、乱心」

母羊「(ドヤァ…)」
世の中は令和だ10連休だと賑やかだが、牛も羊も犬猫も、なんならその辺で飛んでるスズメも元号というものは関係ない。たぶん時間の概念そのものを持たないであろう彼らにとって、大事なのは季節、さらに言えば日照時間である。
日照時間は特に、繁殖に関係する。気温が高いか低いかではなく、日照時間が長いか短いかによって季節の移り変わりを判断し、それに合わせて体を繁殖体勢に持って行くわけだ。
牛や羊や馬は、なぜか夜中、しかも天気が悪い日に狙いすましたかのように分娩することがしばしばある。これは、分娩という無防備な状態、そして産まれたばかりの我が子を天敵の目になるべく触れさせないようにするためだという説がある。なるほど、非常に説得力がある。だが、飼い主の苦労を考えて安全な飼育環境下では野生のソウルをそろそろ改めてみてはくれないものか、とも思う。
(ちなみに日本で飼育されている乳牛は改良されていくうちに季節繁殖から通年繁殖になった。このため、安定した量の牛乳が通年で流通しているのである)
さて、今年の羊の分娩は無事に終わった。今年は冬の爆弾低気圧が少なかったため母体のダメージがなかったのか、それとも春先に気温が安定していたのが良かったのか、事故などはほぼなく元気な子羊ばかりだ。あとは子羊がすくすく育つのを待つだけだが、桜が咲くころには親の毛刈りという重労働が待っている。逃げ惑う羊と全力ガチンコバトルの日々を思うと、今から腰が痛い。とほほ。
河﨑秋子(かわさき・あきこ)
羊飼い。1979年北海道別海町生まれ。北海学園大学経済学部卒。大学卒業後、ニュージーランドにて緬羊飼育技術を1年間学んだ後、自宅で酪農従業員をしつつ緬羊を飼育・出荷。
『颶風の王』で三浦綾子文学賞、2015年度JRA賞馬事文化賞、『肉弾』では第21回大藪春彦賞を受賞。



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