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レビュー

“このミス”大賞作家が描く骨太検事に男もホレる!? 佐方貞人シリーズ第2弾『検事の本懐』

【カドブンレビュー】

 先日映画が公開され、『仁義なき戦い』以来の本格極道作品と評価の高い『孤狼の血』の原作は著者初の直木賞候補に選出され、『盤上の向日葵』は今年の本屋大賞で2位を獲得するなど、今大注目の作家・柚月裕子。
 2010年に刊行した『最後の証人』からスタートする佐方シリーズは、柚月ファンの間で名作と呼ばれる人気シリーズであり、その2作目が本作『検事の本懐』だ。2作目ではあるが独立した5編の短編集となっているので、本作からでも十分に楽しめる。

 佐方貞人。
 ボサボサ頭にヨレヨレスーツの、いかにも風采の上がらない青年検事だが、彼は、私がこれまでに出会ってきた中で最も魅力を感じる主人公の一人だ。
 愛煙家でもありハイライトを嗜むという、無愛想な彼が見せる正義へのこだわりは私の心を鷲掴みにして放さない。
「あんたは間違ってる」と、誰もが同情を禁じ得ない事情を抱えた容疑者にも毅然と言い放つ厳しさ。
「やり直しはいつでもできる」と言いながら「やり直すためには罪がまっとうに裁かれなければいけない」と諭す真っ直ぐさや、その後にみせる容疑者へのさりげない優しさには、同性ながら惚れ惚れしてしまう。
 相手が誰であろうが臆することなく正面から向かい合いながら、決して正義を振りかざすことなく、ただ粛々と自らの信念を貫く。時に力強く、時に寄り添うように、誰もがこうありたいと願うそのぶれない姿は、彼の寡黙さと相まってミステリアスな魅力を際立たせている。

 1話目の「樹を見る」は、管内で起きた連続放火事件を追う米崎東警察署署長の南場の視点で物語が進む。放火犯にアタリをつけた南場は、同期のライバルとの確執もあって別件逮捕による容疑者の身柄確保を急ぐ。家宅捜索令状を米崎地検に請求した南場の前に担当検事として現れたのが、赴任後間もない若手検事の佐方貞人だった。事件解決を焦る南場をよそに、事件のなりゆきに違和感を覚えた佐方は独自の捜査を始めるが…。
 続く「罪を押す」では、やるせない真実が隠された事件に本物の優しさで向かい合い、「恩を返す」では事件に巻き込まれた高校時代の友人を救う。4話目の「拳を握る」は大物政治家の贈収賄事件摘発の応援要員として特捜部に呼ばれた佐方の活躍を、そして最終話「本懐を知る」では検事佐方の原点を作った父、陽世のエピソードが描かれる。どの話も事件に関係する他者の視点で物語が進み、読み応えのある人間ドラマの中で佐方という男の魅力を鮮やかに描き出している。

 『孤狼の血』に登場する悪徳刑事大上が荒ぶる正義なら、佐方は静かなる正義といえるのかもしれない。だが作者のこれまでの多くの作品の底に流れる「正義」というテーマの原点は、この佐方シリーズに、いや佐方貞人という人物にこそあるのではないか。私にはそう思えてならない。

 前述のとおり目覚ましい活躍を見せる作者だが、最後にこの場を借りてお願いしたいことがある。
 経験を積み重ねた、今の柚月裕子が描く佐方貞人をぜひ見せてほしい。そう熱望するファンは私だけではないはずだ。
 2016年に発表された単行本未収録の短編「正義を質す」は『孤狼の血』シリーズとのコラボ作品ということだが、そんなことを聞いて柚月ファンとして黙っていられるわけがない。
 佐方に会いたい、早く会いたい!もう待ちきれない!
 柚月先生、どうぞよろしくお願いします!


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