「外人部隊」の響きから、何を想像するだろうか。筋骨隆々の男たち、戦場の最前線でライフル片手に戦う傭兵、テロリストの基地に潜入し、敵を殲滅する仕事人。表現はさまざまあるものの、総じて特殊訓練を受けた戦闘のスペシャリストを思い浮かべる人が多いかもしれないが、本書を読むと、その認識は一変するだろう。
著者はフランスの外人部隊で六年半を過ごした。コートジボワール、ガボン、危険が伴うアフガニスタンでの任務にも就いた。銃弾が飛び交う中を医療班として、前線で救護にあたった。足元近くに着弾することもあれば、仲間が顔の原形も残さぬ状態になることも。文字通り、死と隣り合わせの中を生き抜いたわけだが、著者は銃器の扱いに長けていたわけでも、医療知識が豊富だったわけでもない。災害救援に携わろうと自衛隊への入隊を希望するが、十五回も落ち、日本に居場所はないと海外に目を向けたのがきっかけだった。
素人同然のはずの著者がいかにして紛争の中心地に派遣されることになったのか。そこに至る過程や、外人部隊の意外な日常が本書にはつまっている。
まず、どのように入隊するかが気になるところ。門戸は誰にでも開かれており、フランス各地にある徴募所にパスポートひとつ持っていけば良いとか。複雑な手続きは要らず、読み手も拍子抜けするはず。
倍率は十倍前後で狭き門のようにも思える。だが、最低限の体力は必要なものの、盛り上がった筋肉や強靱な肉体は求められない。実際、外人部隊の同僚は元教師など。語学も入隊時には問われず、著者は面接官とコミュニケーションがまともにとれなかったほどだ。
入隊後も朝から晩まで過酷なトレーニングが続くわけではない。銃を装備して走ったり、塀をよじ登ったりの訓練はあるが、映画の中のように「サー! イエッサー!」と気合いを入れたら大声を出すなと言われる始末。特殊訓練を仕込まれることはなく、基礎訓練がひたすら続く。我々がハリウッド映画の見過ぎであることを痛感する。
訓練や警備など「軍人」らしいこと以上に時間を割かれるのが、基地での掃除や草むしりなどの雑務。「軍人ではなく清掃スタッフ」と言っても過言でなく、思い描いていた入隊後とのギャップに姿を消す者も少なくないとか。
とはいえ、戦闘の最前線に皆が行きたいわけではないのが興味深い。少数精鋭で知られるパラシュート連隊は成績優秀者しか入れない印象だが、訓練が過酷なため、成績上位でも希望しない者も多い。当落線上と思われた著者もあっさりと入ることができたという。
世間では「外人部隊」の響きが一人歩きするが、入隊者には特殊な仕事というよりも、「職業のひとつ」として考えている者がいかに多いか。戦地を避け、ほどほどに訓練し、バカンスを楽しむ。基本給は月二十万円に届かないが、衣食住には不自由しない。発展途上国の者はもちろん、先進国の者でも、現実的な就職先のひとつとして魅力的に映ってもおかしくない。
本書は「外人部隊就活ガイド」の側面が大きいが、戦場の緊迫感に満ちた描写ももちろんある。人は生き死にの瀬戸際に何を思うか。我々の想像が及ばない現実がそこにはある。
武装集団に囲まれた時は、生まれてからの記憶が走馬灯のようには走らず、吉本新喜劇のギャグが思い浮かんだとか。また、便意を催し、下半身を露出してしゃがみこんでいる間は無防備な恰好のため、襲われたら死ぬのではと生きた心地がしなかったとも。
日本に居場所が見つからず、海を渡った著者にとって、外人部隊は「帰れる場所」という。外人部隊は外れ者の集まりのイメージだが、OBの親睦会や外人部隊用の老人ホームもあり、ひとつの共同体として成立していることがわかる。最近は日本人の入隊希望者が増えているらしいが、日本の会社や地域が共同体としての機能を喪失したことも無縁ではないのかもしれない。
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