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レビュー

世界の危機に、幻のスパイ集団が立ち上がる——『スパイコードW』福田和代 レビュー【評者:齋藤明里】

彼らの武器は知恵とトリック。世界の平和を賭けて、覇権国家をダマしきれ!
『スパイコードW』福田和代

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スパイコードW』福田和代



現代社会の裏で、スパイという名のヒーローたちが競演する⁉ 軽快なスタイリッシュ・サスペンス!
福田和代『スパイコードW』

評者:齋藤明里 女優

 スパイといえば、あなたは誰を思い浮かべますか?
 最近流行りのイケメンな子育てスパイ? 数々の名優が演じたコードナンバーのスパイ? それとも天井から宙吊りになる姿が名曲とともに思い出されるスパイ?
 実は国境を越え、平和のために動く幻のスパイ組織があるんです。その名も“特務機関Ω”。福田和代さんの書かれた『スパイコードW』に登場します。
 今からそう遠くない未来。新たな指導者を得た中国は、長年の野望だった台湾侵攻に乗り出します。侵攻が成功すれば世界の均衡は崩れ、人々の平和な暮らしが脅かされてしまう。そんな危機的状況を「トリック」で解決するために動き出したのが”特務機関Ω”。旧日本軍が残したとされる幻のスパイ集団です。彼ら工作員は正体を隠し、各地で極秘のミッションに挑みます。
 作品の見どころは、何といってもスパイたちの「裏の裏のかき合い」にあります。スパイが騙し、スパイが騙される情報戦。気付けば1話目から、私も彼らに騙されていました。各話ごとに様々な立場のスパイが登場し、群像劇のような描かれ方をしますが、主軸となるのは牛王渉という一人の男性。彼はある出来事をきっかけに“特務機関Ω”に協力することになるのですが、読者に近い視点で彼の行動が描かれるため、まるで私もスパイになったかのような臨場感が味わえました。時には情報戦、時には逃走劇、ラストは全てを巻き込み、誰が本当の敵か味方かもわからない。緊張と高揚に溢れ、物語は一気に駆け抜けていきます。
 現実世界に繋がるリアリティある描写も、作品の面白さを強固にしている要素の一つです。例えば、“特務機関Ω”が動きだすきっかけとなる中国の台湾侵攻。その背景には、2019年末に発生した新型ウイルスのパンデミックによる世界の弱体化があり、その中で国家間の緊張が高まっていったことが細やかに、かつ分かりやすく描かれています。また、物語の幕開けとなる人工島“スプラッシュ台湾”。米国の大手企業によって作られた船上カジノホテルで、各界のVIPたちを呼んで華やかなオープニングが行われますが、その裏には「人工島の真実」が隠されています。このような場所が、もしかしたら今後世界のどこかに作られるのではないか、という現実味を帯びた恐ろしさがありました。現代の諜報情勢のリアルを想起させるディテールが、物語を私たちのそばに力強く引き寄せてくれます。
 読者をグッと惹きつけ、ワクワクさせてくれるエンターテインメント性と、現代における国家間情勢のリアリティある描写のバランスが心地よく、ファンタジックなスパイものでも、重く堅苦しい戦争ものでもない独特の面白さが、『スパイコードW』最大の魅力かもしれません。
 どれだけテクノロジーが進歩しようと、国家が他国に対し力を見せつける武力行使の愚かさは、歴史の授業で習うような戦争から何も変わっていません。その中で、非暴力の諜報という手段、彼らスパイたちの言葉で言えば「トリック」によって戦争を止めよう、世界の均衡を保とうとする姿は、まさに平和を守る現代のスーパーヒーローでした。
 『スパイコードW』はまぎれもなくフィクションであり、物語です。でも、もしかしたら、私たちの生活の裏には彼らのように陰で暗躍する、スパイという名のヒーローがいるかも……なんて考えると楽しく思えませんか?

作品紹介・あらすじ
『スパイコードW』



『スパイコードW』
著者 福田 和代
KADOKAWA 
定価:1815円(本体1650円+税)

超大国の野望を奇術(トリック)でぶっ飛ばせ!
強力な新指導者を得た中国が、長年の野望だった台湾侵攻に乗り出す。世界の秩序を揺るがす事態に、旧日本軍が残した伝説の“特務機関Ω”が行動を開始。正体を隠していた工作員たちが世界各地でミッションに挑む。彼らは台湾を、そして世界を救うことができるのか? 中国を止める禁断の切り札「W」とは? 裏の裏をかき合う、スパイたちの競演が始まった!

<もくじ>
カジノ・スプラッシュ
ダブル・フェイク
国を釣る
ワイルドカード
ラストオーダー

詳細:https://www.kadokawa.co.jp/product/322104000674/
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