角川文庫キャラ文通信
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大人気シリーズ「金椛国春秋」待望の新刊が登場です! お家断絶、女装で後宮勤務……波乱万丈な人生に翻弄される病弱な主人公・星遊圭の活躍が話題の傑作中華風ファンタジー「金椛国春秋」。最新刊発売を記念して、シリーズに対する思い、そして今後の展開について、作者の篠原悠希さんにお伺いしました!
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── : 本作が生まれたきっかけを教えてください。
篠原:「平安もしくは中華ファンタジーどうですか」という二者択一の提案を版元さんにいただいたのがきっかけです。
日本史は好きなのですが平安時代は門外漢なのと、中華史の資料は家にある程度あったのと、時代枠にこだわらない自由度から、安易に中華ファンタジーを選んでしまいました。
シリーズが進むほどに、自分の浅学さを思い知らされ資料に埋没する日々になるとは知らずに……。
── : お気に入りのキャラクターは誰ですか? 理由も教えてください。
篠原:やはり、玄月でしょうか。初めは、遊圭のカウンターキャラは陽元で、玄月は遊圭と陽元との橋渡し役にすぎませんでした。
名前も玄月ではなかったのですが、登場するなりぐいぐいと話を(というか遊圭を)引っ張り回してどんどんプロットを塗り替えてくれました。
作者が油断していると、何するかわからないキャラです。
胡娘も大好きです。抱えている闇は玄月ともあまり変わらないんじゃないかと思いますが、性格が前向きなので救われていると思います。
遊圭は我が子みたいな立ち位置なので、よくイラッとさせられますが、かわいいです。
麗華も明々も、ルーシャンはもちろん、実は姜作児も橘子生ももう一回出てきて欲しいくらいどのキャラも好きなのですが、新刊にはさらにキャラが増えてこちらもみんな好きです。
── : 姜作児は気の弱い宦官(2巻登場)、橘子生は一筋縄ではいかない外国人留学生(3巻登場)ですね。どの辺りがお好きなのですか? ネタバレしない程度にお聞かせください!
篠原:橘子生は状況次第で善にも悪にも転がる存在で、その振れ幅もそれほど広くなく、ナチュラルに自分勝手な、わりとどこにでもいるタイプだと思います。
作児は距離を測って付き合えば、気のいい便利なおじさんですし(笑)。
悪気はないのに、迷惑な隣人。自分勝手なくせに、正論とありがたくないお節介は一流な家族。根は善良だけども、うざい友人。ライバル意識や計算高さを隠さない同僚。使えないけど、憎めない部下など、実際に身近にいたらフラストレーションがたまってしまいそうなキャラでも、その世界の一部であり、各自いろいろ思うところがありながら、存在を許され、受け入れられているところに、「物語」の優しさや救いがあるのでは、と常々思っています。
西遊記の猪八戒、ムーミン谷のスニフやヘムレンさん、英国文学の“Pride and Prejudice”(『高慢と偏見』)にいたっては、主人公の周辺には両親から親戚、友人まで、そんな連中ばっかりだったり……でも、主人公たちはそんな迷惑な家族や隣人を糾弾したり断罪せずに、あるがままに共存しているのですよね。
長く読まれている物語は、そうしたキャラと「主人公・読者目線のこちら側」との対比が際立っていて面白いです。
面倒くさいけど憎みきれない人たちは、そこにいるんだから仕方がない。排除するのも人道に反する。
かれらはリアルにもいるので、主人公たちが振り回されながらも「否定、拒絶しない」で、また反面教師として折り合っていく方法を見つけていく過程で、キャラも作者も、そして読者もともに寛容さを育てていくことが、ハッピーエンドにもつながるのではと思います。
今後出てくる機会があるかどうか、まだ未知数ですが、どこかでまた遊圭との軌跡が交わって、かれらがその後どうなったのかは、どこかにそっと書き入れたいと考えています。
── : 新刊の読みどころはどこですか?
篠原:官僚になってお家復興といっても、まずは国士太学に合格しないとなりません。
試験勉強が忙しく、これまでのようにめまぐるしく舞台や状況が変化していく勢いはないぶん、ようやく落ち着いて青春と将来の悩みに向き合えるようになった遊圭の、内面の成長に焦点が当てられています。
そこに影を落とすというか緩急をつけるのは、やはり皇帝を押しのけ自力でカウンターキャラにのし上がった「玄月」です。
宦官の後宮の外における自由度というのは時代や王朝によって異なるのですが、地位の高い宦官は城下に自宅を構えることを許されましたし、明代には皇帝の命令で大航海に出た宦官もいますので、玄月は遊圭が思い込んでいるほどには後宮に縛られてはいないのではないかと思います。なのでこの巻でもけっこう出番はあります。
担当さん指令「玄月をデレさせてください」と、かなり高いハードルも課されました。
それもあって、玄月の本音や過去が少し明らかになります。
── : 今回の展開を可能な程度で教えてください。
篠原:遊圭は外戚として生活の場を得て、ようやく世界に足を踏み出していきます。
これまでに比べると命の危険と隣り合わせ、という状況ではなくなりますが、飛び込んでいく世界がまた一筋縄でいかない。
油断していると、いつ足をすくわれるかわからないのは、後宮とあまり変わらないかもしれません。
賢いようで、うかつなところのある遊圭です。
天性の策謀家ではないことを自覚し、策士策に溺れないよう、若いうちに学びつつ、方術師の予言の通りに生き残って欲しいものです。
六巻以降はまた長い旅に出ることになる遊圭です。
できれば、これまで遊圭が出会ってきたひとりひとりのキャラに焦点を当てて、最後は大団円(ファンタジーなので)を迎えたいなと考えていますが、どうなることか……。
── : 最後に、読者に一言メッセージをお願いします。
篠原:1巻から応援してくださった読者の皆様のおかげで、シリーズで書かせていただけることになり、1巻では12歳くらいだった遊圭が、5巻終了時には17歳。
子どもって、あっというまに成長してしまいます。
他のキャラクターは安定した評価をいただいていますが、遊圭だけはなぜか「かわいい、けなげで応援したい」~から~「イラつく、ガキンチョで好きになれない」まで幅広い反応をいただいています。
それだけ星遊圭という発展途上の少年の存在を、より身近でリアルな人間として感じていただけているのかなと勝手な解釈をしています。
これからも失敗を重ねながらも少しずつ、ときには一足飛びに成長していくであろう遊圭の将来を、あたたかく見守っていただけると、作者としてとてもうれしく思います。
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