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連載

全部読んだか? 東野圭吾 vol.5

エッセイは小説以上に貴重!? 東野圭吾の肉声が聞こえてくる! 東野圭吾の11作品、怒濤のレビュー企画③『さいえんす?』

全部読んだか? 東野圭吾

全部読んだか? 東野圭吾――第3回『さいえんす?』

数ある東野圭吾作品。たくさん読んだという方にも、きっとまだ新しい出会いがあります。
超・殺人事件』刊行に合わせ、角川文庫の11作すべてのレビューを掲載!

(評者:西上心太 / 書評家)


東野圭吾『さいえんす?』(角川文庫)

東野圭吾『さいえんす?』(角川文庫)


 東野圭吾のエッセイは小説以上に貴重である!
 これは決して大げさな言ではない。東野圭吾はこれまでに5冊のエッセイ集を出している。年代順に挙げると、主に青春時代を描いた自伝的エッセイ『あの頃ぼくらはアホでした』(1995年)、スポーツ中心のエッセイ『ちゃれんじ?』(2004年)、本書、トリノ冬季五輪見聞記『夢はトリノをかけめぐる』(2006年)、編年体で半生を振り返った『たぶん最後の御挨拶』(2007年)である。
 つまり最後のエッセイ集から10年以上が経っているのだ。そしてそれと軌を一にするかのように、東野圭吾は表に出てこなくなった。いやいや、引きこもりではなくてですね、サイン会、トークショー、インタビューなど、新刊の販売促進の一環で他の作家が積極的に行う活動をほとんどやらなくなったのだ。
 ただし日本推理作家協会の理事長を務めていた2009年からの4年間は、協会関係のイベントへの出席や、江戸川乱歩賞選考委員を務めてはいた。だがこれはあくまでも公務である。それを除けばほとんど露出がなくなったのだ。そういえば2014年からやっていた直木賞の選考委員も先ごろ辞任した。これも義務は果たしたと考慮した結果ではないか。
 イベントなどに時間を取られることなく、小説を書くことに費やしたいという想いなのだろう。それは、完成した作品に絶対的な自信があるからこそ貫ける姿勢でもある。誰もが真似できることじゃないですね。しかも最後のエッセイ集のタイトルも内容も意味深である。「小説以上に貴重」という言葉、嘘じゃないでしょう。
 さて本書は2005年に文庫オリジナルで刊行された3作目のエッセイ集である。前半の14編がダイヤモンド社の雑誌「ダイヤモンドLOOP」に2003年4月号から2004年5月号に掲載された。そして後半の14編が角川書店のPR誌「本の旅人」の2004年8月号から2005年9月号までに掲載されたものだ。
 タイトルからも分かるように、主に「科学」をテーマにしたエッセイ集だが、もちろんそんなに堅苦しいものではない。東野圭吾の意外な趣味や、いまとなっては貴重な肉声が聞こえてくる面白エッセイなのだ。
 巻頭の「疑似コミュニケーションの罠」では、生身の人間とコミュニケーションを取る訓練の場が不足している状況を憂えている。このエッセイが書かれてからすでに15年。現在の事態はスマートフォンの劇的な普及も手伝い、ますますその状況が加速している。このことからも、ヒット作を生みだす作家は、将来を見通す目を持っていることが分かるのだ。
 ホームランバッターを揃えるなど大型補強を行いながら、成績がふるわなかった読売ジャイアンツの原因を探る「堀内はヘボなのか?」も面白い。上位三チームの勝ちゲームと負けゲームにおける二年間の得失点差、防御率などを調べ、分析しているのだ。理系作家の面目躍如というところだが、ずいぶんと手間暇のかかることをやっているなあ。
 また、作家の執筆環境に興味がある人が多いようだが、そんな読者には「ツールの変遷と創作スタイル」がうってつけ。江戸川乱歩賞作家は春に受賞が決まると、夏を目処に受賞第一作にあたる短編を依頼されるのが常なのだが、この作品をちょうど購入したワープロで執筆したとある。おお、東野圭吾がプロとなってから一貫してワープロ(後にパソコン)を使用して原稿を書いていたという貴重な証言が残されることになった。
 他にも、危機管理ときちんと向かい合おうとしない原発が抱える問題(この結果がどうなったかは皆様ご存じ)、ダイエット、科学技術に対する無知と無関心に対する怒り、理系が陥りやすい発想の限界、少子化問題、地球温暖化など多岐にわたる話題を、身近なことから敷衍して縦横かつ軽快に語っていく。小説が面白い作家は、エッセイも面白い。それを証明する一冊だ。

▼『さいえんす?』詳細はこちら(KADOKAWAオフィシャルページ)
https://www.kadokawa.co.jp/product/200412000332/


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