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連載

赤川次郎「三世代探偵団4 春風にめざめて」 vol.33

【連載小説】久我が隠れていると思しき旅館に向う道中、一行はルイの恋愛の話になって……。 赤川次郎「三世代探偵団4 春風にめざめて」#9-1

赤川次郎「三世代探偵団4 春風にめざめて」

※本記事は連載小説です。

前回のあらすじ

興津山学園に通う天本有里が出会った矢ノ内香は、不思議な火災で父母を亡くし恩師・宮里を頼りに上京したところ、宮里がアパートでAVを撮影しているのを目撃、カバンに切断された指を入れられたという。病気の妻のためAVで稼ぐ宮里と暮らす太田充代は、弟の猛から宗方という男に見込まれ、殺人の罪をかぶって姿を隠す、と言われる。AVの撮影現場から吉川マナという少女が不審な失踪を遂げたと知り、村上刑事らは手掛かりを知りそうな久我医師の家を訪れるがそこはもぬけの殻だった。久我に行きつけの温泉宿があると聞いた一行は、急いで〈M〉という旅館へ向かう。

13 古びたカウンター(つづき)

「僕一人で行く」
 と言うむらかみの言葉は、みつに完全に無視された。
 結局、村上の車は三人を乗せて温泉旅館へと向うことになった。
「運転しながら、旅館に電話できないでしょ」
 と、有里に言われると、村上も反論できなかったのである。
「いいコンビですね、お二人」
 と、充代が感心している。
 十六歳の高校生と「いいコンビ」と言われて、村上としては、喜んでもいられなかったが……。
 あの居酒屋〈E〉の女将おかみ──まるやまやすという名だった──から聞いた温泉旅館まで、車で三、四時間というところだった。
「着くのは夜になるけど、今はまだが旅館に来ていない」
 と、村上が言った。「もし、違う旅館だったら……」
「仕方ないわよ。それしか手掛りがないんだもの」
 と、有里が言った。
「そうだな」
 暗くなって、道は空いていたので、車は順調に走って、
「──あと三十分くらいで着くだろう」
「じゃ、もう電話しないで、直接行っちゃいましょう」
 と、有里が言った。「もし私たちが向ってるって分ったら、久我って人、逃げちゃうかもしれない」
「そうだな。──よし、急ぐぞ」
 とはいえ、山道になって、そう無茶な飛ばし方はできなくなっていた。
「──マナちゃんって子が無事だといいけど」
 と、充代がポツリと言った。
 自分もAVの製作に係って来たという思いがあるのだろう。
「あのルイさんも……」
 と、有里が言った。
「ええ。──あの子は本当に初めてだったんだもの。とてもいい子で……」
 ルイの話は聞いた。
「お友達の手術の費用のために、って、そんなことまでして。偉いですよね」
 と、有里は言った。
「でも、よりによって……」
「ええ。手術したお医者さんを好きになってしまうなんて。でも、どうなんでしょう? ルイさんの出たビデオって、〈Kビデオ〉が倒産してしまったんですから」
「正規の商品としては出せないかもしれない」
 と、充代は言った。「でも、きっと撮った素材や、編集前の分も含めて、持ち出してると思うわ。裏のルートで売り出そうとするでしょう」
「じゃ、世の中に出回らなくても……」
「今はネットに流出する時代ですもの。いつどこで誰が見てるか分らない」
「可哀そうに……」
 と、有里は言った。「お医者さんのことは諦めてるようでしたね」
「そうね。隠して付合っていても、いつ知れるか、ずっと心配してなきゃいけないものね。──私も、あの子をAVの世界へ引張り込んでしまった、責任があるわ」
 と、充代は言って、「マナって子のことも、たまたま係ってなかっただけで、同罪だわ」
 と、ため息をついた。
みやざとさんは、もうやめると……」
「私も、もう手を引くわ。何もかも終ったら、全く新しい生活を始めてみたい。──あの人とも別れて」
「分ります」
「有里さん、あなたってとても十六とは思えない。大人ね」
「そんなことないですけど、母や祖母のことをずっと見て育って来ましたから」
 そのとき、村上が、
「もうじきだ」
 と言った。

▶#9-2へつづく
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「小説 野性時代」第207号 2021年2月号

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