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連載

河﨑秋子の羊飼い日記 vol.3

【連載第3回】河﨑秋子の羊飼い日記「真のドナドナ」

河﨑秋子の羊飼い日記

北海道の東、海辺の町で羊を飼いながら小説を書く河﨑秋子さん。そのワイルドでラブリーな日々をご自身で撮られた写真と共にお届けします!
>>第2回 草食系男子の変貌

 年の瀬だ年末進行だとせわしない師走も半ば。この時期、羊飼いにとっては、クリスマス向けの出荷は特に重要だ。この季節に合わせて最高の状態になるよう子羊を育て上げるのが腕の見せ所と言ってもいいかもしれない。ちなみに肉を出荷するといっても、生きている羊を自分で肉にする訳ではない。法律に基づき、認可を受けている食肉加工場へと生きている羊を連れていき、精肉にしてもらうのだ。
 ところで、子どもの頃に習った『ドナドナ』は、出荷されていく子牛の姿を悲しく歌ったものだが、ちょっと歌詞を思い返してもらいたい。(関係団体から怒られるので歌詞そのものはここでは書かない)
 あれはあくまで、子牛を市場へ連れていく歌なのだ。牛は羊と比べて幼獣を肉にすることは少ない。おそらく歌の子牛は次の飼い主へと売られ、もしメスならば将来の繁殖・搾乳用、オスであっても肉にするまで時間をかけて育てられるものと思われる。つまり、売られていく姿は悲しいのかもしれないが、その将来はすぐに真っ暗、という訳でもない。家畜として通常の未来が想定されるだけである。
 それに対して、加工場に連れていく子羊はすぐ肉になる運命だ。だがたとえ子羊肉の柔らかでジューシーなローストを前にしても、感傷に浸る必要などない。もはや議論の余地もない当たり前のことだが、生き物は他の生き物の命を摂取しなければ生きていけない。ならば少しでも美味しく、かつ楽しく食べ、エネルギーを充填したらパワフルに生きていくべしというのが私の持論だ。
生産者としても、心血注いで育てた羊が適切に肉となり、クリスマスディナーとして喜んで頂ければ羊飼い冥利に尽きるというもの。もしこの時期、レストランのディナーラインナップに国産羊肉があったらぜひお試し頂きたい。美味しいうえにカルニチン豊富でダイエット効果もある羊肉のおかげで恋人の株も上がることうけあいだ。(たぶん)
 そんな訳で、今月も私は胸を張って自慢の子羊を出荷しようと思う。ただしこの時期、北海道に予定外の吹雪はつきもの。果たして山を越えた先にある加工場に無事到着できるのか。ドナドナを口ずさんでいる余裕など全くないサバイバルドライブが私を待っている。

 
 
河﨑秋子(かわさき・あきこ)
羊飼い。1979年北海道別海町生まれ。北海学園大学経済学部卒。大学卒業後、ニュージーランドにて緬羊飼育技術を1年間学んだ後、自宅で酪農従業員をしつつ緬羊を飼育・出荷。
2012年『北夷風人』北海道新聞文学賞(創作・評論部門)受賞。2014年『颶風の王』三浦綾子文学賞受賞。翌年7月『颶風の王』株式会社KADOKAWAより単行本刊行(2015年度JRA賞馬事文化賞受賞)。


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