【カドブンレビュー】
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(評者:井口徹也 / 株式会社ディー・エヌ・エー ゲーム事業部 副事業部長)
来年はついにオリンピックが東京で開催される。
テレビの特別番組で各国代表選手のコンディションや、日本の代表団がどのような思いで日々を過ごしているのかを見かけるようになってきた。
そんな中、政治という観点からオリンピック招致を描いたこの本が目に止まった。初の日本開催である1964年東京オリンピックが舞台。当時の首相・池田勇人(と田畑政治)の人生から東京オリンピック開催に至るまでの軌跡をたどるというものである。政治という側面からみたとき、どのような議論や苦悩があったのかに、とても興味を抱いた。
そこには日本を動かすことになる一人の人間の生き様が描かれていた。池田が政治家になってからの話だけではなく、大蔵官僚時代に難病を乗り越えて奮闘してきた様や、1年生議員でいきなり大蔵大臣に抜擢され、周囲のやっかみの中、GHQとぶつかりながら戦後の経済を立て直していく様子など、当時の時代背景や周囲の人間関係までもが生き生きと伝わってくるものになっている。
本の主題でもあるオリンピックへの思いも、様々な観点から描かれている。
池田勇人は自らの所得倍増計画において、東京オリンピックを経済発展への起爆剤にしたいと強く考えた。そして、そのためには首都高速道路などの開発や新幹線の開通などインフラ整備が不可欠であり、国を挙げて取り組むべきだと宣言するまでが綿密に描かれている。
さらに、オリンピック招致に人生を捧げていた田畑政治や、新幹線開通に向けて周囲の反対を押し切り予算獲得に奔走した十河信二など、各分野で情熱を持って仕事に人生を捧げてきた人たちの思いの丈も伝わる構成になっており、当時流れていた時代の熱量や勢いを多角的に捉えている。こうした人々の努力の末にたどり着いたオリンピック開会式に池田が出席し、その後すぐに政治家人生を全うする姿は、本当にかっこよい生き様だなと深い感動を覚えた。
生々しいやりとりが描かれている歴史小説であり、各分野で情熱が燃えたぎっていた時代を生き抜いた人々の人生録でもあった。チームプレイを超えた無数の情熱が、オリンピックという集大成に行き着く様が描かれていた。
ご購入&試し読みはこちら▷『この日のために 上 池田勇人・東京五輪への軌跡』| KADOKAWA
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