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レビュー

男女が結合した異形の者達が孤島で繰り広げる殺人劇…エログロ全開&精巧トリックに驚愕!『東京結合人間』

【カドブンレビュー】

男性と女性が身体を「結合」し、子孫を残す世界。結合後の見た目は、目が4つに手足は4本ずつとなり、身長は3mを超える。

物語の中心となるのは、この特殊な世界で売春組織を営む男女3人の未結合のメンバー。残虐な嗜好性のため周りから忌避されて生きてきたオナコ、そのオナコになぜか共感して一緒に過ごすようになるビデオ、その2人とは全く異なり、正に優秀で真面目な人生を送ってきたネズミが、映画が好きという共通項で出会い、仕事仲間となる。

仕事とは、アジトであるアパート周辺の少女に売春をさせるのだ。その取り分で生計を立てるという、売春グループのあり方が生々しく描かれているのである。さらに売春だけではなく、少女を監禁するようにもなる。

しかし、ひょんなことから売春組織を閉じることになるが、3人は映画が好きなので、映画を撮ることにした。ある特徴を持った結合人間「オネストマン」だけを島に集めた、ドキュメンタリー映画を撮影しようと思いつくのである。

オネストマン、それは結合人間になるとき、低い確率で発生する。オネストマンはその名称の通り、なぜか「嘘が吐けなくなる」。このオネストマンを集めたところから、物語は殺人事件へと急展開していく。



一体この世界はどういう風景なのか。

未結合の人間と異なる、結合人間の身長の高さや目と手足の数。2種類の人間が共存している、現実と非現実が入り混じったような世界観が、読み進めていくにつれ、自分の中に構築されていく感覚が非常に面白かった。正に日常では味わえない、非日常な風景が頭の中でできあがっていくのである。

オネストマンだけを集めた島で殺人が起こる。そのたびに、オネストマンの特徴である「嘘を吐けない」を生かし、オネストマン同士が質問をしていく。だが、「殺しましたか」の問いに対する回答は「違う」「殺していません」。本来であれば「正直者」しかいない島にもかかわらず、誰かが嘘を言っているため、犯人にたどりつけないのだ。

読み進めていて、オネストマンの特徴は一体何のためなのだろう、なぜこんなに身長が高いのだろうかという伏線が、なるほどこの島で起こる事件の1つ1つの鍵になっているのかと気づいたときに、なんて精緻に前提条件を拾っていく作品なのだろうかと感動した。同時に、そもそも結合人間や、この世界観にはどんな特徴があるのだろうかと思い出し直した。これから立ち向かうであろう謎解きに自分も参加するため、本を読むのを一回止めて前提を整理したのである。私の仕事でいうと、まさに決済を取らなければならないような重要なミーティングの前に、前提条件や諸々のデータを頭の中で整理して臨むかのような、緊張感を持ちながら読み進めていたことに気づいた。

普通の物語ならここで終わりだろう。だが、この作品は普通ではない。ゲームで喩えるならば「本当のエンディング」に向かって新たな展開へと進む。そのため、この段階で中座することはできず、終わりが気になって最後まで目が離せなくなってしまった。

独特な世界観ではあるが、売春組織の身勝手な考え方や、売春していた少女・ヒメコの思惑、オネストマンたちが抱えるオネストマンであることへの苦悩など、感情面での表現も多くあった。ただ、この作品で一番おもしろいと感じたのは、結合人間や世界観など、さまざまな情報を持って、この事件の真相に近づいていくという緊張感のある対決を味わえることだ。それは仕事の中でも、稀にしか来ない勝負のときの感覚と似ていた。


>>『東京結合人間』書誌ページへ


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