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レビュー

【評者:パトリック・ハーラン】上機嫌の秘訣は「明るめなポーカーフェイス」 『不機嫌は罪である』

不機嫌は罪である』という本が出た。著者である教育学者の齋藤孝(さいとうたかし)先生とはテレビで何度かご一緒しているが、この本のなかで「周りを上機嫌にできる人」の例として僕の名前を挙げてくださっている。とても光栄だ。
 僕は幼いころから上機嫌な人間だ。といっても生まれつきというより環境的な要素が大きかったと思う。
 僕の家は母子家庭で金銭的に辛い時期が多かった。途方に暮れるお母さんを見ながら、僕が元気づけなければならないと強く感じるようになった。だから僕は笑顔を絶やさないようにしたし、お母さんを喜ばせるため、お母さんが笑うふざけ方やジョークのパターンを分析した。この時に人を笑わせることは大切な仕事だと感じ、それが今の職業を選ぶことにつながっている。
 他にも上機嫌になった理由がある。それはモテるため! 年頃になってからは、どんな人がモテているのか、周りを見渡して観察した。なかにはちょっと暗めでミステリアスな人もいたけど、やっぱり人気があるのは、明るくて一緒にいて楽しそうな人だった。
 そこからは笑顔を自分の特技にしようと意識してきた。当時は鏡の前で笑顔の練習をたくさんしたし、タレントになってからももちろん欠かさない。ベストな笑顔を47歳の今でも追求しているし、おかげで若く見られるコツもつかんだ! 口角を上げることで幸せホルモンが出るという話も聞く。まさに「笑う門には福来たる」だ。
 もちろん僕にも辛いことは起こるし、嫌な気分になったりもする。ただ、それでも表には出さないよう「明るめなポーカーフェイス」は欠かさず、超不機嫌を0、超上機嫌を100としたときに、45〜70ぐらいの表情を保つことを強く意識している。周りを不快にさせないという配慮でもあるけど、表情で冷静さを保つことが、体の内側にも影響して、気持ちを落ち着かせることにつながっていると感じている。
 また、小さなミスに自分の機嫌を左右されることが少なくなったのは、年を重ねるなかで「時間がたつとどんな気持ちもそのうち流れていく」と気付けたことが大きい。
 今でも失敗したなあと憂鬱に思う時はある。でも天気と同じで雨や曇りであってもいつかは晴れる。だからこそ、自分を客観的に見ながら酸っぱい気持ち、苦い気持ちをむしろ前向きにかみしめようという気分になれている。だいたい最悪な気分になったとしても、それが最悪な結果なのかは実はわからない。仕事がなくなり、もっといい仕事が入る。住宅ローンの都合で部屋をあきらめたあと、もっといい部屋に出会える。こういった「(わざわい)を転じて福と為す」経験が結構ある。だから未来を信じる。失敗しても後で話のネタにできれば十分元が取れるしね。
 それでも引きずるような時は気分転換にお笑い番組を観る。とりわけアメリカのブラックユーモアは大好き。極端なシチュエーションをネタにしているものが多いため、一通り笑い終わったら、まだまだ自分は大丈夫だと気持ちを切り替えることができる。
 僕自身は日本人が不機嫌だと感じることはあまりない。とりわけサービス業の人たちの接客術はトップレベルで気持ちいい。アメリカではサービス業でも無愛想な人は結構いるよ。
 けど真面目すぎて笑顔の場面が少ない人はいるように思う。居酒屋での姿を見れば本来明るくふるまえるはずなのに、仕事場では眉間に(しわ)が寄ってしまっている人。そのことで不機嫌に見えて損をしていたら実にもったいない。
 機嫌がコミュニケーションに与える影響はとても大きい。本書の主張である「もっと自分の気持ちや、自分の見られ方を意識しよう」というのはまさにその通りだと思う。
 僕は東工大でコミュニケーションの授業をするなかで(講義の内容は『ツカむ!話術』という本になった)、日本人に足りないと思うものとして「自覚、自信、自己主張」という話をしている。
 自分の機嫌を自覚しよう。自分の上機嫌が周りに与える良い影響を知ろう。そうすれば自信も出てきて、もっと自分を出していけるようになるはず!


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